父の母親、僕の祖母は、僕の知る限り、いつも糸車を回して、糸を紡いでいた。糸はほとんどが工場で作られるけれど、高級品の着物には手作りの糸が使われる。祖母は糸紬の達人で、祖母の作る糸には高値がついた。父の実家に遊びに行くと、祖母はいつも糸車を回していて、その近くにはいつも猫たちが寝そべっていた。
祖母は不思議な人だった。あまり生活感が感じられない人だった。浮世離れという言葉がぴったりくる。寡黙で、世間話をほとんどせず、人付き合いは苦手のようだった。子供ながらに、世間から遠い人のように見えた。僕が幼いころに亡くなった祖父のことは、ほとんど憶えていないが、茫洋とした人柄で、とても優しい人だったという。
祖母の一生はおおむね穏やかなもので、僕は浮世離れした不思議な人という印象を持っていただけだったが、もうすでに祖母が亡くなった今にして思うと、それだけだったろうかと思う。祖母は家族以外の人とほとんど関わりを持っていなかったように思える。ある種のコミュニケーション障害、発達障害を持っていた可能性もあると考えることもできる。たまたま穏やかな環境に身を置くことができ、一芸に秀でていたので何の問題も出なかったけれど、もしも現代の若者として生き、家族の理解も得られず、特別な才能もなかったら、どうなっているだろう。
今となっては、本当のところを確かめる術もないけれども、何らかの生きづらさを抱えている人々にとって、祖母の生き方はひとつのモデルになるのではと思える。少なくとも、穏やかな父方ではなく、せちがらい母方の家系に生まれていたら、祖母は確実に潰されていたと思う。
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