これまで述べてきた事実関係を踏まえ、昭和の初めに作家の子母澤寛氏が『新選組始末記』を書き、そこで「(池田屋騒動の際に総司が)喀血して昏倒した」という話が定着したのではないでしょうか。
そもそも、もろもろの史料からみて沖田の病状が悪化するのは、幕末の騒乱のクライマックスといえる慶応3年(1867)の夏以降です。
というのも、医師の松本良順が明治にまとめた回想録によりますと、新選組の屯所が壬生から西本願寺へ移ったのちの慶応元年(1865)閏5月、松本がいまでいう隊士らの集団検診をおこなった際、「難患(難病の患者)は心臓肥大と肺結核と二人のみ」という結果になっているからです。
心臓肥大患者はその年の11月に亡くなった尾関弥四郎とみられ、肺結核患者は沖田のことでしょう。
その年に総司は明らかに結核の症状を呈していたのだと思います。
しかし、離脱せざるをえない喀血というのはかなり病状が悪化してからの症状です。
前年の池田屋騒動の際にそこまで症状が悪化していたのなら、その後、総司はまともに隊士活動ができなかったはずです。
彼が慶応4年(1868)5月30日、肺結核で亡くなったのは事実ですが、その悲劇性は脚色されていたといえるのではないでしょうか。
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