ステロイドによる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
こんにちは。橋本です。
多量のステロイド薬の服用を続けると、骨の密度が薄くなることで、骨がもろくなる症状。
いわゆる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)をおこすことがあります。
ただし、同じくステロイドを内服した場合におきることがある副作用、無菌性骨壊死(むきんせい・こつえし)とは、また違ったメカニズムでおこります。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とは?
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とは、骨の中がスカスカの状態になり、骨がもろくなる病気です。
骨粗鬆症の鬆(しょう)は、難しい漢字なので、よく「骨粗しょう症」と、ひらがなで病名が書かれていることも多いですよね。
鬆(しょう)というのは、鬆(す)と読むこともできます。
料理では、「中がスカスカになっている」ことを、よく「“す”が入ってる」と言ったりしますが、この“す”っていうのが、じつは漢字で書くと“鬆”。
「“鬆(す)”が入ってる」って書くんですね。
“鬆”の漢字は、松の葉の重なりように、向こうがすけて見える状態をあらわしたもの。
つまり、「中がスカスカな状態」です。
ダイコンやゴボウ、スイカ。それから、豆腐、茶碗蒸し、スポンジケーキの中に大きな気泡が入ってしまうのを、「“鬆(す)”が入ってる」なんて言います。
あの状態が、骨の中におきるのが、骨粗鬆症とイメージしてもらえればいいのかなと思います。
骨の中が粗く(あらく)、スカスカになってしまう病気。
だから、骨粗鬆症なんですね。
子どもは、骨粗鬆症とは無縁じゃないの?
「でも、骨粗鬆症なんて、おばあちゃんがなる病気じゃないの?」
たしかに、その通りです。
よほど、「運動しない」「屋外に出ない」「栄養がかたよっている」といったことがない限り、子どもが骨粗鬆症になることが、普通はありません。
ただし、ステロイド薬を内服などで、全身に投与していると、子どもでも骨粗鬆症のリスクが上がることが知られています。
骨も日々、新しいものに入れ替わる
目には見えないですが、皮膚や血と一緒で、人間の「骨」も、じつは日々新しいものに入れ替わっています。
といっても、一気に入れ替わるものではなく、1年に骨全体のおよそ20~30%が入れ替わる、非常にゆっくりしたスピードだといわれています。
皮膚や血の再生に比べれば、とてもゆっくりですよね。
ゆっくりだとしても、日々新しいものに入れ替わってるからこそ、骨折しても、きちんと元に戻るわけです。
骨の入れ替わりには、体の2つの機能がかかわっています。
「骨吸収」とは?
その1つが、骨吸収(こつ・きゅうしゅう)。
骨には、破骨細胞(はこつ・さいぼう)という「骨の解体工事」の役目をする細胞がいます。
この破骨細胞が古い骨を溶かし、溶けたカルシウム(Ca)が血液中に吸収されていく。
それを、骨吸収とよんでいます。
もう1つの「骨形成」とは?
反対に、「骨吸収」によって破壊された骨を再生させる体の機能。
これを骨形成(こつ・けいせい)とよんでいます。
古い骨を溶かしていた破骨細胞に対して、新しい骨を作る骨芽細胞(こつが・さいぼう)。
この骨芽細胞が新しい骨を作る「骨形成」をおこないます。
・ 骨吸収 → 古い骨を溶かす
・ 骨形成 → 新しい骨を作る
単純にいうと、人間は、この「骨吸収」と「骨形成」を常に繰り返して、骨をキープしているわけ。
子どもの骨が順調に大きくなっていくのも、この繰り返しをうまくおこなっているからこそ、なんですね。
なんで、ステロイドで骨粗鬆症になるんだい?
しかし、ステロイド薬を投与すると、骨形成の機能が低下する反面、逆に骨吸収の機能は向上してしまいます。
正常だった「骨形成」と「骨吸収」のバランス。
つまり、保たれていた「新しい骨を作る」と「古い骨を溶かす」のバランスが崩れてしまう。
「新しい骨を作る」機能が弱くなり、「古い骨を溶かす」機能が優位になってしまうわけです。
実際には、ステロイド薬を投与すると、
・ 腸からのカルシウム(Ca)の吸収が低下する
・ 尿からカルシウム(Ca)が多く排出されやすくなる
・ 女性ホルモン(または男性ホルモン)がおさえられることで、骨吸収が進む
・ 破骨細胞の自然死がおさえられるため、破骨細胞が活動しやすくなる
・ 自然死をしやすい骨芽細胞の割合が増えるため、骨芽細胞が活動しにくくなる
といったことがおこるといわれています。
ちょっと内容がややこしくて、考えてると目が寄り目になりそうですが(苦笑)。
高齢者の方で、骨粗鬆症がおこりやすいのは、閉経後に女性ホルモンがおさえられるために、骨吸収が進むからなんですね。
ステロイド薬投与の場合には、さらに「骨芽細胞が活動しにくくなる」要素も加わるので、より注意が必要なわけです。
ただし、同じくステロイドを内服した場合におきることがある副作用、無菌性骨壊死(むきんせい・こつえし)。
これも、「ようは骨粗鬆症と同じだろ?」と思ってしまいがちですが、おこりかた、メカニズム、治療法がまったく違うので、そこにも注意ですね。
最初の数ヶ月は骨折に要注意
ステロイド薬による骨粗鬆症は、高齢者、更年期以降の女性。そして、子どもでも、より出やすくなります。
とくに、運動をしていない、ベッドで安静にしている状態だと出やすくなります。
骨量の減少率は、ステロイド投与後、初めの数ヶ月は8~12%と高く、その後は年に2~4%の割合で骨量が減少していくという報告もあります 1) 。
つまり、ステロイド薬を長期投与する場合は、最初の数ヶ月~半年ぐらいまでは、とくに骨粗鬆症に注意しておく必要があります。
骨粗鬆症で、通常の骨折をしてしまうのはもちろん。
とくに圧迫骨折という、腰や背中の骨がもろくなってつぶれる骨折。
こういった骨折は、QOLを急激に低下させるので、ステロイドによる骨粗鬆症を予防することは、とても大切です。
骨塩定量(こつえんていりょう)を測る
長期のステロイドの内服が必要と判断される場合は、骨塩定量(こつえんていりょう:骨の密度を測る検査)を定期的に受けて、骨粗鬆症の危険がないか、経過をチェックします。
骨塩定量は、放射線を照射して、骨のミネラルを測り、骨の密度を予測する検査です。
あくまでも予測なので、骨塩定量が、正確に骨粗鬆症の状態をあらわすわけではありません。
しかし、たとえ背中や腰などに痛みがなくても、骨粗鬆症を早期発見するには、骨塩定量による定期検査によるデータが、大きな参考になります。
予防するには?
まず一番にできる骨粗鬆症の予防は、適度な運動。
そして、十分なタンパク質、牛乳、小魚、葉野菜、緑黄色野菜、海草類などの十分なカルシウム(Ca)を含んだ食事を摂ることが大事です。
さらには、ステロイド薬の投与が長期におよぶことが、あらかじめ分かっている場合。
予防段階では必要に応じて、活性型ビタミンD3製剤(製品名:ワンアルファなど)などの治療薬を服用します。
さらに骨粗鬆症のリスクが高いと思われた場合、ビスホスホネートという骨吸収をおさえる治療薬を使うことがあります。
古い骨が溶かされていくのをおさえることで、骨粗鬆症にならないようにするわけですね。
ただ、子どもの場合には、ビスホスホネートは注意が必要です。
ビスホスホネートは高用量で効果がみられたという報告があるのはたしかです。
しかしその反面、長期の使用によりアゴの骨に異常が出たり、足の骨に(骨粗鬆症でない)骨折をおこしたりすることが知られています 2) 。
そのため、ビスホスホネートの使用は、お医者さんと症状についてよく話しあった上で、慎重に決めることが望まれます。
参考文献:
1) 鈴木 康夫, 若林 孝幸, 齋藤 栄子, 小宮 喜代里, 野口 淳: ステロイド性骨粗鬆症の海外の予防・治療ガイドライン. THE BONE 19(5): 583-587, 2005.
2) Hiroyuki Tanaka: Glucocorticoid induced osteoporosis in childhood:prophylaxis and treatment. Clinical Calcium 19(4): 569, 2009.