Kさんは中学を卒業するとすぐに小さな鉄工所で働きだした。勉強ができなかったわけではないけれど、高校にいってまで勉強したいとは思わなかった。家が貧しかったということもあるけれど、それよりも早く大人になりたかった。それで就職した。
それから10年たった。仕事は嫌いじゃない。それでも、道行く高校生の姿を見ると、無性に勉強をしたくなった。勉強をして、どうこうというわけではないけれど、ただ学びたいと思った。ただそれだけだった。
Kさんは定時制高校に入学して、働きながら学び始めた。Kさんは息子と同じ年に、同じ学校に入学した。息子は15歳、Kさんは26歳だった。明るい好青年のKさんは誰とでも打ち解けた。年齢が高く、しっかりした社会人のKさんを誰もが一目置いた。誰にも分け隔てなく接するKさんは、みんなに信頼される兄貴分だった。
3.11、東日本大震災の時には、Kさんは車に支援物資を積み込んで被災地に向かった。しばらく被災者のためのボランティアをしていた。それと、自分は進学をするわけでもないのに、通信制高校の単位履修生になって、3年で卒業したい進学希望者たちを引っ張った。そんなKさんの姿に元気づけられた生徒も多かったと思う。
授業についていけなかったり、将来に希望が持てなかったり、複雑な家庭の事情に疲れたりして退学した生徒は何人かいた。それでも、Kさんのひたむきな姿に勇気づけられた生徒はたくさんいたと思う。僕はKさんを「兄貴」と呼びたい。
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