(画像と物語は関係ありません。)
草原の丘の上の小さな青いお家で、ブリキとブライス人形は暮らし始めた。「君のこと、なんて呼んだらいいのかな。」とブリキが言うと。「ブライスって呼んで。」と彼女は言った。青い家の周りは、ただただ広い青草の野原で、いつも風がそよそよ吹いて、まるで大きな湖にさざ波が立つように草はそよいでいた。丘の中ほどには、こんこんと水が湧き出る泉があって、そこから小川が流れだし、草原の中を流れて、やがて森の中に消えていく。
「駒鳥ロビンのお店に行きましょう。」とブライスが言った。「ロビンのお店にはリボンがあるから、それであなたの足の棒杭をしっかりしばりましょう。」
丘の中ほどから流れ出す小川に沿った小道を歩いて行くと、森の中に駒鳥ロビンの小さな裁縫店がある。森の中にもぬいぐるみ達が住んでいて、ロビンの店ではぬいぐるみ達のために、いろいろな雑貨も置いている。
ブリキの片足は膝から下が無くなってしまったけれど、ブライスの胸とお腹には大きな穴がひとつずつ開いている。その訳をブリキは知りたかったけれど、それは聞いてはいけないような気がして、聞かなかった。でも、ブリキはその穴を縫ってあげたかった。
「ねえ、ブライス。ロビンの店で、僕は針と糸を買うよ。」とブリキが言うと「どうして。」とブライスが聞いた。「君の穴を縫ってあげたいんだ。」と言うブリキに、「ありがとう。」とブライスは言ったけれど、その表情はどこか寂し気だった。ブリキはそんなブライスの様子が気になった。ブライスのような可愛いい女の子が一緒にいてくれることが、それまでずっとひとりで寂しかったブリキには、信じられないくらい嬉しいことだった。ブライスはブリキに笑顔をくれる。でも時折見せるブライスの寂し気な顔に、ブリキの心は曇る。ふたりはロビンのお店で長いテープのようなリボンと縫い針と糸を買って、青いお家に帰って行った。
ブライスはブリキの足の棒杭をテープで上手に縛った。それでブリキはしっかり歩けるようになった。もう踊ることは無理でも、ブライスと駈けっこぐらいはできそうだ。ブリキはいつのまにか踊りたいとも思わなくなっていた。だって、いつもブライスが横にいてくれるのだから、もう大切な人を探して踊らなくてもいい。ブライスはブリキの大切な人だから。
大切なブライスの穴を塞ごうと、ブリキは一生懸命縫い続けた。ブライスの穴は、一端は塞がっても、時間がたつと、糸がほどけて、また穴が開いてしまう。「僕の縫い方が悪いのかな。」とブリキが言うと「ブリキのせいじゃないの。そういうものなの。」とブライスは寂しく笑った。それでもブリキはブライスの穴を縫い続けた。だんだん縫い仕事が上手になって、ロビンのお店の刺繍縫いの内職もできるようになって、もっと上等な糸も買った。それでもブライスの穴は塞がらないけれど、「ブリキに縫われているの、わたし、好きかもしれない。」と言われると、ブリキは嬉しくなって、いつか必ずブライスの穴を塞ごうと思った。
(続く)
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