観た、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』 | Joon's blog

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『セブン・イヤーズ・イン・チベット』を観ました。

 

1938年のオーストリア。

登山家のハラーは前人未到のヒマラヤ踏破を目指し、妻を残して旅立つ。

ハラーと一行が幾多の困難を乗り越えながらも歩を進める中、第2次世界大戦が勃発。ハラーらはイギリスの植民地であるインドで捕らえられ、捕虜収容所に送られる羽目に。

収容所での生活が数年も過ぎたところで、ハラーは脱走に成功。かつての仲間だったペーターと共にチベットに辿り着く。

チベットの民と共に暮らすようになったハラーはダライ・ラマと出会い、親交を深めるようになる。

しかし、そんな平和も中国の進軍により終わりが来る時が近付き……といったお話。

 

傲慢で独善的だったハラーが、チベットを訪れた事で人格に変化が表れる様を描いていますが、スイッチが切り替わったように性格が変わるような出来事が起こるのではなく、チベットでの暮らしがハラーを徐々に変えて行きます。時計を返すくだりとか、ほっこりしますね。
本作で描かれる限り、それほどまでにチベットは楽園に近い場所です。
国民も朴訥で、かつてのハラーのように、他人を出し抜いてトップを取る事に躍起になるような西欧的な感情もないからこそ争いもない。
身の回りにある文明や煩悩を捨ててでも平和に、穏やかに生きたい人にとっては理想郷ですよね。
それが確約できるのなら俺ッチも、惰性で続けているに等しい趣味や仕事を今すぐ辞めてもいいくらい(笑)。
ただ、どんな生き物の命をも重んじる教えに従うのは難儀しそうです。ミミズをあんな風に、いちいち丁寧には扱えないかな…。

 

外交手腕を買われ、大臣になったンガワン。
侵攻してくる中国軍に一時は歯向かいますが、敗色が濃くなった途端に独断で降伏勧告を受け入れて中国の手下に成り下がり、ハラーにも裏切り者扱いされる始末。
…けど、ンガワンは売国奴なんでしょうか?
ゲリラ戦に持ち込めた可能性もあったとこぼす人もいたけど、総じて朴訥な、争い事とは無縁のチベットの民が武器を手にしたところで、あの軍事力の差を見てしまえば、既に結果は見えています。
国民の命を重んじるようなシーンもないので悪人として見られがちですが、個人的にはンガワンに100%の非があるとは思いにくいんですよね。
…まぁ、あくまでこれは映画のキャラとしての話=フィクションなので、現実がどうだったかは知りませんが。

ハラーにはまだ見ぬ息子がいますが、置いてきた妻は離婚→再婚し、実の父親ながらも拒絶されています。
自らの傲慢さが原因だったとは言え、ハラーは孤独です。
そんなハラーに、純真な心で距離を縮めてくるのがダライ・ラマ。
ハラーにとってダライ・ラマは息子と同じくらいの年頃の少年ですから息子の姿を、そしてダライ・ラマの方もハラーに父親の姿を、お互いに投影していたと思います。
そこでハラーがチベットで、ダライ・ラマの近くで共に生きるという選択肢もあったんでしょうが、お互いが自分の求める者に近しくはあっても、そうではないと割り切れているのが大人なんですよね。
特にダライ・ラマはまだまだ子供でいたいはずなのに、自らの立場をわきまえた上で本音を隠さざるを得ないのが切ないのです。
余談ながら、ダライ・ラマを演じるジャムヤン・シャムツォ・ワンジュクさんの、世の中の邪悪を一つも知らなさそうな、純真無垢を絵に描いたようなルックスにも心が洗われます。

 

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Blu-ray版は吹き替え音声が収録されているくらいで、映像特典は一切ナシ。ソニーの廉価版って、そんなドケチ仕様が多い印象。