『嵐を呼ぶ男』を観ました。
今夜も銀座のナイトクラブで演奏するシックスジョーカーズ。中でも気鋭のドラマー、チャーリー桜田はバンドを支える人気を誇っていた。
そんな折、マネージャーの美弥子を訪ねてきた英次は、兄の正一をバンドで使ってやって欲しいと懇願する。近頃では増長どころか仕事をボイコットするチャーリーに手を焼く美弥子は、代役として正一をドラムに起用。正一の才能や実力は目を見張るものがあり、たちまち人気者になる。
数多の援助や妨害に遭いながら、そして美弥子とも結ばれ、正一はついにナンバー1の座を得る。
しかし、誰よりも喜んで欲しい母親は正一を快く思わず……といったお話。
本作は1957年の作品で、俺ッチよりひと回りどころか、ふた回りも歳上の方々の話を聞くと、この頃の石原裕次郎さんの人気は想像を絶するもので、今で例えられる人がいないほどだったとか(まぁ今ほど娯楽の種類が少なかった時代ですからね)。
そんな石原さん=裕ちゃんの代表作であり、裕ちゃんを語り継ぐための入門作でもあるかもしれません。
例えば加山雄三さんの若大将シリーズ、木村拓哉さんのキムタクシリーズ(笑)等々、主演俳優のヨイショ映画は多々ありますが、本作もそれに近いものがあります。
手を負傷してのドラム勝負で不利になった正一が、ドラム合戦にもかかわらず苦し紛れに歌い出すのが大受けするとか、失笑を通り越して、もはや痛快です。
…でも、「この野郎、かかって来い! ~」という曲間に入る台詞の意味を考えると、怪我の原因になった闇討ち事件を歌にして示唆→公に臭わせるあたり、なるほど正一はミュージシャンとして戦っているんですね(笑)。
現代において、バンドの中で一番地味と言われるのがドラム(とかベース)ですが、本作が公開された時代ではドラムは花形ポジションだったようです。正一のみならず、前任者であるチャーリーもそうだったし。
そんな時代もあったんだ、地味な仕事だと腐っているドラマーの皆さん、本作のようにいつかは陽の目を見る機会も来る!はずです…。
♪おいらはドラマー、やくざなドラマ~♪という、歌としての『嵐を呼ぶ男』はよく知られていますが、同名の映画を知っている人は、そろそろ減りつつあると思います。
特に若い人であれば、あの曲調からコメディ系の作品を想像しそうですが(笑)、割とシリアスな作品です。
正一と母親=貞世との愛憎関係も本作の見どころの一つ。ラストを見る限り、どうやらこれがお話の主軸のようです。
貞世は弟の英次は可愛がりますが、自分を苦しめた夫の悪い所ばかりが似てしまった兄の正一を蛇蝎のごとく嫌います。“お前のためを思って云々”と言った、しつけとして厳しく接するのではなく、心底より嫌悪しているので愛情はひとかけらもありません。正一がナンバー1になったとしても全く褒めたりもせず、正一と同じく英次も音楽の道を進もうとしているのが正一のせいだとすら思っています。
正一が音楽に入れ込むのは、母親を見返すというネガティブな発想ではなく、母親に認められたいという、愛情を求める一心なんですよね。
正一は普段は荒っぽいキャラですが、そこで『理由なき反抗』のようになるほど子供でもなく、いつか母親が自分の努力を理解してくれると信じる姿が健気で健気で…。
そんな二人の関係、というより正一に対する貞世の固定観念が、いつどうやって氷解するのかが作品のクライマックスになるんでしょうが……こちらの気持ちが戸惑ったままエンディングに畳みかけるので、余韻に浸る間もなく観終えてしまいます。アンタのスイッチ、どうなっとんねん…。
貞世は音楽や芸能をヤクザな世界であると嫌悪しますが、本作ではそんな一面も描いています。
半世紀以上も昔の作品でありながら芸能界の楽屋事情を大っぴらに、光が当たるからには影もできる事をキチンと(?)見せているのは意外でした。
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ん? 意外にも本作のBlu-ray版は発売されていないようですね。
裕ちゃんシリーズというだけで、それなりに売れると思うんだけどなぁ。