人生の半分をとうに過ぎたオジサンには懐かしい、『ウォー・ゲーム』を観ました。
勉強はからっきしダメなデビッドはコンピューターが大好きな高校生。
ガールフレンドのジェニファーを誘い、学校のコンピューターに侵入して成績を書き替えるようなイタズラを見せて得意になっている。
ある日、ゲーム会社のコンピュータに侵入しようとしたデビッドは、謎のコンピューターに侵入する。大学生のジムに聞いてみると、どうやらアメリカ軍のコンピューターだと知り、デビッドは興味津々。
パスワードを破り侵入に成功したデビッドは、開発者のフォルケンを装い、コンピューターを相手に核戦争ゲームに興じる。
翌日のニュースで、アメリカ軍のコンピューターに不具合が生じたとの報せを知ったデビッドは、事態の重大さを知り焦燥する。間もなくデビッドはFBIに捕らえられ、アメリカ軍の防空総司令部に連行される。
デビッドが侵入したコンピューターは、核戦争を想定したプログラム“WOPR”=ジョシュアだったのだ。
取り調べを受ける中、デビッドはジョシュアにアクセスした人間がもう一人いる事を知る。その男、ロバートを探し出すため、デビッドは施設を脱走するが……といったお話。
主人公デビッドは、この時代には前衛的であろう、任意のコンピューターに侵入してデータの盗用や改竄をするようなハッカーです。
…おっと、ここで“ハッカー”という言葉を使うのは不適切ですね、正確には“クラッカー”だそうです。
高校生という若さや目的が幼稚である事から、そうは思いにくいけど、実は立派な犯罪者なんですよ。
パソコン通信→インターネットが世の中に普及されていない、つまりは法整備も整っていなかったであろう時代だから、今ほどの重罪にはならないんでしょうね。特に言及もされていないし。
逮捕歴がないとは言え、余罪を考えれば、もう以前のような学生生活は送れないどころか、引っ越しも確定でしょうが…。
これだけ聞いていると、デビッドは引きこもりのパソコンオタクと思われそうですが、情報収集のため、図書館に通ったり人に会ったりと、意外とアクティブな行動派なんですよ(動機は不純ですが)。
とは言え、どちらかと言えば運動は苦手のようで、体育系のジェニファーとの対比が良いんです。
パソコンのみならず、他にもタダで公衆電話を使う技を持っていたり、そのうち『ラジオライフ』あたりがスカウトしに来るんじゃない(笑)?
監督はジョン・バダムさん。
どんなジャンルでもソツなく作れる監督で、本作でもその手腕は発揮されていると思います。
言い方を変えれば凡作が多く、ドカーンとヒットした作品は決して多くない(はず)。
けど‟凡作”とは、言い換えれば万人が観ても(それなりに)楽しめる――これって、エンターテインメントの基本じゃないですか?
本作だって、扱うネタがネタだけに、一歩間違えれば専門用語だらけのオタク映画に成り下がっていた可能性もありますが、そこまでコンピュータに詳しくない人が見ても、かなり楽しめると思うんですよ。深いテーマも含んでいるしね。
チョー面白い作品もなければ、クソ面白くない作品もない。
娯楽の本来の姿である、気楽に映画を楽しみたい人には、ジョン・バダムさんの作品はオススメかも。
機械はミスをしないけど、それを扱う人間はミスをする。ミスもするだけでなく、迷いもする。
その表れが冒頭での、ミサイル発射の演習シーンです。
ボタンひと押しでミサイルを発射した上で、敵勢力を殲滅もできる。けど、ボタンを1回押すだけの単純な動作が万単位の人間の命を奪うと想像すれば、まともな人間であれば誰でも躊躇するものです。
機械は人間の操作で機能しますが、本当にその指令を全うしていいのか?
そう考えると、人間と機械の信頼関係を描いた作品とも呼べるかな?
ソ連との開戦が近い!とあたふたしていますが、始終アメリカの一人称のみで描かれる、ハッキリ言ってしまえば、モニターに映る虚構に踊らされただけの一人芝居なんですよね。ソ連側からすれば、アメリカの被害妄想に付き合わされているような(笑)。
人間がゲームだの現実だのと言っているだけで、コンピューター(というかプログラム)からすれば、そこに差はありません。
人間=デビッドがコンピューターを遊びの道具として使っていますが、実は人間がコンピューターに遊ばれていた事件である事を考えると、ブラックユーモア感すら漂います。
第3次大戦が勃発するかどうかの瀬戸際での、ジョシュアが出した答えがまた秀逸です。
どんだけデカい規模の戦争であっても、小学校の体育の授業での待ち時間によく遊んだアレと同じようなものだという答えは達観的であり、まさしく皮肉の極みです。
繰り言になるけど、1893年の作品ですからね。現代の視点であれば、本作におけるコンピューター関連の描写は、化石を見るかのような感覚に陥るでしょう。
そのあたりを捕まえて、古い技術を笑う事に始終する見方もありますが(←こういう手合いはコンピュータに明るい40~50代に多いと思う)、それくらいしか見どころを感じない人には1ミリもオススメはしません。
そんな斜に構えた見方をする年寄りは無視して、コンピューター通信に関して温故知新の精神がある人は一見してみるのもアリですよ。
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…げっ、何だよ、この高騰っぷり。俺ッチは数年前に500円で買えたのに…。
映像特典は多々あるんですが、これらに日本語字幕は一切ありません(!)。吹き替え音声すらないし。
30周年アニバーサリー版と謳っているけど、多くの日本人には関係のない仕様のようです…。