観た、『逃走迷路』 | Joon's blog

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『逃走迷路』を観ました。

 

飛行機工場で火事が発生した。従業員バリーの同僚ケンが消火器を使うと、なぜか火災はいっそう大きくなり、ケンの身は炎に包まれる。
鎮火後、警察は消火器にガソリンが詰めてある痕跡があったとし、ケンと一緒にいた容疑でバリーを逮捕しようとする。
ケンに消火器を渡した男フライの行方の手掛かりとなるディープ・ストリングス牧場に向ったバリー。そこにいる牧場主のトビンは温和な老人であったが、その正体は破壊工作員のリーダー格だった。
トビンによって警察に突き出されたバリーは、隙を突いて脱走。濡れ衣を晴らすため、バリーの逃亡が始まる……といったお話。

 

原題である“Saboteur”とは、破壊工作員の意。今で言えばテロリストですかね?
本作は1942年の作品(戦争の真っ最中!)で、劇中のセリフから察するに、当時は強盗や殺人よりもテロ行為の方が重罪であり、忌避されるものだったようです。
トビンはそんなテロリストのリーダー格で、"全体主義"なんて言葉が出てくるあたり、暗にドイツ人やイタリア人あたりを臭わせているのかな?
結局、トビンのその後は分からず終いですが、本作は敵の組織をブッ潰すヒーローの活躍を描いた作品ではなく、あくまで主人公バリーに焦点を当てたお話です。
それ故、主人公の問題が解決すれば物語も終わるという作風も潔いですね。潔すぎて、初見ではラストシーンには戸惑いましたが…。

 

赤の他人だった主役の男女が親密になって行くのはハリウッド映画のド定番ですが(笑)、パトリシアの、バリーに対する嫌悪感が解れるきっかけとなるサーカス一団とのやり取りは、本作の見どころの一つです。
頬のこけた男や小男、髭の生えた女や双子等、詳しく語られる事はないものの、彼らがサーカスという見世物の一員になっているのは、特異なルックスが理由である事は一目瞭然です。
おそらく差別視されながら生きてきたんでしょうが、そう思えるのが、バリーとパトリシアへの対処についての討論。ある者は彼らを警察に突き出そうとし、ある者は庇おうとする――自分らが、世間から受けてきた扱いへのアンサーでもあるんでしょう。
ここのシーンって、ちょっとした社会の縮図に思えるんですよ。
罪を犯したとして、世の中には、どんな些細な罪でもいちいち断罪したがる底意地の悪い人間(←ヤフコメはその巣窟)や、取るに足らないとしてと看過してやれる人間がいます。
人間同士が生きて行く上で“法”という秩序は必要だけど、一人の人間として持ち合わせていたいのは“情”です。やはり人間は厳しくするより、優しくありたいものですからね、俺ッチもなかなかできませんが…。
序盤はキツめのパトリシアが後に考えを改めるのは、根っこは人間味のある人間である証左なのです。


本作のエンターテインメント的な見どころとしては、クライマックスの自由の女神像でのアクション。
所詮は1942年のモノクロ作品、実物大セットと実景を合成させる程度のモンじゃない?と見下しがちですが、そんな映像のトリックが見破りにくく、どうやって撮っているんだ?と思わせるくらいの迫力を感じます。古い映画だからと侮る事なかれ。

 

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Blu-ray版はメイキング等、映像特典多めです。吹替版も収録しています。