観た、『アメリカン・サイコ』 | Joon's blog

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『アメリカン・サイコ』を観ました。

 

完璧なルックスで、若くしてCEOの座に就いているパトリックは、上流階級の仲間と共に高級飲食店で食事をし、金に物を言わせて女を買うような毎日を過ごしている。

しかしパトリックには常態的に殺人の衝動に駆られるという裏の顔があり、今夜も人知れずにホームレスの男や飼い犬を殺しては欲望を満たしていた。

ある日、いつものように集まる仲間の一人であるポールに自尊心を傷付けられたと思い込んだパトリックは、自分の部屋に招き入れたポールを殺してしまう。

ポールは失踪したとされ、探偵のキンボールがパトリックの元を訪れる。曖昧な言動を繰り返すパトリックを怪しむキンボールは、ポールは失踪ではなく、パトリックに殺されたと確信し……といったお話。

 

今や日本でも“サイコ野郎”なんて言葉が普及(?)していますが、その語源と言えば、アルフレッド・ヒッチコックさんの『サイコ』です。

本来サイコ=psychoとは単に精神病患者を指す言葉でしたが、『サイコ』の登場のおかげで、“常人には理解できない異常心理によって殺人を犯す者”=気狂いを表す言葉として変化しているようです。

『サイコ』の主人公ノーマン・ベイツの、気弱でおとなしい青年の二面性がそれほどまでに恐ろしいと感じられた時代からの名残なんでしょうね。

 

かつ、パトリックを演じているクリスチャン・ベイルさんのルックスも、二面性の強調に拍車を掛けます。

程良い濃さの顔だけでなく、美術品の彫刻のような筋肉やスタイル等々、100人中100人が完璧だと思えるルックスではないでしょうか?

映像特典で言及されていましたが、実はレオナルド・ディカプリオさんが本作に出たがっていて、話もあと少しのところまで決まりかけていたようです。今となっては、色んな意味でこっちには出なくて正解だったと思います…。

 

『サイコ』が公開された1960年から今日まで使われる“サイコ”という言葉には、ノーマンだけではなく、アメリカン“サイコ”な本作の主人公、パトリック・ベイトマンの影響も少なからず加わっているかもしれません。

本作の原作が発表された際、あまりのショッキングな内容のため多方面より苦情&抗議が殺到したようですが、なるほど本作を観てみれば、その理由もよく分かります。

 

『サイコ』のノーマンは明らかに“psycho”=精神異常者であり、ああいう行動に走る原因、つまり情状酌量の余地がありました。

が、本作のパトリックに関してはそれがありません。

単純に人を殺したくて仕方がない、何を以て殺人衝動が駆り立てられるのかが分からないのもパトリックの怖さであり、まさに“サイコ”な奴なんですよ。

 

そのヒントの一端となるのが、優越感。

パトリックは、高級そうな化粧品やらを多々使ったり、エクササイズで体を鍛えて筋肉隆々な体を作ったりと、ルックスに過剰に気を遣っています。服装ももちろんハイブランドのスーツ。

さらに、眺めの良い高級マンションに住み、センスのいい音楽について語れたりと、つまりは完璧な自分を追求する超ナルシストなんですよ。3Pの真っ最中、鏡の中の自分に酔いしれているのを、余った相手(笑)が呆れ半分に見ているシーンがパトリックの人物像を上手く表しています。

それ故、そんな優越感に水を差されるとカチンと来てしまう、他人に触られるのを極度に嫌うのもその表れでしょう。

でも、それだけがパトリックの殺人衝動ではないのは一目瞭然。

“サイコ野郎”という言葉には病的という意味も含み、病という不可抗力が同情の余地を与えていますが、パトリックにそれは(ほぼ)なく、一片の同情の余地もないただの“殺人狂”なんです。そこが不気味、そこが怖い。

苦しいor悲しい過去が彼を殺人狂に変えてしまった、その出来事とは……みたいなダッセー蛇足はエピソード・ゼロ商法で勝手にやって下さい(笑)。

 

パトリックは殺人だけでなく、女性への接し方にも問題があります。

ハイソ(サエティ)のエリートを気取っているせいか、女性をスゲー見下すんですよね。女を買うのはいいけど、なかなかマニアックな事を要求するあたり、性癖も上級者のそれです(笑)。

殺人より、こっちの裏の顔の方が気持ち悪いと思う人も少なくないんじゃないかな?

 

本作を真面目に観る女性ほど、気分を害する作品に感じるんじゃないかな? 男の俺ッチが観てもそう思えるくらいだし。

こんな男尊女卑度200%な作品ですが、監督と脚本を担当しているのが共に女性というのも意外です。

 

そして、更なる惨劇が始まりそうなラストも怖いですね。まさか、やっちゃうのか?みたいな…。

 

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本作を端的に表しているとは言え、ちょっと嫌悪感を抱きそうなジャケットがマイナス要素ですかね。ブラックコメディの度が過ぎているというか…。

 

Blu-ray版の映像特典は本作を振り返るものと、80年代のアメリカを回顧するものを収録。

2006年頃のインタビューですが、フェミニストとその運動には2種類があるという話は興味深かったです。現代の暴走思想はおかしいんだよな。