観た、『ムーンレイカー』 | Joon's blog

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どんな傑作にも100点を、どんな駄作でも0点を与えないのが信念です

『ムーンレイカー』を観ました。

 

空輸中のスペースシャトルが何者かにより強奪された。

さっそく調査を命じられたボンドは、手始めにシャトルを製造するドラックス社を訪れる。社長のドラックスはボンドを怪しみつつ、開発に携わるグッドヘッド博士を紹介する。

実はグッドヘッド博士は、ドラックス社に潜入するCIAのスパイであり、これを知ったボンドは協力を約束する。

調査を続けるボンドは、ドラックスのシャトル製造に関係するらしいガラス工房に忍び込む。その奥で作られていたのは致死性のある神経ガスだった。

ドラックスに雇われたジョーズと再び相まみえる中、ドラックスの壮大な野望を知ったボンドは、グッドヘッドと共に宇宙に向かう……といったお話。

 

OO7シリーズ第11作目。

総じてシリーズ最高と呼ばれた前作『私を愛したスパイ』に対し、特に第1作からOO7シリーズを観てきた人からは、おそらくシリーズ最低作品の烙印を押されてしまうでしょう。

確かに、たかだかイギリスの一諜報員風情が宇宙まで行っちゃうのは、いくらボンドがシリーズを追うごとにスーパーヒーロー化しているとは言え、ちょっとハメを外している感は否めません。

前作ではスーパーカーで注目を誘い(これは日本だけかもしんないけど)、今作では『スター・ウォーズ』のような見せ場を設ける事で、OO7シリーズが子供向け映画に成り下がってしまうのを懸念し、嘆いた大人のファンは少なくなかったんじゃないかな。

 

OO7シリーズ最大の敵は?と聞かれれば、多くの人はブロフェルド=スペクターの最高幹部を挙げる事でしょう。構成員も世界規模で散在し、それらが搾取したおかげで資金も潤っているはずですしね。

そんなスペクターに比べると、世界各国に支社があるわけでもない一企業という規模の割に、モノ作りまで自分の所で賄えるんだから、本作のヒューゴ・ドラックスは最強かもしれません。

何しろ、自社製品とは言えスペースシャトルを同時に6機も打ち上げる(!)のみならず、直径200メートルの宇宙ステーションまで建造するんだから、スケールが半端じゃありません。

スペクターが支配しようとするのはせいぜい“世界”ですが、ドラックスは“地球”ですからね、ケタが違いますよ。

なるほど、敵がここまでの巨悪なら、ボンドさんも宇宙まで出張しなきゃならなくなりますよ(笑)。

ただ、何を以てそこまでの資金を調達できているのかとか、計画実行のためのアドバイザーがいなかったりとか(周りにいるのはせいぜい用心棒)、一民間企業のワンマンCEOに過ぎないドラックスが、どうやってああまで壮大な計画を実行できるのかという根拠が乏しいんですよね。

こういう説明不足を指摘されれば、シリーズ最低と揶揄されてしまっても、肩を持てないかな…。

 

舞台を宇宙に移してからは、視覚効果的にもかなり頑張っていて、見応えのある画も多いです。

宇宙ステーションや、その内部の大きなセットとか、ややレトロフューチャーっぽい雰囲気があるものの、今見ても目新しく映るものが多い。シリーズに数多く参加してきた美術監督ケン・アダムスさんの手腕はさすがです。セットのみならず、メカデザインまでこなしているんだから多才ですよね。

洋邦問わず、映画における美術=プロダクション・デザイナーと聞くと真っ先にどころか、ほぼオンリーワンとして挙げられるのはシド・ミードさんですが、個人的にはアダムスさんのデザインも好きです。この人の画集とか出てないのかな?

ボンドとグッドヘッドが焼き殺されそうになる部屋の、丸テーブルが変形して床に格納されるアイデアは秀逸すぎます。

 

前作のエンディングで、次回作は『ユア・アイズ・オンリー』と予告していたにもかかわらず、全世界をペテンにかけて(笑)唐突に登場した本作。

その理由を要約すれば、「だって『スター・ウォーズ』が流行ってるんだもん」と言ったところらしいです。さすが、ヒットメーカー=プロデューサーのアルバート・R・ブロッコリさんは思い切りがいい…。

近年のデジタル技術であれば、DVDやBlu-ray化する際に修復作業の一環として、その予告タイトルを書き替える事もできるであろうに、あえてそれをやらないのは潔いですね。

古い作品なのは分かってるんだから、わざわざミスを直したりCGに修整したりなんて無粋な真似はしなくていいんですよ。…ルーカスさん、聞いてます?

 

前作で登場した殺し屋ジョーズは、今作にも登場。

いかにも漫画チックなキャラのおかげで、前作を観た子供らから「ジョーズを善玉にして!」という懇願が多かったようです。大人のファンとしては舌打ちしたくなるようなエピソードですが(笑)。

そんな、ボンドに次ぐ不死身キャラのジョーズさんに心境の変化が現れる今作、なんと&まさか女子と仲良くなるという意外性に驚きです。

あんなルックスに物怖じせずに近寄って来てくれる女子がいれば、そりゃジョーズにも少なからずの温かい気持ちが芽生えるでしょう。

その子(ドリーという名前だそうな)は金髪で三つ編みのメガネっ子、しかもお胸はギュウギュウってんだから、マニアな人には堪らないスペックの持ち主です(笑)。

今でこそ女子の可愛さを表す一ジャンルとして“メガネっ子”という言葉が確立されていますが、本作公開時=1979年頃にはそんなフェチっぽい嗜好はメジャーとなっておらず、メガネをしている時点で、サエない女子として描きたかったんじゃないかと思います。お互いルックスに難がある者同士として、シンパシーを感じるところがあったんでしょうね。

OO7シリーズには、ほっこりするエピソードって皆無だから、あの2人には幸せになって欲しいですね。

 

…って事で、世間で言われるほどにドイヒーな作品ではありませんでした。

まぁ、これが許されるのはロジャー・ムーアさんのボンドだからこそ。ショーン・コネリーさんやダニエル・クレイグさんではあり得ませんから…(笑)。

 

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映像特典は相変わらず満載です。

今作が『スター・ウォーズ』に感化されているという話は噂レベルのものではなく、ハッキリと言及しているのが分かるメイキングも一見の価値ありです(笑)。