『トゥモロー・ネバー・ダイ』を観ました。
南シナ海を航海するイギリスの巡洋艦が中国の戦闘機により撃沈された報せが入る。中国側もまた戦闘機を撃破されており、報復行動に出ようとする両国間に緊張が走る。
中国側の攻撃を新聞の見出しに、しかも数時間も経たないうちこら事件を報道するカーヴァー・メディアを怪しむMは、社長であるカーヴァ―の調査をボンドに命じる。
パーティー会場で、銀行家を装いカーヴァ―に近付くボンド。そこで再会した、かつての昔の恋人パリスは今や彼の妻になっていた。
パリスの協力もあり、カーヴァ―の元から暗号装置を盗み出したボンドは事件の真相を知り、中国の情報員リンと共に、戦争を引き起こそうとするカーヴァ―の野望を食い止めようとする……といったお話。
007シリーズ第18作目、かつ5代目ジェームズ・ボンドを演じるピアース・ブロスナンさんの第2作目です。
ここから前作『ゴールデンアイ』を観返してみれば、多少の野暮ったさを感じるものの、そう思うのは、今作で完全にブロスナンさんがボンドにフィットした証ではないでしょうか? 1から10までカッコ良すぎです。
「悪いニュースほど売れるニュースはない」
こう言い切るのは本作の敵であるエリオット・カーヴァー。テレビや新聞などを牛耳るメディア王です。
クロをシロに替えるだけでなく、それを世界に向けて発信できる力を持っているという意味においては、歴代のシリーズの中でもカーヴァ―はかなりタチの悪い、手強い敵です。
本作が公開された97年以降にはインターネットというメディアも加わり、発信者の主観を押し付けるような捏造・扇動・偏向報道が激増しています。
そんなアナーキストのような連中が発信するネタ(=情報)に比べれば、あくまでビジネスを大優先しているだけで、単にそのために政治を利用しているに過ぎないカーヴァ―の方が、いくらかは純粋だと思えてしまう(俺ッチだけでしょうが)ような世の中になってしまったのは、荒んだ時代になった事を実感しますね。
ニュースを発信するメディアに警鐘を鳴らすテーマを含んでいるものの、それを風刺や警句じみた説教臭い風味にしないのが、映画という娯楽に徹するOO7シリーズの秀逸なところです。
今作のボンドガールは中国の情報員リン。
演じるミシェール・ヨー(もしくはミシェール・キング)さんはアジアのアクションスターとして知られていましたが、本作でもその才能を如何なく発揮しています。
アクション系俳優でもたまにいるじゃないですか、武器を持っていない方が強さを遺憾なく発揮する人(笑)。ミシェールさんは、そんなタイプの女優ですよね。
殊に格闘戦においてはボンド以上で、これまでボンドと協力して戦うボンドガールは何人かいましたが、リンは歴代ボンドガールの中で最強ではないでしょうか?
それ故、ボンドとのロマンチックなシーンは最後の最後までお預けなのが良いですね。妙な下心があれば任務に集中できないものですし……って、この辺はボンドさんには馬の耳に念仏でしょうが(笑)。
もう一人のボンドガール……と呼んでいいものかどうか、ボンドの元カノであるパリス。
好きな女性を任務の巻き添えにしたくない配慮というか、ボンドの繊細な部分を見せるための良いファクターだったと思います。そもそもは“堕落した西欧の女たらしの諜報員”という根本から更生しなきゃならないんですが(笑)。
余談ながら、パリスを演じたテリー・ハッチャーさんは、役が決まった時は妊娠中だったとの事。
その件で出演をどうしようかと考えていたそうですが、“君はやらなきゃならない。僕はボンドガールと結婚しているんだと世間に言えるためにね”というダンナさんの一言が後押しになったようです。
映画に絡んでいる人の人生は、映画のような言葉に囲まれて生きているんだな…!と素敵エピソードで締めるために、その数年後に離婚している事は内緒にしておきます(笑)。
今作よりデヴィッド・アーノルドさんが音楽を担当しますが、これがイイ感じ。
今風にテクノ感を出しつつ、これまでのシリーズで使われたようなジョン・バリーさん風味もあって、いい方向への進化を遂げていると思います。
エリック・セラさんが担当した前作『ゴールデンアイ』の場違い感が懐かしいものになってくれて良かった…。
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Blu-ray版は映像特典満載です。
シェリル・クロウさんの主題歌MVが収録されているのが良かったけど、SD画質ってのが残念。他の作品にも収録されていますが、MV映像もリマスターして欲しいというニーズは少なからずあると思うんだけどなぁ。