『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』の公開も間近に迫ったのでね、復習も兼ねて『グラディエーター』を観ました。
ゲルマニアとの戦いに勝利したローマ帝国。
皇帝アウレリウスは軍を指揮した将軍マキシマスを称え、その人柄を見込んで次期ローマ皇帝の座を彼に譲ろうと考える。これを不満とするアウレリウスの息子コモドゥスは父を殺害。新たな皇帝となったコモドゥスへの忠誠を拒否したマキシマスは処刑を言い渡される。
間一髪のところで逃げ出したマキシマスは故郷に帰るが、コモドゥスの手先により村は焼け、そして妻子さえも…。
興行師プロキシモに身柄を買い取られたマキシマスは奴隷として、大衆の娯楽として戦う剣闘士になる事を強いられる。そんな折、ローマで行われている闘技大会に参加する事になったプロキシモの一団。
闘技大会を主催する、そして妻子の仇であるコモドゥスを前にし、マキシマスは自らの正体を明かし……といったお話。
古代ローマの英雄譚と言えば『ベン・ハー』や『スパルタカス』を思い浮かべますが、本作も含め、お話は似たような感じです。
皇帝の寵愛を受ける→皇帝の嫡子の嫉妬により身分を剥奪される→奴隷となって剣闘士になる→大衆を味方につけて皇帝に立ち向かう……と、大同小異でこんな感じ。
さらに言えば、尺が3時間前後(本作のエクステンデッド版は171分)ってんだから、まぁまぁの覚悟を以て鑑賞に臨む作品です。
大軍を率いる将軍でもあるマキシマスは農民の出身であるが故か、兵士からの人望も厚いようです。後方でアゴを動かすタイプではない、自らも兵たちと共に前線に赴き戦う姿を見れば、なるほどと思いますよね。
生真面目で高潔、部下から慕われるだけでなく皇帝にもハッキリとダメ出しをする姿なんか、理想の上司像に相応しいくらい。
笑顔の印象が薄い(笑)ラッセル・クロウさんの、間違いない代表作でしょうね。
そんなマキシマスの仇敵であり、市民に圧制を強いる新たな皇帝コモドゥス。
序盤からそんな空気が漂っていましたが、コモドゥスはマキシマスに対して明らかに妬みの感情を抱いています。父であるアウレリウスのみならず、姉ルッシラさえもコモドゥスを視界から遠ざけていたのは、マキシマスの存在があったからです。
つまり、愛情の渇望こそがコモドゥスを歪ませてしまった一因なんじゃないかと。
そのせいか、アウレリウスやルッシラと会話をするシーンでは、常に目に涙を溜めているように見えるんですよ。悪辣非道でありながらも、どこか憎み切れないどころか悲哀さえ感じさせるのはホアキン・フェニックスさんの名演あってのものだと思います。
オメーなんざさっさとマキシマスに殺されてしまえ!と思う人は、意外に少ないんじゃないかな。
マキシマスはその昔、コモドゥスの姉であるルッシラといい感じの仲だったようです。
ここで気になるのはマキシマスの女性遍歴(?)で、ルッシラとキチンと別れた上で今の奥さんと結ばれたんでしょうか?と。
そうである事に間違いはないんでしょうが、今や奥さんがいないからって、僅かながらにもルッシラへの思いを残しているのが残念。
ラブシーンを入れろと映画会社が横槍を入れたのが見て取れますが、このせいでマキシマスが割と女にだらしないのかなと勘繰っちゃうんですよね。まさか同時進行=不倫だったとしたら……本作は確実に音を立てて崩壊します(笑)。
特に50~60年代に作られた古代ローマ作品と言えば、兵士であればミニスカ(?)にサンダルというスタイルを初め、まぁ史実に基づいてはいるんだろうけど、時代劇とは言え着るにはチト恥ずかしい衣装が多いです。ああいうのを着たくないという理由で、この手の作品へのオファーを断る俳優の話も稀に聞くし(笑)。
が、それらに比べると衣装が格段にオシャレになってます。なるほど、アカデミー賞の衣装デザイン賞も受賞したのも納得。
史実からはかけ離れてしまうんだろうけど、そこまでの破綻はないくらいの、あくまで"それっぽく見える"絶妙なデザインに思えます。コモドゥスの衣装なんか、普通にカッコいいもんなぁ。
人類の歴史上、人間の命が軽んじられる事はこれまでに多々あり、戦争では国のため、西部開拓時代では金のため、そして本作のように見世物=エンターテインメントとして人命のやり取りがありました。
マキシマスは闘技場の観客たちに命の奪い合いを見るのがそんなに楽しいのかと問いますが、その答えはYES。殺せコールが会場を渦巻くシーンは胸クソ悪くなりますね。
現代では声に出す人は減りましたが、文字としてそんな願望を表す人が増えました(遠回しな言い方ほど偽善的に思える)。自分は手を下さないけど、赤の他人同士が傷付け殺し合う姿を見たがる欲求とは、大昔から人間に染み付いている業なんでしょうね。
ところで、マキシマスの奴隷仲間にハーゲンという大男(演じているのはラルフ・メラーさんという人)がいますが、顔立ちが何とな~く『スパルタカス』のカーク・ダグラスさんを思い出しませんか?
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Blu-ray版は劇場版とエクステンデッド版=完全版をダブルで収録。コレクターズ仕様の本編ディスクをバラ売りした廉価版なのか、映像特典はほぼありません。
監督のリドリー・スコットさんとマキシマスを演じたラッセル・クロウさんによる対談式の音声解説を30分ほど聞きましたが……観る前から『~Ⅱ』の雲行きが怪しくなってます。グレーで良かったのに、白黒ハッキリさせちゃうのかよと。