『鳥』を観ました。
メラニーは、ひょんなきっかけで知り合ったミッチが欲しがっていたつがいの鳥を贈るため、彼が過ごすボンデ湾の町へ向かう。
メラニーはカモメに引っ掛かれた事で、ミッチだけでなく彼の妹キャシーや母リディア、かつてミッチを愛していたアニーらと親密になり、徐々に街に馴染んでゆく。
学校の教員であるアニーの生徒たちも集まるパーティーが開かれる中、突如カモメの大群が襲来。会場にいる人々を襲い始める。
後日、キャシーの様子を窺いに行ったメラニーはカラスの大群に襲われるが、街の人間はメラニーの話を信じようとしない。
そこへ鳥たちの大群が町に飛来、人間たちへ攻撃に町は大パニックに陥る。鳥たちの猛威におののくメラニーたちの運命は……といったお話。
映画には災害モノとジャンルされる作品が多々あります。
動物パニック系作品はその延長にありますが、多くは巨大な1体が猛威を振るうものが多いと思います。
しかし本作のそれは、その辺に飛んでいる何の変哲もない鳥。ただ、そんなただの鳥が多くの群れを成し、我々人間に敵意を向けてくるのが恐ろしい。
本作が作られたのは1963年。それまでに動物パニック系作品が何かしら存在していたにしても、ここまでスケールの大きい作品は本作が映画史上初に思えます。
相手が鳥ってのも絶妙です。
我々人間がどんな自由に動けたとしても、所詮は地べたに足を付けた前後左右の移動しかできません。けど、鳥は前後左右に加え(“後”はないか)上下の移動もできるんだから、いわゆるヒット&アウェイに長けているのが強いですよね。
そんな個体が群れを成して攻めてくる時点で、人間の勝ち目は半減以下です。
能書きばかり垂れる鳥類学者のオバサンも言っていましたが、これは鳥戦争。
…の割に、あんだけ襲ってくる鳥に対し、銃を使うシーンがないのは謎です。
まぁ、やるだけ無駄という表れなんでしょうかね。あれだけの頭数に対しては、数匹、数十匹を撃ち落としたところで、何の抑制力にもならない。民間レベルの銃器では拮抗すらできません。
軍隊の出動要請がどうとかいうセリフもありましたが、たとえ令和の時代であっても、あそこまで圧倒的な数の鳥を(確実に)殲滅できる兵器ってあるんでしょうか?
さすがに偽物だと見破れる箇所も少なくないですが、半世紀以上も前の特撮の割には頑張ってる方だと思います。
確かにアラは見えてしまうけど、かなりの手間が掛かっている事は想像するに容易いはず。
…けどねぇ、それでもゾッとするシーンは少なくないと思います。何しろ、多くの鳥は本物を使っているんだから、それだけでも恐怖度が増します。CGで小綺麗に描かれるそれよりも荒々しさを感じます。
学校が終わるのを待つメラニーが校舎の脇でタバコを吸うシーンで、校庭のジャングルジムに1羽のカラスが留まります。タバコを吸っているうちに、カラスの数は2羽、3羽と増えていき、タバコを吸い終える頃には……個人的にはここが一番の、寒気すら感じる恐怖シーンです。立ちすくみますよ、あれ…。
これまでのヒッチコックさんの作風からすると、エンディングはずいぶん衝撃的です。
お話のスケールもこれまでのものとは比べ物にならない、まさに世紀末という言葉を当てはめたくなるくらいにくらいデカい、もしもの未来を描いた作品です。
得てしてそういう作品は風刺というか、この映画のようにならないためにも今の自分を改めようねというメッセージを含んでいるものです。
けど本作の場合は、それが何なのか、何を改めればいいのか分かりません。
多くの未来とは、自分だけでは変えられません。いくら努力をしても報われなかったり、大きな理不尽により明るい未来を閉ざされる事もあり得ます。
すなわち、運命ですよね。
自分一人の抵抗もかなわず、押し付けられた未来を受け入れざるを得ない――“運命”こそが、本作の隠しテーマなのかもしれません。
って事で、動物パニックが好きな人は、始祖的な作品として観るのもいいと思います。
できれば、「現代のCG技術で、本来ヒッチコックが思い描いていた映像が作れるようになった」とか、おこがましい事を言う奴が現れる前にね(笑)!
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↑、商品説明に書いてないんだけど、映像特典満載です。
もう一つのエンディングとか気になるけど、英語のシナリオとストーリーボードだけなので分かりましぇん…。