平城上皇は旧都に平安京から役人らを呼び、嵯峨天皇が「二所朝廷」と危険視する情勢となったのち、大同五年(810)九月六日、ついに上皇が平城京へ還都する旨の命令をだすに至ります。
嵯峨天皇はこれを上皇の政権奪取の動きと見たのでしょう。
畿内の関所に軍勢を送って上皇の動きを封じ、平安京にいた藤原仲成を捕えました。
上皇はやむなく薬子や役人、兵たちを連れて東国へ逃れようとしますが、一行は大和国を出ることもかなわず、京都の朝廷の兵に遮られて奈良へ引き返し、上皇は出家、薬子は自害しました。
以上の経過を見ると、明らかに京都と奈良の二所朝廷間の権力争いであったにもかかわらず、薬子と仲成を除き、奈良の朝廷側の役人らはほぼ罪を問われませんでした。
ここで彼らの罪を問えばしこりが残るからです。
つまり、嵯峨天皇は上皇といわば不適切な関係にあった薬子とその兄二人に責任のすべてを押し付け、朝廷分裂の危機を回避したのです。
藤原薬子が上皇の寵愛を楯に政治を恣にしたという具体的な事例は見いだせず、むしろ彼女は、嵯峨天皇によって悪女の汚名を着せられた被害者だったといえるでしょう。
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