ブリキとブライス① 淋しいブリキの人形 | 黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

世間からかなりずれている管理人、黄昏黒猫堂こと黒猫が自作人形やイラストを発表しつつ、ニート、ひきこもりなど生きずらさを考える。(画像一覧で作品を見ていただけるとうれしいです。)

(画像と物語は直接関係はありません)

 

 人間たちの知らない人形の世界に、ひとりのブリキの人形がいて、彼はみんなからブリキと呼ばれていた。人形の街の街かどで、彼はいつも踊っていた。ブリキは結構上手に踊れて、人形たちは彼を誉めてくれた。でもブリキはあまり嬉しくなかった。「僕を褒めてくれるたくさんの人たちより、僕は、僕を愛してくれるひとりの人を探しているんだ。」、ブリキはサンタ爺さんの家の屋根裏部屋の自分の小さな部屋に戻ると、窓辺から月を眺めて、ため息をついて呟いた。

 どんなに踊りを褒められても、結局ブリキは屋根裏部屋でたったひとりの夜をぽつねんと過ごす。どれだけひとりの寂しくて哀しい夜を過ごしただろう。幾度かブリキは恋をして、そして想いを打ち明けた。そのたびに「ごめんなさい、あなたの踊りは素敵だけど。」と、決まり文句のような言葉が返ってくるばかり。「どんなに上手に踊っても、僕と一緒にいてくれる人はいない。」ブリキは悲しかった。

 ずいぶんブリキは無理をしていた。それで、膝の繋ぎ目にひびがはいった。もうブリキは踊れない。「もういいんだ。どうせ踊っても、僕はたったひとりの大切な人には出会えなかった。」月の光のさす屋根裏部屋でひとりブリキは泣いていた。もう流す涙もなくなった時、ひびのはいった足を引きずって、ブリキはひとり街を出た。

 どれだけ歩いたことだろう。森を抜け、川にかかる橋をわたり、広い野原にたどり着いたとき、ひび割れたブリキの片足が膝からもぎれた。もうブリキは歩くこともできない。

「もういいんだ。僕はたったひとりの人に出会えなかった。ここでこのまま錆ついて、ガラクタになればいいんだ。」、ブリキはもう諦めた。もうここで消えていこう。ブリキは草の上に横たわり、静かに目を閉じた。その時だった。

「大丈夫、こんなになって。あなた、街角で踊っていたブリキね。」

ブリキが目を開けると、そこにはひとりの綺麗なブライス人形の女の子がいた。

「ちょっと、待っててね。木の棒を探してくる。」と言って、彼女は駈け出した。すこしたって、ブライス人形は一本の木の棒を持って戻ってきた。

「うまくつくかしら。」と言って、ブリキのもげた足の膝のところに棒をさしこんだ。

「どうかしら、ちょっと立って、歩いてみて。」

ブリキは立ちあがると、おそるおそる歩いてみた。けっしてうまく歩くことはできないけれど、なんとか歩くことができた。

「ねえ、この先に誰も住んでいない青いお家があるの。わたしたち、そこで一緒に暮らしましょう。」

それは信じられない言葉だった。ブリキは、それまで灰色だった景色がいきなり彩色されて光に満たされたような気持ちになった。ブリキとブライス人形は、草原をゆっくりと歩き、小さな丘の上に建つ、小さな青いお家にたどりついた。(続く)

 

 

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