ブリキとブライス③ ブライスへの手紙 | 黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

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世間からかなりずれている管理人、黄昏黒猫堂こと黒猫が自作人形やイラストを発表しつつ、ニート、ひきこもりなど生きずらさを考える。(画像一覧で作品を見ていただけるとうれしいです。)

(画像と物語は直接関係ありません。)

 

 ブライスとブリキはいつでも仲が良かったわけではない。別れそうになったことだって何度かあった。そんな時はいつも決まってブリキが「お願いだから行かないで。」とブライスを止める。そして「仕方がないわね。」と言ってブライスは思いとどまる。

喧嘩して、別れそうになる理由は、ブライスに届く手紙のせいだった。本当に時々だけど、鳩の郵便屋さんからブライス宛の手紙が届く。ブライスは手紙を読むとすぐに暖炉の火にくべてしまい、どんな手紙なのか、ブリキに話したことは一度もない。でも決まってその後何日も黙ったままでいる。

 ブライスに秘密があることはブリキにも何となく分かっていたけれども、手紙はブリキを不安にさせる。おまけに手紙を読んだ後のブライスは決まって取り付く島がない。言いたくないことは言わなくてもいいけれど、でも、ブリキはブライスから突き放されたようで、それが辛くて、ブライスにあたってしまう。別れると言うブライスを何度もブリキは止めたけれど、たいがいブライスは優しかった。喧嘩をしても結局はいつもブリキの横にいてくれる。

 でも、ブライスがしばらくいなくなってしまったことが一度だけあった。

 ある日のこと、ブライスが手紙を読むと、いつものように火にくべずに、手紙を握りしめ、ブリキが止める間もなく、旅の荷造りをすると、「ブリキ、今までありがとう。わたし、行かなくちゃならないの。だから、ごめんなさい、もう、さよなら。」そう言うと、家を飛び出して行った。ブリキはブライスの後を追って外に出たけれど、石につまずいて棒杭が折れて倒れてしまった。ブライスは振り返ることもなかった。ブリキは遠ざかるブライスの後姿を見ながら、「ブライス、行かないで。」と叫んだ。でも、ブライスは振り返らなかった。ブリキは倒れたままでいた。あんまりにもあっけない別れはブリキの心から生きる力を奪ってしまった。ブリキは動けなかった。何日も何日も、雨に降られ、日に照り付けられて、そのまま草むらの中に転がっていた。

 それからしばらく過ぎた雨の日のこと、ブライスは戻ってきた。雨の中、足が折れて転がっているブリキを見て、ブライスは傘も鞄も投げ出してブリキに駆け寄った。「何してるのブリキ、こんなところで。」ブリキは嬉しそうな顔をしたけれども、すっかり弱って、声も出せずに、弱々しく手を差し出した。ブライスはその手を握って泣いた。

 暖炉にまた火がともり、またいつもの生活が始まった。

 「帰ってくるつもりはなかったけれど、結局わたしのいるところ、ここしかないみたい。」

ブライスが、気まずそうに言うと、「僕はブライスが帰って来てくれて嬉しい。」とだけブリキは言って、手紙のことも、ブライスが何をしていたのかも聞かなかった。ただ、この後、ブライスに手紙が来ることはなかった。日が昇り、草原は金色に輝き、夕焼けに草原は赤々と染まる。巡る時の中で、小さな青い家の中、ブライスとブリキは平穏に過ごしていった。(続く)

 

 

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