脂質異常症
こんにちは。橋本です。
多量のステロイド薬を長期に投与を続けると、脂質異常症(ししつ・いじょうしょう)をおこすことがあります。
脂質異常症が続くと、動脈硬化(どうみゃく・こうか)になりやすくなり、放置すると心筋梗塞(しんきん・こうそく)につながる恐れもあります。
ふつう、脂質異常症や動脈硬化には、まったく自覚症状がありません。
そのため、検査で見つけないかぎり、脂質異常症は放置されてしまうんですね。
脂質異常症、動脈硬化を放置すれば、血管が詰まってしまう、心筋梗塞や脳梗塞をおこししてしまうことになりかねません。
心筋梗塞や脳梗塞といった命にもかかわる発作をおこしてから、事の重大さに気づかされることも、実際によくおこっています。
脂質異常症(ししつ・いじょうしょう)とは?
脂質異常症とは、血液中の脂肪成分、具体的にはコレステロールや中性脂肪が多すぎになる病気です。
血液の中にアブラがあるというと、あまりピンとこないですが。
実際には、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸といった4種類の脂質が、血液中にとけこんでいます。
この脂質の中でも、コレステロールや中性脂肪が多くなると困るわけです。
コレステロールや中性脂肪が多くなってしまうのが、脂質異常症。
これを聞くと、「コレステロールとか中性脂肪が多すぎるのって、高脂血症じゃないの?」と思う人もいるかと思います。
脂質異常症は、以前広く普及していた「高脂血症(こうしけっしょう)」とよばれる症状と同じものを指します。
コレステロールの種類によっては、血中での濃度が高いことが望ましいものもあることから、2007年以降、「高脂血症」という名前を「脂質異常症」に改めるようになったんですね。
ただし、「高脂血症」という名前自体がなくなったわけではないので、病院や薬局で「高脂血症」と診断されたり、「高脂血症のお薬ですよ」と説明を受けるかもしれません。
脂質異常症の3つのタイプ
脂質異常症には、3つのタイプがあります。
1) LDLコレステロールが多いタイプ(高LDLコレステロール血症 140mg/dL以上)
2) HDLコレステロールが少ないタイプ(低HDLコレステロール血症 40mg/dL以下)
3) 中性脂肪が多いタイプ(高トリグリセライド血症 150mg/dl以上)
LDLは、低比重リポタンパク(Low Density Lipoprotein)のこと。
対して、HDLというのが、高比重リポタンパク(High Density Lipoprotein)のこと。
よく「悪玉コレステロール」といわれるのがLDLコレステロールで、「善玉コレステロール」といわれるのがHDLコレステロールです。
コレステロールを運ぶLDL、回収するHDL
たとえるなら、LDLは運び屋のコレステロールです。
肝臓から血液中に運ばれるコレステロールを、LDLコレステロールとよぶんですね。
しかし、どんどんコレステロールが運ばれて血管にたまってしまうと、動脈の壁にへばりつき、動脈が厚く硬くなってしまいます。
これが動脈硬化といわれる状態。
この動脈硬化をうまく解消してくれるのが、HDLコレステロール。
運び屋のLDLに対して、HDLは掃除屋のようなコレステロールです。
HDLコレステロールは、血管にたまったコレステロールを回収して肝臓に戻してくれます。
このバランスが保たれるから、健康な血管が維持できるんですね。
逆にいうと、このバランスが崩れた状態が脂質異常症であって、そのまま放っておくと動脈硬化になってしまうわけです。
中性脂肪は?
中性脂肪は、それそのものが動脈硬化の原因にはなりません。
しかし、中性脂肪が多いと、回収役のHDLコレステロールが減って、LDLコレステロールが増えやすくなります。
つまり、中性脂肪が間接的に、動脈硬化の原因になってしまいます。
ステロイド薬による脂質異常症の特徴
ステロイド薬による脂質異常症の特徴は、悪玉といわれるLDLコレステロールとトリグリセリド(中性脂肪)が増えること。
さらに、善玉のHDLコレステロールも増えやすいのですが、なぜ増えるのかについては、まだはっきりわかっていません 1) 。
ただ、ステロイド薬を服用したからといって、すぐさま急激に、血中のコレステロールや中性脂肪が多くなるわけではありません。
ステロイドを大量に服用すると、2~4週間ほどで、徐々に血中のコレステロール濃度が上昇するといわれています。
こうした脂質異常症から、さらに動脈硬化、心筋梗塞の危険性がいわれるのは、実際の例があるためです。
たとえば、全身性エリテマトーデス(SLE)という全身に原因不明の炎症が起こる病気で、大量のステロイド薬で治療をした若い女性、36人の症例です。
心臓を動かす筋肉に酸素を運ぶ役目をする血管、それを冠動脈(かんどうみゃく)というんですが、42%の患者で冠動脈に動脈硬化の跡がみられたこと。
さらにその半数で心筋梗塞を確認したことなどが、1975年に報告されています 2) 。
ただこのような例では、全身性エリテマトーデスという、もともとの病気の経過なども関係します。
現在では、ステロイド薬の投与がそのまま動脈硬化につながるという考え方に、疑問を投げかける報告も出てきています。
対策はどうすればいいのか?
脂質異常症の予防は、食事内容に気をつけることが基本です。
・ コレステロールの多い食品、脂っこい食事を少なくする
・ 食事の総エネルギー量を制限する、摂取カロリーをおさえる
この2つですね。
さらに、禁煙、適度な運動など、生活習慣を改善しても、なかなか効果が得られない場合もあります。
その場合は、脂質異常症の治療薬を使います。
治療薬は、相互作用や副作用に注意
一般的には、LDLコレステロールを下げる目的で、スタチン系のHMG-CoA還元酵素阻害薬(商品名:リバロ、クレストールなど)。
それから、中性脂肪を下げる目的で、フィブラート系の薬がおもに使われます。
そのほか、コレステロール吸収をおさえるのを目的として、陰イオン交換樹脂やプロブコールなども使ったりします。
ただし、こうした治療薬には、たがいの薬が影響しあう相互作用や副作用があるので、お医者さんの説明をよく聞いた上で、治療を進めることが重要です。
大事なのは予防と早期発見
脂質異常症を放置すると、動脈硬化をまねき、そのことがさらには、高血圧の悪化、心疾患や脳卒中をまねくことにもなりかねません。
ときには、命にかかわることになったり、後遺症が残ってしまうことにもなります。
脂質異常症は、実際になってしまっても自覚症状がないため、ステロイド薬の投与を始めたら、必要に応じて食事内容に注意したり、定期的な血液検査で早期発見をすることが大切です。
また、もともと脂質異常症がなっかたのなら、通常、計画的にステロイド薬の投与が終了すれば、脂質異常症は改善に向かいます。
参考文献:
1) 大須賀 淳一: 薬剤性脂質異常症. 内科 103(1): 105, 2009.
2) Bulkley BH, Roberts WC: The heart in systemic lupus erythematosus and the changes induced in it by corticosteroid therapy. A study of 36 necropsy patients. Am J Med 58(2): 243-264, 1975.