『私を愛したスパイ』を観ました。
ソ連の原子力潜水艦が突如として消えた事件を調査するため、ソ連諜報部はトリプルXことアニヤ・アマソヴァを、イギリスのMI6はOO7ことジェームズ・ボンドを選出する。
裏切り者によって流出した潜水艦追跡システムの設計図を追うボンドは、既に同じ事を見抜いていたアマソヴァと接触。お互いを出し抜こうとする両者だったが、イギリスとソ連は手を組み、共同で調査をする事となる。
その中で浮かび上がった海洋学者ストロンバーグの元を訪ねるボンドとアマソヴァ。しかし2人の素性を見透かしていたストロンバーグは、殺し屋ジョーズを差し向ける……といったお話。
OO7シリーズも、いよいよ今作で10作目となりました。
本作の公開は1977年という事で、その背景にあるスーパーカーブームが一助となったのもあり、日本におけるOO7シリーズの知名度を一気に広めたのは今作だと思っています。
“ロータス・エスプリが出ている映画がある”と過剰に興味を抱き、本作のおかげで“ぜろぜろせぶん”を知った子供はさぞ多かった事でしょう(当時“ダブルオーセブン”という呼び方は浸透していなかった気がする)。
つまり、スーパーカーブームの洗礼を受けた我々のようなオジサンのOO7原体験が本作というワケです。
そんな当時の子供は、ジェームズ・ボンドよりもロータス・エスプリを主役と捉えていたんじゃないかな? 口には出さないものの、幼いながらも本能としてボンドガールもガン見していただろうけど(笑)。
そーいや、確か『水曜スペシャル』でOO7特集をしていた回もありませんでしたっけ? いい時代だったわ…。
そんなロータス・エスプリS1、もちろん車としてもカッコ良いですが、ボンドカーとしての特殊機能と男の子のロマンを搭載しているのも良いんです。
映画史上でインパクトのあるムービー・メカを3つ選べと言われたら、エスプリは確実にカウントインさせますね。
ついでに言えば、ボンドが専用車両であるスポーツカーに乗るのが久しぶりってのもあって、人気が上乗せされたのかもしれません。やっとボンドカーが戻って来たというか。
まぁ、刷り込みみたいなものなのでエスプリは盲目的に好きなんですが……すぐにからくりを見破れるような、チャチぃ日本の特撮ばかりを見ている昭和のガキを騙し通せるくらいの技術や説得力があったとは言え、いい歳になって客観的に見直すと、ずいぶん強引な変形だなぁと(笑)。
あんだけ薄っぺらい車体に、車だけではなく潜水艇としての機能に加えた上に、さらに武器なんか搭載できるわけないじゃん!とツッコミたくなる人も多いでしょうが、それができてしまうのがQの技術力の高さなのです。
一番悩んだのは、潜水モード時のタイヤの収納スペースだろうなぁ(笑)。
日本のチャチな特撮という言葉を使いましたが、何がチャチく見えてしまう原因なのかと言えば、それはズバリ、縮尺です。
同じミニチュア模型を使うにしても、日本のそれらは海外の物に比べてスゲー小さいんですよね。だから見た目や挙動がオモチャっぽく見えてしまう。
本作に登場するミニチュアはいくつかありますが、中でも秀逸なのは巨大タンカーのリパラス号。
海面の小さな波と比較しても本物にしか見えないカットもありますが、リパラス号は全てミニチュアによるもので、その全長はなんと19メートルとか!
かつ、その撮影のために、わざわざバハマ(の海)にまで行ったというのだから、資本力においても敵いませんよね。
オジサンはエスプリにばかり目が行きますが、それ以外の見どころは多々あります。
その一つがアバンタイトルの、スキーのシーンからの大ジャンプ。今では狂ってるとしか思えません(笑)。
「CGのない時代だったから…」なんて判官贔屓なんか要りません、むしろCGが使える時代に見るからこそ見応えを感じます。
ストロンバーグの手下であるナオミはヘリコプターを駆り、エスプリに乗ったボンドとアマソヴァを狙います。
エスプリと並走した際、ナオミはボンドに色目を使い、ボンドはこれにニヤけますが、それを見たアマソヴァがムッとする流れが好きなんですよ。
緊張感が漂う中でもクスッと笑える、コメディのさじ加減が絶妙な、ムーア版ボンドの象徴的なシーンにも思えます。
…と、お話も終わって、最後に(恒例の)メッセージが出ますが、この一言が後々に世界をペテンにかけるとは、この時点では誰も思うまい…。
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Blu-ray版、相変わらず高いですね~。現在では新品は出回ってないのかな?
メイキングや当時のインタビュー映像等、映像特典は満載です。
後年のインタビュー映像でもそうだけど、ロジャー・ムーアさんの、ボンドを演じる重圧を感じさせない軽妙な言葉選びが好きです。
メイキングでも言及されていましたが、ムーアさんが3代目ボンドになって失敗とされていた要素の一つとして、ショーン・コネリーさんが演じるボンドを意識してばかりいた点が挙げられました。
しかし、これを本来の、紳士的でユーモアのある原作のボンド像に戻そうという観点により今作が出来上がったようです。
となれば、映画としてのOO7はコネリー版こそ至高と思われがちですが、原作に近いキャラとしてはムーア版ボンドが正解なのかもしれませんね。