唐突ながら、映画とは見る人間の時間を支配するものです。
時間の流れに身を委ねるのが映画の楽しみ方ですが、そんな至福のひと時を長く味わいたい時もある。たまには長尺の作品が観たくなる気分もあるという事です。
――って事で、俺ッチのコレクションの中でも長尺の部類に入る、『Uボート ディレクターズ・カット』を観ました。
その尺、208分=3時間28分(!)です…。
余談ながら、俺ッチコレクション第1位は『ベン・ハー』の223分=3時間43分(!!)でした…。
1941年、ドイツ占領下のフランスの軍港ラ・ロシェルから、潜水艦Uボートが出港する。
乗組員はベテランの艦長と数十人の若者ばかりで、従軍記者ヴェルナーもこれに加わる。
命令は、大西洋を行くイギリス護送船の撃沈。深海で息を潜め、敵の反撃に遭いながらも任務を遂行するUボート。
その後Uボートに、敵の艦隊の半数が集まっているジブラルタル海峡の突破という無謀な命令が下る。
しかし、予想通りに敵の猛攻を受け、Uボートは海底深くに沈んでしまい……といったお話。
おそらく軍事オタクを自称する人種の多くは、戦争映画ベスト1として本作を挙げるでしょう。人生経験上、そのテのメンドくせー人とよく接してきたのでね(笑)。
そんな偏見を抜きにしても、確かに秀逸な作品だと若い頃には思っていましたが、いい歳になってから=もう少し視野が広くなってから再見してみると、あんま映画っぽくないというか、ドラマというよりドキュメントに近いと感じました。
何しろ、人の情に触れるようなクサいセリフや、ご都合的な逆転劇が皆無に等しいんですよ。
例えば、パニクった機関士ヨハンが、冷静さを取り戻した後に艦長に謝りに来るシーンとか、ドラマチックなセリフを出せそうなのに、淡々としたやり取りで終わってしまったり。
小説で言う一人称視点よろしく、Uボート内部=主観映像しか見せないのもドキュメントっぽいんですよね。
逆を言うと、Uボートの外の世界で何が起こっているのかを一切語らずに3時間も保たせてしまうんだから、国家間の争いという意味で大局的な視点を描かねばならないはずの戦争映画としても異色な作品なのです。
出港時には若者が多いと感じますが、ストーリーが進行するに従い、そんなクルーの髭がどんどん伸びて行き、頬や顎が真っ黒になって行くのが時間の経過を感じさせます。
そんな男たちが、潜水艦という狭っ苦しい密閉空間の中で汗にまみれてヒーコラ働く姿が多く映されますが、機械油に混じった男の体臭や汗の臭いとかが画面から漂ってくるくらいの閉塞感が生々しく、ドキュメント調に感じられる要素なんだと思います。
できれば真夏の昼間に、クーラーを点けずに鑑賞すれば、没入度がさらに上がるでしょうね(笑)。
そんな臭いの中、常にビショ濡れでヒゲモジャなオジサンに囲まれたいというマニアックな女性にも、胸を張ってオススメできる作品です(笑)。
つくづく、文字通りに男臭い映画だよな~…。
例えば飛行機やジェットコースターといった乗り物で、“自分が乗った時に壊れたらどうしよう”という懸念から、これらに乗るのを怖がったり拒否する人は少なくないようです。
そう思ってしまう人が本作を見れば、潜水艦どころか、船に乗るのも嫌がるようになるかもしれません。
船であれば、仮に沈没したとしても水面に出られさえすれば助かる可能性もありますが、本作のような潜水艦の場合であれば、沈没とはすなわち即死です。
潜水艦という金属の塊ですら水圧に耐えきれず軋みが生じるんだから、艦の外への脱出はできない。艦が破損すれば浸水したり空気がなくなったりと、どのみち死が待っているという八方塞がり感に息が詰まります。
没入しすぎて、気が付くと呼吸が浅くなっている事がある人も多いんじゃないかな…(笑)。
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繰り言になりますが、3時間半という長尺ですから、ほどほどに休憩を挟みながら鑑賞するといいと思います。俺ッチはハラハラしすぎて一気に観てしまいましたが。
Blu-ray版は、劇場公開版とディレクターズ・カット版の選択ができればよかったんですけどねぇ。
…ところで、本作が好きな人は「なぜ肝心な、あの事について言及しない?」とお思いでしょうが、そこには敢えて触れない事を褒めて欲しいです(笑)。