小倉百人一首より58番

『恋の歌』

 

有馬山 猪名の笹原 風吹けば

いでそよ人を 忘れやはする

 

ありまやま いなのささはら かぜふけば

いでそよひとを わすれやはする

 

 

1、歌意

有馬山の麓の猪名の笹原に風が吹くと

笹の葉がそよそよと音がするが

さぁ、お忘れになったのはあなたで、

どうして私があなたを忘れましょうか。

(忘れるはずがありません。)

 

 

2、文法の解説と単語の意味

・有馬山:枕詞。兵庫県神戸市にある山。

・猪名:枕詞。兵庫県猪名川周辺。

・笹原:一面に笹が生えている。

・ば:順接確定の接続助詞。「~すれば」

・いで:勧誘を示す副詞。「さぁ」

・そよ:鑑賞のポイントで説明しています。

・忘れやはする:忘れるでしょうか。いいえ忘れません。

・「やは」「する」:係り結び。「やは」は反語の係助詞。

 

 

3、鑑賞のポイント

歌が詠まれた背景は、

「かれがれなる男のおぼつかなく、いいたるに詠める」

(足遠くなった男性があなたが心変わりしないか不安だ)と言ってきたことに応えた歌。

 

上の句で序詞を使い穏やかな自然の景色を詠い下の句を引き立てています。

下の句は一転自分の変わることのない気持ちと相手に対する批判を込めています。

 

上の句の情景は有馬山から吹き下ろす風で、寂しい猪名の笹原が風でなびいていることがわかります。これはその景色のイメージから男女の関係が冷え冷えしていることを表していると思われます。他の説もあり。

 

序詞「有馬山 猪名の笹原 風吹けば」は

「そよ」を導き出す。

 

有馬山:兵庫県の歌枕

猪名:兵庫県の歌枕

なぜこの地名が使われたのかは謎だそうですよ。

 

掛詞

「そよ」は、笹の葉が「そよそよする」と「そうだよ」の意味を含みます。

ここでの「そうだよ」とは、男性がおぼつかなくと言った言葉のことで、

心変わりした人のこと。または、心変わりしていないか心配に思ったのは私も同じということになります。

 

自分の行動を棚に上げて、女性を疑う男性に反発するように「あなたはどうなの?私が忘れましょうか、いいえ忘れませんよ」と反語も使いきびしく鋭くも訴えてていますが、序詞の美しさによって、全体を穏やかにまとめています。

 

忘れやはする・・・当時の流行りの言葉で、多くの歌に用いられている。

 

 

4、決まり字

あり・・・3字決まり

 

他に

30番:ありけの・・・

 

 

5、歌人

藤原賢子(ふじわらかたこ)

紫式部の娘

大弐三位(だいにのさんみ)

 

 

6、出典

後拾遺集

 

 

7、私の一言

自分が女性の元へ通わなくなったのに、女性の心変わりを心配するなんて、どういうこと!? いやいや、心配するくらいなら会いに行ってください!!!!当時待つことしかできない女性にこんな流暢かつ強気な皮肉たっぷりの歌を贈らせるな!って思ったのは私だけ????あたしなら一言、それ私のセリフでしょムカムカって言うプンプンえーん…言えたらね笑アセアセ

 

この歌は百人一首58番ですが、一つ前の57番は作者の母である紫式部の歌であり、親子が並べて配置されています。ちなみに、和泉式部親子は母56番、娘60番に配置されています。百人一首には親子での選入が15組あります。そして親子三代が1組あります。

 

 

※変更とお詫び

昨日の和歌の鑑賞のポイントを一部変更しました。

昨日は、「長く生きてきて、一人また一人と親しい人が去っていき」と書きましたが、

現在は、「長く生きてきて、一人また一人と親しい人が亡くなっていき、もはや誰一人として残っていないと気づき、作者はどう思ったのか」

に変更しています。すみません。

そうするとまた歌の印象が変わってくるのではないでしょうか。

 

 

8、メッセージ

 

親子だから

わかることもありますが

親子だから

理解できない

理解したくないことがあります。

 

つまりは、親の気持ちを子供にわかってほしいと訴えているだけなんですが

親は親

子供は子供なんですよね・・・

 

親というか経験者の意見は大切ですが

見守る勇気を持ちましょう

 

私も子育て真っ最中です

自分へのメッセージでもあります。

 

参考にしているサイト

百人一首の意味と文法解説(58)有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする┃大弐三位 | 百人一首で始める古文書講座【歌舞伎好きが変体仮名を解読する】 (honda-n2.com)

百人一首58番 「ありま山 ゐなの笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする」の意味と現代語訳 – EVRICA(エブリカ)

 

参考にしている本

・原色シグマ新国語便覧 増補三訂版  文栄堂

・カラーワイド 新国語要覧  大修館書店 (私が高校生の時のもの)

・百人一首(全) 角川ソフィア文庫

・ビジュアルでわかる 美しい和歌の世界 百人一首 成美堂出版

・百人一首を楽しくよむ 風間書院

・図説 百人一首 河出書房新社

・百人一首の新研究 定家の再解釈偏 和泉書院