観た、『未来世紀ブラジル』 | Joon's blog

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どんな傑作にも100点を、どんな駄作でも0点を与えないのが信念です

『未来世紀ブラジル』を観ました。

 

 

どこかの国の、いつかの未来。

テロリストの横行に対して断固たる態度を取る政府は、僅かにも嫌疑を掛けられた者を過剰に取り締まり、今日もバトルという男が逮捕される。

自由に空を飛び回り、愛しの女性もいるという夢の中とは違い、現実では上昇志向もなく、うだつの上がらない役人に妥協しているサムは上司に呼び出され、バトルの一件はタトルと間違われた誤認逮捕であり、事件の揉み消しを頼み込まれる。

遺族の下へ向かった際、サムは夢の中の女性と瓜二つのジルと出会う。しかし、政府の人間を信用しないジルには取り付く島もない。

ジルの身の上を調べるうち、彼女が誤認逮捕の目撃者として狙われている事を知ったサムは……といったお話。

 

希望を感じさせない未来=ディストピアを描いた作品は数多あります。

条件反射的、かつ一択として『ブレードランナー』を挙げる人も増えていますが、未来の“社会”という観点においては本作の方が1枚上手に感じます。

小道具&大道具やセットといったプロダクションデザイン(やロケ地)も既視感のないものばかりで、こちらに関しても負けていません。

サムの母親と友人たちといったハイソサエティな面々の、特に女性の衣装やメイクのセンスが秀逸で、多少の皮肉を含んでいるのも本作の作風を表していて面白いですね。

 

政府が何かと国民を管理したがる社会を描いた作品という事で、これを恐怖の未来として捉える人も多く、若い時分に本作を観た俺ッチも“こんな未来は嫌だな”と、おぼろげながらに感じたものです。

…が、今としてはこの逆で、このくらいやってしまっても、むしろやった方が良いのでは?と考えます。

何しろ昨今は自由の意味を曲解している人間が増殖し、人間の考え方は時流と共に変わっていくものであるとは言え、マナーやモラルを見失っている世界と化していますからね。無法者よりもレベルの低い、ワガママなだけの人間が多いんですよ。

本作で描かれる政府は、人間が堕ちるところまで堕ち切る寸前の抑止策として発足されたものなのかもしれません。

今の世の中に混沌を感じる人であれば、実は本作はユートピアを描いていると思い込める作品かもしれません。あまりいないだろうけど。

 

本作のキーとなる要素の一つとして、夢と現実を描いています。

夢の中でのサムには翼があり、捕らえられた愛しの女性を救うため、群がる怪物を倒す超人です。

夢での体験を思い出してサムが勇気を出せる事もあったし、人間は夢を見れるから現実を生きて行けるんだとも思わせます。

が、これまで夢に逃避していたサムは、もう現実を見なくなります。夢が自分にとっての現実になるのは、少なくとも本人にとっては喜ばしい事であり、ある意味においては羨ましくすら感じます。

一般的にアンハッピーエンドと言われていますが、捉えようによってはハッピーエンドとも呼べる作品なのです。

…と、ここまで綴って、本作に理想を見い出せる俺ッチも、なかなかアブねーヤツですね(笑)。健全な若い人は、こんな厭世的なオジサンの言葉なんて真に受けないように…。

 

こちらも『ブレードランナー』と通じる点ですが、映画会社から“色々とそぐわない点があるから修整しろ”といった旨の勧告をされ、渋々ながら再編集や撮り直しをしたという監督はちょいちょいいますし、今でも続いてる風潮のようです。

そんな裏話を見聞きして、歳を重ねるごとに強まる思いは……映画会社ってバカなの?と。

確かに、映画会社は世の中に公開する責任も負っていますから、時世に伴う世の中の空気に合わない描写を取り締まるのは重要です。

独善的に好き勝手にやってる作品を公開して、世の中に誤解や混乱を招く根源となってしまうのは娯楽を供給する立場としては不本意であるだけでなく、厄介事を起こして責任を負わされるのが嫌だという本音も分かります(特に日本では、“表現の自由”という言葉を安易に使いたがる作り手ほど大衆に与える影響というものを考えていませんし)。

…でも、だったらどうして、それを早く指摘しないんだよと。

作品の内容の変更を要請されるのって試写を観終えたタイミングが多いようですが、どうしてもっと早く言わずに、作り終えてからどうこう言うんだよと。

映画なんて今日明日くらいで作り終えられるものでもないし、これは映画会社が製作の途中経過をサッパリ見ていない証なんですよね。要はロクに打合せもしていないから意思の疎通が捗らないんですよ。

本作に関しても、映画会社の望む短縮版と監督の望む長尺(オリジナル)版が存在したようですが、↑のような後出しジャンケンをやってるから、“バージョン”なんて言葉が生まれてしまうんです。

製作を始める前に綿密な打ち合わせができていれば、少なからずの妥協を含めながらも双方が望む作品が一発で完成していたはずでしょうし、企画倒れで済んでいたかもしれません。

こういう反省が未だに続く映画会社って、特にお金にだらしないですよね。

――と、話がクソ長くなりましたが、つまり何が言いたいのかと言えば、あれだけマニアックに幾多のバージョンを公開した『ブレードランナー』よろしく、本作の別バージョンも観てみたい!という事です。

 

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どうやら配信版はないようなので、Blu-ray版のみをオススメしてみます。映像特典は当時のドキュメンタリーと予告編、吹替版の収録もアリ。

↑でダラダラ綴った肝心の内容も、ちゃんとしたオリジナル版です。