『消されたライセンス』を観ました。
CIAのフィリックスの結婚式の当日、麻薬王サンチェスの居所を発見したという報せを受けたフィリックスに随行するボンド。どうにかサンチェスを捕らえ、フィリックスは無事に式場に間に合った。
だが、サンチェスの影響力は大きく、その莫大な資金力は警察どころか大統領すらも懐柔し、あっという間に脱走を許してしまう。
サンチェスはフィリックスへの報復として花嫁を殺害し、フィリックスにも重傷を負わせる。
これを知ったボンドは怒り心頭、上司のMに諌められようともサンチェスへの復讐を決意する。Mは説得に応じないボンドから殺しの許可証を剥奪し……とったお話。
OO[ダブルオー]ナンバーを剥奪され、誰からの援助もなく、たった一人で麻薬王に挑む……というOO7シリーズとしては異色なストーリーではありますが、たった一人でもないし、陰ながらのサポートもある。つまり、ほぼいつも通りの作風です(笑)。
これまで“女王陛下の犬”と揶揄される事も多かったボンド。
それほどまでに任務に忠実だった表れですが、そんな忠誠心を捨て、復讐という個人的な感情に走るボンドの姿はかなり衝撃的に見えます。
元々ボンドはあまり健全なヒーローではないけど、それはあくまで原作の話で、今作は特にアメリカでの興行収入が苦戦した事が表すように、多くの人が抱いているボンドのイメージにはそぐわなかったようです。確かに、セオリーを無視した外伝っぽくも見えますね。
でも、そんなボンドの一面は、感情が先行する事が多すぎるダニエル・クレイグさんのボンド像に通じるものがあるように思えます。
ダニエル版ボンドが(なぜか)好評な昨今であれば、近年評価が上がっているという『女王陛下の007』同様、今作が評価されてもいい時代になってきたのではないでしょうか?
ダニエル版ボンドを出したついでに、今作ではボンドに婚歴がある事が言及されます。
フィリックスの妻に「次はあなたの番ね」と言われ、ボンドが一瞬表情を曇らせるシーンは今作の名シーンの一つです。そこから感傷に浸ったりもせず、先の表情だけで全てを語っているのがいいんですよ。
…それに引き換えダニエル版ボンドよ、お前さんは事あるごとにヴェスパーヴェスパーと、いつまで女々しく引きずってるんだ…(笑)。
OO7はもう半世紀を優に越した長寿シリーズですから、ボンドを初め、MやQといったレギュラーキャラを演じる俳優がちょいちょい変わり、“〇代目△△を演じる××”といった文言を目にする事が多いです。
しかし……毎回必ず登場するわけでもないセミレギュラーですが、確実にボンドの協力者であり長年の友人であり、これだけでも重要な役割を持つキャラなのに、そんな紹介や特集をされる機会がほとんどないのがCIAのフィリックス・ライター。
陰でボンドの動きを監視し、事件の動向を探る第三のキャラがボンドの前に姿を現すと……なーんだフィリックスじゃないか!という、半ばお約束的な展開も好きだったんですよね。演じる俳優がコロコロ変わるので、本当に敵かと思うけど(笑)。
そんなフィリックスがお話のキーパーソンになる(序盤だけだけど)という意味においても、今作は貴重なんです。シリーズを通して、主な活躍や見せ場は今作くらいにしか見い出せませんから…。
もう少し目立つ事でもあれば、スピンオフ作品としてテレビドラマ版でも作られるんだろうけど、面白くなりそうな予感がありません(笑)。
**********************
**********************
**********************
↑のBlu-ray版は、毎度ながら映像特典満載です。
ボンドを演じるのは今作もティモシー・ダルトンさん。メイキング等を見ると、今作でもスタントの多くを自身でやりたがっていたようです。
OO7シリーズで前向きにアクションをやろうとするボンド俳優って、実はあまりいないんですよね。
“スタントマンとは危険な芝居が必要だからこそ存在しているんだよ、HAHAHA”と、激しいアクションには消極的な俳優が多かったから、ダルトンさんの貪欲さは頼もしいですね。それでも、3代目ボンド=ロジャー・ムーアさんは乗り物を運転するアクションは多めにこなしていましたが。