『裸のランチ』を観ました。
かつてはドラッグ漬けだったウィリアムは、今は更生して害虫駆除の職に就いている。
いつものように仕事に行ったウィリアムは、ゴキブリ退治用の粉末がいつの間に減っている事に気付く。犯人は妻のジョーンで、ドラッグとして使っていたのだ。
ある日、ウィリアムは害虫駆除の薬品をドラッグと疑われ、逮捕されてしまう。尋問を受ける中、目の前に現れたのは巨大な虫。言葉を喋るそれは、ウィリアムをインターゾーンという場所へ誘う。
虫を殺して警察から脱走したウィリアムは帰宅し、ジョーン共々ドラッグでハイになる。そこで“ウィリアム・テルごっこ”と称して、ジョーンの頭上に乗せたコップを銃で撃つが、狙いは外れ、ジョーンを殺してしまう。
何者かの陰謀とも知らず、ウィリアムは逃げ込むようにインターゾーンへ向かう。そこで彼が見るのは現実か、もしくは麻薬による幻覚か……といったお話。
ひと言で言ってしまえば、ワケ分からない系の作品です。
よくある、現実と架空の世界(本作の場合は幻覚世界)の境が付きにくいような類のアレですね。
それに加え、どのキャラが・どこに属して・何を目的としているかが曖昧なんだから、さらに難解です。
・インターゾーン商会→何屋さん?
・報告書→誰が読むの?
・スパイ→敵対勢力はどんな組織?
・ホモ→ストレートじゃダメなの?
…と、もう何が何だか(笑)。
だからって、これらを逐一調べた上で知った被ろうとするのは、実はスゲー不粋な事。
本作は主人公ウィリアムの脳内体験をシェアするのを趣旨とする作品に思えます。麻薬が見せる幻覚なんて他人が見た夢みたいなものですから、そこに茶々を入れるのは不毛の極みです。
ちょっとした起承転結はあるものの、どうにか解読しようとか思わず、ウィリアムと一緒にトリップする時間だと思いながら鑑賞するのが正解なのかもしれません。
人によっては目を背けたくなるような、生理的に受け付けられなさそうなクリーチャーが数多く登場するのも特徴的。
顔の部分がタイプライターになった虫は、本作の倒錯した世界の象徴ですね。羽の下には人間の肛門のようなものがあり、それを口として会話をするとか、これを読んでいるだけでは意味が分かんないでしょ(笑)?
グロテスクなクリーチャーに加え、麻薬や同性愛といったアンモラルの横行も、本作を怪作とさせる要素です。
登場人物のほぼ全員がドラッグを嗜んでいるのも狂ってますが、害虫退治用の薬を麻薬として自分の身体に取り込む神経は、もはや勇気ですよ(笑)。自分の口臭でゴキブリやムカデが弱まるシーンは、色んな意味で恐怖ですね(笑)。
後者に関しては、今時は迂闊な事を言いにくいですが、これをアンモラルと感じない連中には本作の世界観は楽しめません。
タブーを犯している背徳感こそが本作の胡散臭さであり、最大の魅力なんじゃないかと思います。
怪しい世界観に拍車を掛けるのが、ハワード・ショアさんによる劇伴=サウンドトラック。
どこか不安を掻き立てるような感じで、ジャズのテイストが入っているのが良いんですよ。
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なるほど、ジャズのサックス奏者でもあるオーネット・コールマンさんも参加しているんですね。
ただただ気持ち悪いばかりではなく、そこかしこに漂う文学的なセリフのおかげで、単にグロテスクなだけの作品で終わっていないのが良いんです。
ついそっちにジャンルしたくなりますが、決してホラー作品ではないと思います。
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Blu-ray版の映像特典はメイキングと予告編。
メイキングを見てみると、原作は未読ですが、どうやら原作者であるウィリアム・S・バロウズさん自身を投影した作品である事が分かります。
つまり、主人公ウィリアムの行動は、バロウズさんの現実でもあったんですね。普通の生き方をしていない人ほど、創造する職に向いているんだなぁと実感。