ブリキとブライス④ 別々の想い | 黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

世間からかなりずれている管理人、黄昏黒猫堂こと黒猫が自作人形やイラストを発表しつつ、ニート、ひきこもりなど生きずらさを考える。(画像一覧で作品を見ていただけるとうれしいです。)

(画像と物語は直接の関係はありません。)

 

 ブライスとブリキが青い家で暮らし始めてから、たくさんの歳月が流れた。ブリキの足は時々新しい棒杭に付け替えるだけでいい。でも、ブライスの胸とお腹の穴はけっして塞がることがなかった。「どうして塞がらないのかな。」とブリキが言えば、「そういうものなの。」とだけ、ブライスは答え、「ブリキは縫っていればいいの。」とブライスは笑う。

ふたりの人形はかなりくたびれてきた。ブリキはあちこちに錆が目立つようになった。ブライスのしなやかな姿にも歪みが出て来た。「わたし、随分古くなった。」と言うブライスに「ブライスは相変わらず綺麗だよ。」とブリキは言う。それはお世辞ではなく、ブリキは本当にブライスは綺麗だと思った。

 よくブリキは思う。なんでブライスは僕なんかと暮らしているのだろう。それに僕はブライスのことを本当には知らない。あの手紙のことも、彼女にふたつの穴が空いている訳も、ブリキたちが古びて、やがて壊れていく日もそんなに遠い先のことではない。でも、なかなか聞けなかった。もしかすると自分が思ってきたことはすべて夢や幻になってしまうと考えると恐ろしかった。今それを知ってしまったら自分は奈落に落ちるような気がした。かといって何も知らないままでいることも嫌だった。

 ブリキは漠然と思っていた。愛するから愛されるなんていうことは、少なくとも自分には当てはまらない。どんなに愛したところで、その想いは報われることはない。もし、自分がブライスから本当に愛されているのなら。あの穴はとうに塞げたはずだ。でも、穴は塞がらない。それじゃ、僕はブライスにとって何なのだろう。あのブライスの体の穴は彼女の虚しさ。それを埋められない僕はブライスから愛されていない。それに、どうしてブライスに穴が空いたのか。

 「ねえ、ブライス、そろそろ本当のことを教えてよ。」ブリキは真剣だった。だからブライスもキュッと眉を引き締めた。ブリキは思っていることの全部を、ブライスに言った。

 「ごめんなさい、わたしはブリキに恋をしてない。でもね、ブリキのことはとても好き。わたし、寂しいからブリキに横にいて欲しかった。わたしの寂しさは消えない。だからこれからも一緒にいて欲しい。わたしね、王宮の鉛の兵隊に恋をしたの。でも平民のわたしと彼は一緒になれない。それはとても悲しいこと。体の穴はその時空いた。でも、彼は王様の機嫌をそこねて島流しになったの。鳩が運んでくれた手紙は知り合いが彼の様子をわたしに知らせたもの。そして彼は島流しを許される代わりに、平民の身分に落とされた。わたしはそれを知って、いてもたってもいられなくなって彼のところに行ったの。でも彼は島の娘と恋に落ちていた。わたし泣いた。わたしの穴はもう塞がらないわ。それで家に帰ってブリキの弱った姿を見てまた涙が出た。わたしはブリキに恋をしてない。わたしは鉛の兵隊を忘れられない。でも、可哀想なブリキ、ブリキをほっとけない、ブリキと一緒にいようと思った。」ブリキは黙って聞いていた。「本当のことを言ってくれて、ありがとう。」そう言うブリキの顔は笑っているのか、泣いているのか分からなかった。(続く)

 

 

ブログランキングに参加しています。クリックしていただけると励みになります。


人形・ぬいぐるみランキング にほんブログ村 ハンドメイドブログ 布人形へ
にほんブログ村