ここは地獄の入口。
えんまさまの前に、ほらふき歯医者がかしこまって座っています。
自分は「天下一の歯医者」だと、ほらをふいて、患者にさんざん痛い思いをさせてきたのです。
地獄に落ちるのは、免れそうにありません。
えんまさまに罪を暴露されても、ほらふき歯医者はたじろぎません。
「いえいえ、わたしの うでまえは たしかにてんかいち。わたしのちりょうで いたいなどというものが あれば、それは うそつきの かんじゃでございます」
そこでえんまさまは、鬼を集めて、歯の治療をさせてみます。
「もし なおすことが できなければ おまえのしたを ぬき、じごくへ おくるぞ!」
ほらふき歯医者は、さびだらけの道具で、虫歯でもない歯をギリギリと抜いてしまいます。
鬼たちは、うそつきで弱虫だと言われたくないがため、必死で痛みを堪えます。
最後にえんまさまの歯も治療します。
雷のような痛みがえんまさまの身体を突き抜け、気を失いそうになります。
えんまさまの口から、泡がぶくぶく~。
抜いて穴があいたところに、ほらふき歯医者は、将棋の駒を、ぐいっと押し込みました。
「こ・こ・この わひも ちっとも ひたふ なかったぞ。ところで おにども わひの あたらひい は は、どうじゃ」
とえんまさまが言うと、鬼たちは、
「えんまさま、おにあいで ございますぅー」
とひれ伏します。
それからというもの、鬼たちは歯医者を恐れ、せっせと歯みがきをするようになりましたとさ。
うそつきで弱虫だと言われたくないがために、健康な歯を抜かれても我慢するかしら?
名医にそう言われたならともかく、ほらふき歯医者と悪名の高い歯医者ですよ?
ほらふき歯医者の「ほら」に、もう少し説得力が欲しいところですが。
鬼たちが歯みがきをするようになったのはいいことですね。
表紙のどら焼きが美味しそう…。