松田聖子 「Rock'n'roll Good-bye」 | 入門・再訪 松田聖子(広瀬すず、有村架純、洋楽の話などもわりとあるけど)

入門・再訪 松田聖子(広瀬すず、有村架純、洋楽の話などもわりとあるけど)

~ちょっと見てみませんか、聴いてみませんか?―1980年代の映像がDVD化されることを願って~

ヨースケ「お久しぶりです、ご機嫌いかがですか、レッツゴートークのお時間です」

のりちゃん「ご無沙汰してます、あっという間に今年ももうすぐ折り返しね」

ヨースケ「今回もいつものように松田聖子ちゃんの作品について、兄妹で楽しくおしゃべりしようと思います」

のりちゃん聖子ちゃんと言えば、ツアーが始まって、テレビもいくつか出演してたわ」

ヨースケ「過去映像が流れた"僕らの音楽"を見て、この番組の構成を担当しているあっちゃんが、DVD発売してって久しぶりに騒いでたね」

のりちゃん「お友だちのys様と盛り上げてたわね、ぜひぜひ、実現してほしいわ。さて、今日は何を取り上げるのかしら」

ヨースケ「昨年末に亡くなられた、大瀧詠一さんが手がけた作品の中から、"Rock'n'roll Good-bye"です」

のりちゃん「あらためてお悔やみ申し上げます。これは1982年のアルバム"Candy"に収録されているのね。このアルバムからは30周年記念で"真冬の恋人たち"を取り上げて以来かしら、1年半ぶりくらいよ」

ヨースケ「実は以前、この番組がいつもお世話になっているしおれたきゅうり様のブログで、1983年の"振り向けば…聖子"というテレビ番組、これも発売を熱望する声が強いですが、その鑑賞会が開かれて、この曲も3回にわたって特集されています」

のりちゃん「その中で、この曲や"振り向けば"での聖子ちゃんの絶品パフォーマンスについて、あっちゃんもかなりたくさんお話しているのね」

『Rock'n'roll Good-bye』』①勉強編~「振り向けば…聖子」鑑賞会34

『Rock'n'roll Good-bye』②あっちゃん編~「振り向けば…聖子」鑑賞会35

『Rock'n'roll Good-bye』③しおきゅう編~「振り向けば…聖子」鑑賞会36

ヨースケ「そんなわけで今日は番外編というか、もっぱらレコードについてのこぼれ話中心にしていこうかな、と」

のりちゃん「…と思ったら、動画サイトに音源がないってね、かける間際に気付いたりして♪"振り向けば…聖子"のオケは、最後のテープ逆回転からのところがカットされている以外はレコードと同じだから、そちらをまず聴いてみましょう」

振り向けば…聖子

ヨースケ聖子ちゃんがキュートすぎて音に集中できません(笑)」

のりちゃんそんなにマジに見つめてないで♪、作曲は大瀧さん、編曲の多羅尾伴内大瀧さんで、作詞は松本隆さん、キーはGです」

ヨースケ「ええと、まずイントロなんですけども、刻み数がちょっと変で、引っかかるねいきなり」

のりちゃん「G音を"ド"だとすると、はじめ"ソ"が13回あって、"ラ""シ"がつづいて、つまり合計15回の半拍があるの。それから"ドー"が1拍入って、"悪いけど♪"で3拍よね」

ヨースケ"ドー"が小節の頭で、その前に半拍が15個あるんだ。何となく"ソソソ"3個でひとかたまりのリズムが4組と、"ソラシ"の3個で、全部で15個あるようにも聴こえるけどね」

のりちゃん「4分の4拍子では1拍が1小節に4回だから、歌前が2小節だとすると8回、ということは半拍だと倍の16個あるはずでしょ、1個足りないわ」

ヨースケ「そうなんだよ、つまりこの曲の冒頭は半拍1個分の休みから始まっているようなものってこと」

のりちゃん最初からお休みなんて、あなたってどういうつもり♪

ヨースケ「おお、別の聖子ソングを放り込んできたね(笑)。ヒントになるかわからないけど、例えばベートーヴェン"運命"の冒頭、"ジャジャジャジャーン"も、先頭がお休みで、"(ン)ジャジャジャジャーン"だよね」

のりちゃん「あっちゃんといつもコメントくださるG様が以前そんな話をしてたわね。じゃあこれは西洋音楽のバックビートを連想させる意図ってことかしら。日本だと逆に、盆踊りの手拍子なんか、まず頭から叩くけど」

ヨースケ「なぜ半拍抜いたのか、大瀧さんに聞いてみたかったなあ。これ、同じリズムで3回目のAパート、"バンジョー鳴らして♪"に入る直前にも出てきて」

のりちゃん「ここはズッコケそうになるわ(笑)"許してね♪""ね"のところが小節の先頭で、半拍3つ分、そこから5つの半拍で合計8つで小節1つ、残り10個の半拍でトータル15個になるけど」

ヨースケ「1つの小節に半拍は8つだから、10個鳴らすと2つオーバーしちゃってます。ここだけ、4分の5拍子に変わってるということかな」

のりちゃん「4分の5拍子って…、"ミッション・インポッシブル"とか?、あ、"スパイ大作戦"の方がなじみがある方がここでは多いかも(笑)」

ヨースケ「ぐはは、小ネタとお気遣いありがとう(笑)なにせ、"バンジョー鳴らして♪"の前に1拍余計に入ってるよね。これは冗談っぽいな」

のりちゃん「ドラムスは青山純さんで、昨年暮れに亡くなられたのよね。お悔やみ申し上げます」

ヨースケ青山さん聖子ちゃんの作品だと"一千一秒物語"のイントロの強烈なスネアが印象的だなあ」

のりちゃん「この頃は山下達郎さんのドラムを担当されていたのね。達郎さんによると、ジャズ畑のスタジオミュージシャンが多い中、ロック好きで、特にレッド・ツェッペリンジョン・ボーナムが好きだったみたい」

ヨースケ「この曲でも力強さとしなりがあって、カッコ良いね。ジャズで思い出したんだけど、こんなエピソードもあって。ベースの高水健司さんについて、丁度この曲のレコーディングの少し前の頃の話かなあ、"NIAGARA SONG BOOK"のレコーディングの話を井上鑑さんが書いていて。『大瀧さんはベースの大仏こと高水健司氏が演奏しているすぐ横に立って"この人は眼を離すとすぐにジャズになっちゃうから"と言いながら、洒落たテンション入りフレーズを端から撤去していくのだった』って(笑)」

のりちゃん「今日は本当にこぼれ話中心ね、"Rock'n'roll Good-bye"については、ここまでほとんどイントロの話しかしてないけど(笑)」

ヨースケ「しおれたきゅうり様のブログにもあるように、このイントロから歌い出しはコニー・フランシス"Stupid Cupid"っぽいね。大瀧さんも、"松田聖子は80年代のコニー・フランシスか?"がこの曲のテーマだったと書いてます」

"Stupid Cupid"

のりちゃんコニーと言えば、大瀧さんが初めて触れた洋楽が彼女の"カラーに口紅"みたい。"Stupid Cupid"ニール・セダカの作で、彼へのオマージュは、例えば以前特集した"いちご畑でつかまえて"でも感じられるわね」

ヨースケ「こちらも先程ご紹介した、しおれたきゅうり様のブログにあるけど、聖子ちゃんの曲だと平尾昌晃さんがメロディーを作った"Eighteen"や、信田かずおさんがアレンジした"North Wind"のイントロにも、コニーを連想させる部分があります」

のりちゃん「もう一曲、フレディ・キャノン"Action"も紹介されているわ。こちらの動画の18秒くらいからの、半音下降して転調する部分が、"Bye-Bye-Bye Rock'n'roll Good-bye♪"のイメージね」

"Action"

ヨースケ「31秒くらいからの"Dance Dance Dance♪"の方が"Bye-Bye-Bye♪"と歌詞の乗せ方もかぶっていて分かりやすいかな」

のりちゃん「コードでいうとE7→A7→D7という5度進行で。ただ"Action"と違って、今度は半音上昇して、"Ah Ah Ah♪"で戻るのが面白いわね。半音上昇は最後の"じゃじゃ馬が♪""消えるだけよ♪"の間でも使われているの」

ヨースケ「次は間奏の"むすんでひらいて"の話なんだけどね、何か有名な曲をはさむとして、なんでこの曲にしたんだろうというのがあって」

のりちゃん「あっちゃんは、あの頃"クイズ面白ゼミナール""教科書クイズ"のイントロがこれだったんだよなあって言ってたわ」

ヨースケ「僕らにはさっぱり分からないけど、一定年齢以上の層には通じるかな(笑)。これからする話にも多少関係してます。あ、ちなみに間奏途中からのギターは村松邦男さんです」

のりちゃん「元シュガー・ベイブで、大瀧さん達郎さんと縁の深い方ね。"Candy"のクレジットだと村松邦治になってて誤植みたい」

ヨースケ大瀧さんは、1979年のMG5のCM曲の出だしでも"むすんでひらいて"を少し使っていて、そのギターも村松さんなんだ」

(追記)
大瀧さんが聖子ちゃんのレコーディングをやっていた頃、村松さんはシャネルズのレコーディングを手伝っていて、ソニーのスタジオが隣ということがよくあったそうです。
ある時大瀧さんに呼ばれて、「今ヒマ?」と聞かれ、ヒマじゃないと言ってるのに、「むすんでひらいて」のメロディを「全部アップのチョーキングで弾いてくれ」と言われたそうで、2時間くらいかかったとか。

のりちゃん「この曲は童謡よね、いつ頃誰が作ったのかしら」

ヨースケ「かなり古いみたい。それでね、大瀧さんが1983年に相倉久人さんと日本のポップ音楽の歴史について、"分母分子論"という対談をしていて、それが何かしら参考になるかもしれない。こんな感じで」

相倉「文部省唱歌の制定っていうのは明治10年代なんですよ」

大瀧「文部省唱歌っていうのは全部輸入音楽ですよね?」

相倉「全部洋楽でしょ(中略)僕自身何度も書いてテレるけれど、"むすんでひらいて"に始まるわけですよ、フランスの」

大瀧ルソーの作といわれる」

相倉「アレンジだけらしいけどね。ルソー"むすんでひらいて"に始まって、"ちょうちょ、ちょうちょ"っていうスペインの童謡につながっていく(中略)"蛍の光"つまりスコットランド民謡を歌って卒業していくという」

のりちゃん「敬称略、失礼しました。それと"ちょうちょう"は今ではドイツの童謡と言われているみたいです。ええと、ルソーは社会科で習った人物、"社会契約論"ルソー、ってことは1700年代の曲?」

ヨースケ「歌詞は色んなのがあるみたいで、明治の頃は"見渡せば"という曲で、"むすんでひらいて"になったのは1947年だそうです」

のりちゃん「要するに、現在につながる日本のポップスの源流をたどると、明治初期以来、小学校で習う歌に行き着くってことかしら」

ヨースケ「そう考えると、輸入音楽の歌詞を変えて吸収する象徴の一つとして"むすんでひらいて"を入れたのかなあなんて想像しちゃうな、これも大瀧さんじゃないと分からないけどね」

のりちゃん「バックビート、オールディーズ、ロックンロール、洋楽をベースにした唱歌…、音楽の歴史を散りばめながら、でもそんなこと知らなくても、この作品はエンターテインメントとして、とっても楽しいわ」

ヨースケ「そうなんだよ、それがポップスでとても大切なことで、大瀧さんも別にマニアックな聴き方をみんなに求めてるわけじゃないでしょう」

のりちゃん松本さんのじゃじゃ馬な歌詞も良いし、何と言っても松田聖子ちゃんの歌唱がとても大きいわね」

ヨースケ「あと、音楽史の当時の最新版ということで、効果音の話も少し」

のりちゃん"紙テープ投げて♪"のところとか、"キスを返すわ♪"の投げキッスが飛んでる音とか、本物を聞いたことないけど(笑)」

ヨースケ「これねえ、難波弘之さんがキーボードでクレジットされてますけども、松武秀樹さんの話を紹介するね。松武さんによると、シンセのダビングは大瀧さん難波さんと3人でやることが多かったそうです。それで大瀧さんから"紙テープの芯を抜いて、それを投げている時の音"が必要、とか言われて(笑)。"シュルルルル~"みたいな音が欲しかったんだと思いつつ、実際にそんな音がするかどうかわからないので、イメージしながら作ったらしいです。これってこの曲の"紙テープ投げて♪"のことだよね、おそらく(笑)」

(追記:松武さんご本人にお会いした際に確認したところ、その通りとのことでした。)

のりちゃん松武さん"夏の扉"のイントロもクレジットされていないけど弾いてたって話を以前この番組でしたわね。裏方として活躍してたのね」

ヨースケ「もう一つオケの話をすると、アコースティック・ギターが6人、キーボードが4人、パーカッションが6人という大編成で」

のりちゃんフィル・スペクターからの影響もあって、この頃の大瀧さんのオケは、まず大人数で同時に演奏する、いわゆる一発録りをしてたそうね。後からオーバーダビングして」

ヨースケ「この曲も青山さん、高水さん、村松さんを加えた19人で一斉にスタジオ演奏したのかなあ。楽器とマイクの配置を、エンジニアの吉田保さんたちが短時間で工夫されてたようです」

のりちゃん「音の厚みに加えて、各楽器の音が少しずつズレてかぶって、独特なノリ、グルーヴが出るのね。パーカッションの斉藤ノブさんによると、打楽器は基本全員同時に同じフレーズを演奏していたみたい」

ヨースケスペクターと言えば、"ダ・ドゥ・ロン・ロン"の歌い出しと、"都会の風にちょっぴり♪"とが、ちょっぴり空耳なだけ♪(笑)」

のりちゃん「メロディーの話でもう一つ、"悪いけど行くわね♪"の"わねえ"の半音だったり、"そんなにマジに♪""にいい"とか"Rock'n'roll Good-bye♪""ばああい"とか細かく刻んでいたり、聖子ちゃんの歌声とロックンロールの相性が合っていて面白い工夫だわ」

ヨースケ「歌詞も音の響きを重視している方かな。"行くわね""男前ね""マジに""間際に""見送らないで""気付いたりして"みたいに語尾をそろえているのと、あと繰り返しも目立つね」

のりちゃん"Bye-Bye-Bye""Good-bye"はもちろんのこと、"自由に愛して""自由に生きて""鳴らして""投げて""言われたい""手に負えない"なんかそうね」

ヨースケ「聞かせどころになっている"Ah Ah Ah♪"が歌詞にないのが意外です。ここの歌唱はほんと聖子ちゃんが鳴ってる感じがビシビシくるよ」

のりちゃん聖子ちゃんのヴォーカルのはまり具合はすごいわね、本当にカウボーイ・ブーツ履いてる様子が思い浮かぶもの」

ヨースケ「話題があっち行ったりこっち行ったりしたけど、これで大体お話出来たかな」

のりちゃん「長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。この曲らしく、番組もまじめに遊べたんじゃないかしら」

ヨースケ「作品の魅力について、あまり話が出来なかったかもしれませんが、最後までありがとうございました。いつもみなさまにご視聴、コメントいただくおかげで、番組が続いていまして、御礼申し上げます」

のりちゃん「きいろ様、いつも応援ありがとうございます、とっても嬉しいわ」

ヨースケ「最後に1982年の武道館公演、"クリスマスクイーン"でのこの曲をお届けしながら、またお会い出来る日を楽しみにしています」

のりちゃん「またねえ、バイバイバイ、ロックンロール・グッバイ♪

クリスマスクイーン