『フル・モンティ』を観ました。
かつて鉄鋼の街として栄えたイギリスのシェフィールド。
工場は閉鎖され、解雇になったガズとデイヴは犯罪まがいの真似をしてその日暮らしをする有様。
息子のネイサンの養育費も払えず、このままでは再婚した元妻に親権を奪われてしまう事に焦るガズは、町にやってきた男性のストリップ興業に目を付け、一獲千金を夢見る。
デイヴのみならず、職にあぶれる男たちを仲間に引き入れ、6人の男たちが揃った。しかし、中年の盛りも過ぎている上に、ダンスの経験もない面々の地道な練習は続き、いよいよ本番の日を迎え……といったお話。
人生に行き詰まった男たちが一獲千金を夢見るお話は多々ありますが、その手段がストリップというのが斬新だった本作。
どことなく色物っぽいストーリーですが(笑)、フタを開けてみれば、根っことしてはコメディながら泣き所もあるし、ちょっとした社会問題も扱っていて、意外どころかかなり上質なドラマになっています。初めて観る人は、コメディ映画という先入観で鑑賞に臨むといいんじゃないかな?
劇中のキャラ同様、この先の生き方に悩みを感じる人に観てもらいたいところですが、所詮は映画という娯楽なので、人生を変える力があるとまで仰々しい事は言わないけど、気休めとして得られる効果は割と長めだと思います。
“元気が出る映画”という売り文句は本物です。
人前で裸になる仕事に就きたがらない人が多いのは、大衆の視線を怖がるからです。
その辺に関して、女性よりも男性の方がもう少し気楽に考えられるようですが、男性だって恐れや恥じらいの感情はあるし、自分の身体に劣等感を感じていればなおさらです。
発起人のガズは一番乗り気なので、吹っ切れている以上に大して気にも留めていませんが(笑)、他の面々は色々と気にする事が多く、人前で脱ぐ事に抵抗を感じます。
渋々ながらもやろうとするのはお金のためだったけど、クライマックスの頃にはお金は半ば度外視で、1人を除いてやる気満々になっているのが感動します。
一意専心の精神で頑張ればそれなりの事はできるし、開き直った人間がどれだけ強くなれるものかを思い知らせてくれるのがいいんですよね。
妻の立場にあるキャラが総じて優しいのが、本作の温かみのある点です。
会社をクビになり、金策としてストリップをやろうとした挙げ句に警察の世話になり、町の人々からも笑い者にされる……もし自分の亭主がそんな醜態をさらすような真似をしていたとしたら、おそらく答えは離婚の2文字で終了なんでしょう。
しかし、本作に登場する妻はそんな短絡的な発想には至らず、あくまで夫と共に苦労を背負い込む覚悟を決めています。特にデイヴの奥さんは世界中の旦那さんが羨むだろうね…。
こういう大人ができている人こそ結婚できる資格があるんだなと、つくづく感じます。何しろ俺ッチは図体だけしか大人になれていませんので…。
それまで抱えていた苦悩を吹っ切り、彼らが“やり切った”ところで作品は幕を閉じます。
ストリップを終えた後の話は劇中で描かれる事はありませんし、そこまで克明に描いちゃうのは無粋ですからね。
まぁ、ハッキリ言ってしまうと、人生が大逆転するほどの変化があったキャラはいないと思います。
ただ、ストリップを機に人生観が変わり、生きる事に前向きになった事で、少なくとも現状からの脱却はできたんじゃないかな?
エンディング後の、キャラのその後を想像する楽しみを残すような終わり方が好きです。
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Blu-ray版の映像特典は、ほぼ予告編のみ。吹替版があるだけマシかな。
…ところで、これは偶然なんですが、俺ッチが本作を観たタイミングで、なんと本作がオリジナルキャストを引っ提げてドラマ化するとか。
ガズの子供や孫が登場するとか言ってる時点で寒いのなんの、昨今の風潮に嫌気が差しますね。さらに、今の世の中が抱えている社会問題を描くとか、そういう説教臭ぇの要らないんだよ。
まぁ、ディズニーが作るドラマらしいので、最後まで“やり切る”事はなさそうですね(笑)。