『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』を観ました。
セカンドインパクトと呼ばれる未曽有の大参事に見舞われた世界。
父ゲンドウに呼び出され、第3新東京市にやってきたシンジは、国防軍が巨大生物と戦っている光景に唖然とする。
迎えに来たミサトに連れられ特務機関ネルフの本部にやってきたシンジは、巨大な人型兵器エヴァンゲリオンを目の当たりにする。先の巨大生物=使徒に対抗し得るのはエヴァンゲリオンだけであり、ゲンドウがシンジを呼び寄せたのもパイロットに任命するため、だたそれだけだった。
嫌々ながらもエヴァンゲリオンに乗り込み、辛くも使徒を殲滅するシンジ。ゲンドウが推進する人類補完計画が着々と進行する中、使徒との果てない戦いを余儀なくされるシンジは……といったお話。
日本のアニメ史上に深く爪痕を残す『新世紀エヴァンゲリオン』という作品は本能的なキャラや膨大な設定、随所に散りばめられた伏線、そしてそれらを活かす演出は当時としては新しくも大胆でもあり、確実にアニメの発展を加速させました。
なおかつ難解だった『新世紀~』=旧版に対し、もう少し万人向けに、エンタメ性を持たせてリメイクしたのがこの新劇場版、“エヴァンゲリオン”ならぬ“ヱヴァンゲリヲン”シリーズです。
クライマックス、自分の子供を信じてあげて下さいみたいな、まさかエヴァンゲリオンでそんなベタなお涙頂戴劇を見せられるなんて、旧版にハマッていた人からすれば失望すら感じるかもしれませんが、そんな人情話はエンタメこそ基本ですからね。
…と言っても、気楽に見れるのは今作と次作までなんだがな…(笑)。
リメイクという事で旧版をそのまま作り直すのではなく、設定や解釈の取捨をしているので、旧版を見ていても新鮮な気分で楽しめます。2015年という年代設定や使徒の固有名詞をを廃したりとかね。
旧テレビ版では、回によってシンジへの接し方にブレがあったミサトのキャラが統一されたのも良かったです。前の回ではシンジ君に優しかったのに、今回はやけに当たりが強くない?ってのがよく気になったので(笑)。
旧版のテレビシリーズを観ておけば予備知識を得られますが、本作から見始めても意味不明に思えるところは少ないでしょう。リメイクに伴い解釈の変更もありますが、それらを旧版と比べて改善or改悪と感じるかは人それぞれかな?
逆に、これは変更して欲しかったと思う点もいくつかあります。
手っ取り早いところでは、ゲンドウと綾波が仲睦まじくしている様子をシンジが遠くから眺めるシーン。旧版の時から感じていましたが、ここでの綾波がやたらテンションが高そうで別人感が否めないんですよね。
旧版から約10年後に作られたという事で、ビジュアル面は超絶的に進化を遂げています。CGの使用により解像度や精密さが格段にアップし、テクスチャーもアニメ調で違和感が少ないですね。
作画面においても1から作られているという事で、一編の作品として作画のギャップが少ないのがありがたい。テレビ版の総集編式にすると、各話の原画や作画監督の違いにより顔に差が生じてしまうのが引っ掛かるところですが、それが(ほぼ)ないので統一感があります。
キャストに関しても、10年間のキャリアを積んだ上で役を再構築した芝居は重みを感じます。さらに、声が老いたと思わせる人も皆無なのは拍手モノです。
中でも三石琴乃さんは、テレビ版の頃にはミサトを演じるにはやや若すぎる→あまりハマッていなかったように感じていましたが、この新劇場版になってようやくミサト役にフィックスするように思えるようになりました。新版の後に旧版を見ると、少々モヤッとするんじゃないかな(わざとらしいセリフのせいでもありますが…)。
交代を余儀なくされる事なく、旧版と同じ役でキャスティングできたのも良かったですね。キャストの変更って荒れる要因にもなり得るものですから…。
ところで、エヴァンゲリオンに乗って様々な恐怖体験を繰り返してきたシンジ君ですが……冒頭での、N2地雷の爆発(or爆風)に巻き込まれるシーンは生々しい怖さを感じます…。
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Blu-ray版の映像特典は数多のバージョン違いの予告や特報ばかりで、見どころは特にないように思えます。
封入されているリーフレットもトリビア程度の予備知識ばかりで、本編の理解度を深めるような副読本としての機能は特にありません。
これを久々に読み返してみて思い出したのは、第1作がソフト化された=第2作が製作中であろう頃は今作=『~序』に続き、『~破』『~急』『~?』と前4作として作られ、第3作と4作は同時上映と予定されていた事。
この予定が大幅に変更されたのは周知の通りです(笑)。
旧版にハマっていたいい大人も多かったし、「新エヴァを最後まで見ずに死ねない!」と意気込みながらも、志半ばで亡くなった世代の人も少なくないだろうなぁと…。
そして、リーフレットには庵野秀明さんのコメントが寄せられていて、旧版の完結後から本作の間の話として、“この12年間でエヴァより新しいアニメ作品はありませんでした”と言及しています。
チト挑戦的な物言いに嫌悪する人も多いんでしょうが(その多くが同族嫌悪なんだろうな)、そこで具体的な作品を挙げられる人はいないでしょう。下手な作品を挙げても程度が知れてしまうし。
日本のアニメ史におけるエポックメイキング的な作品と言えば、70年代の『宇宙戦艦ヤマト』、80年代の『機動戦士ガンダム』、そして90年代の『新世紀エヴァンゲリオン』でしょう。
これらは“アニメでもここまで表現できる”という、いわばアニメの可能性を一気に広げた作品群です。
今やアニメは日照権を得たどころか、ヘタすれば邦画界の救世主に近い存在となり得ましたから、そんな位置にまで到達したのであれば、先の3作品のような革命的な作風はもう不要なんでしょうね。
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