観た、『人間の証明』 | Joon's blog

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『人間の証明』を観ました。

 

▲この無邪気な笑顔を終盤に思い出すと…

服飾デザイナー八杉恭子の新作発表会が行われているビルのエレベーターで、“ストウハ”と言い残した男が死んだ。

警察の調べによると、死んだのはジョニーというニューヨーク出身のアメリカの黒人男性で、所持品は麦わら帽子と西條八十[サイジョウ・ヤソ]の詩集だったという。

同じ頃、恭子の息子である恭平は、車で女性を轢死させてしまった。これを知った恭子は事件の揉み消しを図り、恭平をニューヨークに向かわせる。

刑事の棟居[ムネスエ]は、恭子が二つの事件に絡んでいると推測。ジョニーの身の上に関する聞き込みのためニューヨークへ飛んだ棟居は、シュフタン刑事と組んで捜査を開始する。

その中で、棟居はシュフタンが自分の過去に関係があった事を知り……といったお話。

 

80年代後半くらいでしょうか、日本で公開される映画は洋画が多くなり、“洋高邦低”=邦画が低迷した時期が続きました。近年では再び立場が逆転し、邦画が圧倒的に増えているのは周知の通りです(主観ながら、この逆転のきっかけとなったのは『リング』と『踊る大捜査線』に思える……のは気のせいかな?)。

洋画に逆転される前の、70~80年代前半の映画と言えば、角川映画が盛り上がっていた記憶があります。見識の狭いアニメバカだった当時の俺ッチですら、実写の映画で知ってるのは角川映画ばかりでしたし(それだけ宣伝に力を入れていた裏付けでもあるんでしょう)。

そんな角川映画に興味を抱いたので、ウン十年もの後に鑑賞したわけですが、ずいぶんスケールの大きな、れっきとした“映画”を作っていたんだなと感心、というより驚きでした。

 

「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでしょうね? ええ、夏、碓氷[ウスイ]から霧積[キリズミ]へ行く道で谷底へ落とした、あの麦わら帽子ですよ。母さん、あれは好きな帽子でしたよ」 ♪ママ~、ドゥーユーリメンバ~♪

公開当時、劇中にも出てくる西條八十さんの『帽子』という詩の一節はCMでよく見聞きしたものです。

そんな、ちょっとした流行ワードにもなっていた記憶が、うっすら残っている程度の先行情報のみを以て本作の鑑賞に臨みましたが、そんなにヘビーなキーワード(ならぬキーセンテンス?)だったとは目からウロコでした。

 

しかしまぁ、この頃のテレビドラマもそうでしたけど、親子関係を明らかにしようとする作品が多い時代でしたね。

今では親が変わる事なんて事はザラにあるようですし、そんな時代背景もあるからこそ親探しのドラマなんてのは絶滅したに等しいんでしょうが、本来であれば子供にとっちゃ不幸な話です。親は要らないと感じても、子供が真の親の愛情を本能的に求めるのはどんな時代にも変わらないはずなのにね。

そんな親と子の、悲しい追いかけっこに胸が苦しくなりました。

 

これだけで片付けてしまえば、テレビの2時間ドラマで済みそうなお話に思えますが、かなり本格的なニューヨークでのロケも敢行していて、何気にスケールの大きな作品なんですよ。

▲これ、日本映画なんだぜ…?

アメリカ(のアクション)映画と同等くらいのカーチェイスも見応えがあります。

こういうアトラクション的なシーンもあるし、立派に“映画”してるんですよね。

 

これは常々言うんですが、古い映画の魅力は実物を映している点にあります。

「これ、どうやって撮ったんだ?」とか「よくこんなの撮れたな?」と思うくらいに見とれるカットは、どんな古い作品にもあるものだし、CG(や特撮)に慣れきっている今だからこそそう実感できるものだと思います。

▲こういう画を“作る”のではなく、自力で“撮る”のが昭和映画の魅力

たとえ画質は粗くても、絵画のように美しいワンショットというか、画ヂカラを感じるカットに見とれます。

 

主役の棟居を演じるのは松田優作さん。

後半でニューヨークに着いた先での芝居は9割が英語で、後年の、遺作になる『ブラック・レイン』を連想します。

『ブラック・~』の関係者が松田さんをキャスティングする際に、本作を参考にしたという話は全く聞こえませんが、ある意味において『ブラック・~』の前哨戦となった作品なのかもしれませんね。

 

棟居は幼少時代に進駐軍であるアメリカ人に父親を殺された過去を持っています。

これがただのリンチならまだしも、その後の一斉射(笑)がもう胸クソ悪くて…。少年時代の棟居でなくても、数年は頭に残りそうな破壊力があります。

そして、ニューヨークでの捜査に協力するシュフタンがその中の一人である事を知った棟居はどうするのか? シュフタンを許すのか、または復讐に走るのかというのも見どころです。

ああいう役や芝居をする松田さんが演じているんだから、なおさらにヒヤヒヤします(笑)。

 

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Blu-ray版の映像特典は予告編のみ。

先にも綴った詩の一句もあるので、当時CM等で見知りした人はちょっとだけ懐かしい気持ちになれますよ。

 

本当はジョー山中さんの歌う『人間の証明のテーマ』もオススメしたかったんだけど、変なアレンジorカバー版しか見当たらなかったので割愛…。