『ユナイテッド93』を観ました。
いつもと変わらず、30分遅れでユナイテッド航空93便は離陸した。
同じ頃、管制センターではアメリカン航空11便の不穏な動きをキャッチ、11便がハイジャックされてしまった事を知る。
レーダーから反応が消えた後、航空機が世界貿易センタービルに突入した旨の速報により11便の、間もなくしてユナイテッド175便の消息を知る事になる…。
その後、同様にアメリカン航空77便も国防総省に墜落した。
そして93便にも紛れ込んでいたテロリストが行動を開始、乗客は先の3機と同じ運命を辿る覚悟をするが……といったお話。
旅客機を何機もぶつけるとか、こうして粗筋を読んだだけで、まるで映画のごとく荒唐無稽な話に聞こえます。
が、周知の通り、これは現実に起きた事実。
俺ッチの生涯において、映画では多々あるそれらを除き、テレビ画面を通して恐怖を感じた映像は二つ、3・11(特に津波)と9・11に関するものです。
深夜のニュースの速報で見た後者の映像は、映画の中のような悲劇が今この現在に起こっているのかと、所詮は他国の出来事だからと日和見ができないほどに慄然したものです。
テレビのバラエティ番組でよくやる“衝撃映像”なんてものが、一瞬で陳腐化した瞬間です。
そんな、いわゆるアメリカ同時多発テロの一部を描いた作品です。
あの事件に関しては追いきれないくらいの考察がありますが、本作は関係者の証言を基に作られていると思います。亡くなった人や遺族の心情を察すれば、なおさら忠実にね。
映画という形式を取りながら、劇的な、誇張した表現を抑えた作風がフィクション味を薄れさせます。第三者視点による遠景がなかったり、手持ちカメラ風に主観的に見せたり、名の通った俳優を起用しなかったりと、ドキュメント映像に近い感じ。
いかにもなドラマチックな見せ方はせず、映画としてのキャラの人種やら思想やらと言った個人的な背景を克明に描かず(分かる人はすぐに分かるんだろうけど)、あくまで93便の乗客やそれを取り巻く状況を描いたに過ぎない内容です。
あの時の状況を見せる再現フィルムみたいなもので、テロリストが何者であるかを追求する風のお話ではないという事です。
本作で扱う事件を多少なりとも見知りしていれば、どんなオチになっているかは分かっていると思います。
テロリストは最初から自爆をしてまでも目的を果たそうとしているけど、乗客からすればその辺の事情なんか知った事ではなく、彼らの自爆=自殺に付き合わされるんだから、これほどの理不尽はないと思います。
ただ、テロリスト同様に死を覚悟した乗客の意志は固く、一方的に巻き添えを食うくらいなら、せめて一矢報いんがためにと一丸となる姿が勇ましい。
たった一人で悪人をバッタバッタと薙ぎ倒すヒーローなんて現実には現れません。だったらせめて、小さな力を結束させて邪悪に挑むしかない。
「さっさとやっつけておけば助かったんじゃね?」とか心無いツッコミができる人もいるんでしょうが、人を殺せてしまう人間を目の前にすれば、誰しも足がすくむのは当然だし自然です。
そこから勇気を振り絞り、悪人を袋叩きに遭わせるあたりは胸がスッとするはずなんですが、この勝利が刹那的なものでしかないと思うと切ないですね…。
乗客である男たちは一発逆転を図り、果敢にテロリストに立ち向かおうとします。
けど、女や老人にそんな真似はできず、電話で親しい人に向けて遺言を伝える事くらいしかできません。
不本意ながらにも今から死ぬであろう予告の電話は一種の遺言ですよね。多くの人は、ここで胸が痛くなるんじゃないかな…。
ちなみに、俺ッチの場合はラストカットの直後で泣きましたよ。
決死の努力で抗ったところで、運命には絶対に逆らえないんだなと空虚な気持ちになりました…。
何を能天気に9・11のテロを“やらせ”だと声高に叫ぶ人もいますが、そういうアナーキストは観なくていいどころか、見ないで欲しい作品です。
“現実はそうじゃない、映画という嘘に振り回されるな”という意見もあるし、それもあると思います。
もちろん現実を知る事も大事だけど、映画で感動するには、ある程度は無知であった方がいいと思うんです。もちろん映画→フィクションであると割り切れるような、虚実の境を付けられる技術を身に着けた上でね。
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Blu-ray版は映像特典があるものの、日本語字幕がないんだから、ないに等しいですよね。多くの日本人に歯痒い思いをさせるなら、最初から収録しなくていいっての。
日本語吹替は収録されていますが、この手のドキュメントっぽい作品では、まずはオリジナル音声で見る方がいいと思います。