夏空の下、鮎を追う少年 | 黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

世間からかなりずれている管理人、黄昏黒猫堂こと黒猫が自作人形やイラストを発表しつつ、ニート、ひきこもりなど生きずらさを考える。(画像一覧で作品を見ていただけるとうれしいです。)

 少年は鮎が泳ぎ、秋には鮭が上ってくる清流のほとりに住んでいました。夏休みになると、少年は夜明けとともに家を出て、夏雲の立ちのぼる青空の下、何キロも川の堤防を上流に向かって歩いていきます。そして手には掛け針、腰にはビクをくくりつけて澄んだ川に飛び込みます。少年は泳ぎが上手くて、川を流れ下りながら、次々と鮎を針に掛けて、腰ビクに採った鮎をいれていきます。家の近くまで泳ぎ下るうちに、腰ビクは鮎で一杯になります。少年が岸に上がると、待っていた魚の仲買人に鮎を渡してお金を受け取ります。そうやって貯めたお金を持って、少年は町に出て、釣具屋でお目当ての漆塗りの竹竿を買うのです。

 少年は大人になって、東京の大企業のサラリーマンになりましたが、もともと野生児だったせいか、会社勤めが合わなくて、独立して自営の仕事をするようになりました。子供もできて、息子から、「鮎を採って買った竿で何を釣ったの。」と聞かれると、「あはは、もったいなくて結局使わなかったよ。そうだ、今もその竿があるから、君が使ってみるかい。もうずいぶん上手になったからね。」、「いいよ、漆の竿はやっぱりもったいないや。グラス竿で十分さ。」、「そうか、う~ん、そうなんだよなs.」、そう答えたのは僕の父です。川下りで鮎を採っていた少年です。

 父は鮎採りだけではなく、ウナギやナマズ採り、カジカの採り方も話してくれました。そんなときの父は本当に嬉しそうでした。東京近郊に住んでいた僕たちは、よく鮒を釣りにいっていました。「父さんの田舎はね。鮒は珍しくて、こんなには釣れなかったなあ。」父子でそんなことを話していました。父は癌で亡くなりましたが、今でも、川の流れの中で鮎を追う少年が心の中にいます。

 

ブログランキングに参加しています。クリックしていただけると励みになります。


人形・ぬいぐるみランキング