『コップランド』を観ました。
ニューヨーク警察のマレーは帰宅の最中、路上でのトラブルを発端に殺人を犯してしまう。叔父のレイが到着するも、現場検証の最中にマレーは姿を消す。パニックのあまり、橋から身投げをしたようだ。
マレーが帰宅しようとしていたニュージャージーのギャリソン。ここはニューヨークを出たがっている警官が集まった“コップランド”とも呼ばれる街で、レイはこの街の権力者でもあった。
ある日、ギャリソンで保安官を務めるフレディは、死んだと報じられているマレーがレイの車に乗っているのを見る。報じられている事件に隠蔽工作の臭いを感じ取るフレディだが、邪魔者の排斥には手段を択ばないレイには見て見ぬ振りしか通用しない…。
後日、内務調査官のティルディンがフレディを訪ねてくる。レイを怪しんではいるものの、ニュージャージーは管轄外で手を出せないと言うティンディルに協力を求められるが、フレディはこれを断る。
しかし、この街の腐敗や不正に慣れ切っていたはずのフレディの中で何かが目覚め……といったお話。
不正の糾弾や告発を描いた作品です。
ハッキリ言わずとも、我々はそれらが平然とまかり通っている、黒を白だと言い切るような社会に生きています。
でも我々の目には、白は白にしか見えないんですよ。
そんな現実の理不尽を糾弾しようにも、したところで何も変わらないどころか、逆に自分の身が危険に追いやられるのは明白。
この手の内容は、我々が現実に言いたくても言えない、やりたくてもできない事を代弁してくれるのが痛快だと思う人が多いからこそなんですよね。
…さて、明日からまた一週間、俺ッチもそんな社会に出勤するか…。
キャストを見れば、ロバート・デ・ニーロさん、ハーヴェイ・カイテルさん、レイ・リオッタさん、ロバート・パトリックさん等々の錚々たる面々が脇を固める中、堂々の主役はシルヴェスター・スタローンさん。
「スタローンかぁ、どうせ無敵なマッチョなんでしょ?」と思う人もいるでしょうが、確かにアクションシーンもあるし、銃弾を受けても生きてます(笑)。
けど、本作はおそらくスタローンさんの出演作の中で、最もアクションシーンが少ない作品ではないでしょうか?
今回はあまり体を張らない演技派系として出演しているのが新鮮というのもあり、個人的にスタローンさんが主演した中でも、確実に名作の部類に入る作品だと思っています。
スタローンさんが演じるフレディは、長いものに巻かれるような生活を送っています。
良かれと思う事でも、町の権力者であるレイが気に入らなければ全て揉み消されてしまうのが常となっている状況に疲れています。
保安官でありながらも、ちょっとでも強めに詰め寄られるとすぐに引いてしまうような(あまり他人と視線を合わせないのもその表れ)、常に無気力でだらしない男です。弱気というわけではないんですが。
しかし、冷めた態度や表情に見えても、その奥に秘めているのは不条理に対する静かなる怒り。
スタローンさんの代表作でもある、ランボーにも通じるものを感じます。
ギャリソンの町=コップランドの町人は、現状維持こそが一番の平和だと感じているので、どんな不正があっても、“見ざる・言わざる・聞かざる”を貫くような、いわばレイに飼い慣らされた人々です。
それ故、レイの不正を暴こうとしても協力的な姿勢を見せる者は皆無で、それどころか口を揃えたかのように、最後まで自分の味方をしてくれると思っていた人たちもフレディから去っていきます。
どんどん孤独になり、とうとう四面楚歌に陥ってしまうフレディの姿が哀しくて哀しくて…。
それでも、たった一人でも戦いに挑むフレディの本気が勇ましく、カッコ良いんです。
本作の終了後、たとえ不正を正したと言っても、あんな感じの町人ですから、ある種の秩序を乱したフレディの行動を理解できずハブにするでしょう。
事件は解決してもハッピーエンドになるには時間が掛かりそうな、報われない(であろう)戦いだった事が虚しく感じます。
コップランドの腐敗の象徴である町のボス、レイは金+コネ=権力という公式が見事に当てはまるような嫌な奴です。
まぁ、劇における悪役とは観客に憎まれるのが仕事ですから、それだけ良い役でもあるんですが。
個人的にも好きなハーヴェイ・カイテルさんが、こういうクズを演じているというだけで高ポイントです。
『スモーク』のような、ヘソ曲がりな人情家みたいな役も好きですがね。
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Blu-ray版の映像特典は、クソ画質の予告編のみ。吹替版も収録しています。
吹替版と言えば、本作でのスタローンさんを担当しているのは玄田哲章さんですが、作品の内容も鑑みた上でも、ささきいさおさんが良かったと思うんですよねぇ。