(葬儀会場の控え室)



(喪服を着ている)

息子
「(駆け込んでくる)おじいちゃん!」


「あぁ、帰ってきたのね。」

息子
「ゴメン。
 仕事が終わらなくて、急いで飛行機で帰って来たけど、
 お通夜に間に合わなかった。」


「うん。
 とりあえず、このあと葬儀があるから。」

息子
「おじいちゃん、本当に亡くなったんだ・・・」


「もう突然・・・」

息子
「何で亡くなったの?死因は?」


「・・・キュン死。」

息子
「・・・はい?」


「キュン死。」

息子
「キュン死?」


「そう。キュン死。」

息子
「キュン死って?」


「少女コミック読んでて、突然、キュンってなって・・・」

息子
「で、キュン死?」


「キュン死。
 おじいちゃんにとって、あのレベルのキュンは刺激が強かったのね。」

息子
「え、おじいちゃん、少女コミック読んでたの?」


「そうよ。
 ブックオフでも、一人少女コミックのコーナーにいっては、
 1巻から最終巻まで大人買いして。」

息子
「少女コミックを大人買い・・・。」


「若干、お店の人もひいてたみたい。」

息子
「そういえば、おじいちゃん言ってたな。
 おばあちゃんとの馴れ初めの話。」


「そう。
 おじいちゃんがパンをくわえて、
 『遅刻!遅刻~!』って走ってるところをおばあちゃんとぶつかって・・・」

息子
「そのときは、『ちゃんと前を見てよね!』とお互いを罵り合って別れたけど・・・」


「そのあと、おじいちゃんのクラスに転校生が来るって言って、
 やってきたのがおばあちゃんで・・・」

息子
「『あなたはあのときの!』っていう出会いだったって話か・・・。」


「その時点から、すでに少女コミック好きの片鱗は見せてたみたいね・・・。」

息子
「そういえば、おじいちゃん、前に東京に来たとき、俺が道案内したんだけど、
 お昼に何食べたい?って話になって、『吉野家に行きたい』って言ったんだ。」


「吉野家?」

息子
「そう。牛丼でも食べたいのかなと思ってたら、
 おじいちゃん、ずっと店員さんに
 『壁ドンお願いします。壁ドンお願いします。』って言ってて・・・。」


「牛丼があるのなら、壁ドンも吉野家が提供するサービスだと思ってたのね。
 店員さんはどうしたの?」

息子
「壁ドンしてあげた。」


「したんだ。」

息子
「終わったあとも、『おかわりお願いします。おかわりお願いします。』って言ってて・・・。」


「店員さんは?」

息子
「してあげた。」


「したんだ。」

息子
「結局3杯オーダーして。」


「壁ドンの単位って、1杯2杯なの?」

息子
「壁ドンの間、周りのお客さんに見られてた。」


「そりゃ見るわよ。吉野家の店員がおじいちゃんに壁ドンしてたら。」

息子
「終わったあと、おじいちゃん言ってた。
 『やっぱ、松屋やすき家より、吉野家だな』って。」


「松屋やすき家でもオーダーしたんだ・・・」

息子
「っていうか、馴れ初めの話といい、壁ドンといい、
 なんでおじいちゃんが少女側なのかわからない。」

男性の声
「すみませーん。」


「はーい。(入り口に向かう)」

息子
「誰だろう?」

母の声
「(玄関の方から)帰ってください!」

息子
「ん?」


「(封筒を持って戻って来る)まったく・・・」

息子
「誰?」


「おじいちゃんがキュン死したときに読んでたコミックの編集者。
 『お線香あげさせてください』って。」

息子
「あげさせてもよかったんじゃない?」


「イヤよ!
 あの出版社とはちょっといろいろあって・・・」

息子
「その封筒は?」


「『せめてもの気持ちです』って渡されたけど・・・(封筒を開ける)」

息子
「何それ?原稿?」


「(封筒から紙を取り出す)うん。原稿。」

息子
「あ、サイン入ってる。」


「あ、これ!おじいちゃんがキュン死したシーンの生原稿じゃない!
 しかも、作者のサイン入りの!
 何これ!どういう嫌がらせ?!」

息子
「確かに遺族はどういう気持ちでこれを受け取ったらいいかわからないね。」


「送り返すわ!」

息子
「いいじゃん。もらっておけば。」


「違うのよ。
 ムカつくのは、向こうの対応が事務的なのよ。」

息子
「というと?」


「おじいちゃんがキュン死したから、
 そのコミックの編集部に連絡を取ろうと、ホームページを見たのよ。」

息子
「うん。」


「そしたら、『キュン死した方はこちら』ってリンクがあって。」

息子
「あぁ、もうキュン死は想定内なんだね。」


「お名前、住所、電話番号と入力して、
 キュン死したコミック名、何巻、何ページ、何のセリフか入力しなきゃいけなくて。」

息子
「めんどくさいね。」


「一緒に読んでたわけじゃないから知るわけないし、
 もし、確認しようと読み直して、わたしがキュン死したらどうするの。」

息子
「え?読んだ人、みんなキュン死しちゃうの?」


「そう思って、おじいちゃんがキュン死したときに持ってた本の名前と巻数をネットで検索したら、
 98ページの5コマ目で500人くらいの人がキュン死してて。」

息子
「うん。
 っていうか、そこで言ってる『キュン死』っていうのは比喩(ひゆ)の方?マジの方?」


「マジの方。」

息子
「マジの方か。」


「編集者も3人キュン死してて。」

息子
「比喩の方?」


「マジの方。」

息子
「マジの方か。」


「作者もそのシーンでキュン死してて。」

息子
「比喩の方?」


「マジの方。」

息子
「マジの方か。
 作者がキュン死して、そこから先どうなったの?」


「バトンタッチして、そこから画風が変わってる。」

息子
「そうなんだ。
 っていうか、出版前に作者を含めて4人死者が出てるんであれば、
 その本はもう世に出すべきじゃないと思う。」


「だから、表紙には『心臓の弱い方は読まないでください』って注意書きがあるのよね。(コミックを渡す)」

息子
「(表紙を見て)少女コミックでドクロマークにこの注意書きが書いてあるの、初めて見た。」


「おじいちゃんの顔見る?」

息子
「あ、見る。」


「隣の部屋に棺あるから。」

息子
「わかった。(隣の部屋に行く)」


「このコミックと原稿も棺の中にいれようかしら。」

息子
(戻ってくる)


「どうだった?」

息子
「悶絶の顔だった。」


「キュン死だからね。」

息子
「キュン死だからか。」

 

 

 

 

【コント・セルフ・ライナーノーツ】

先日、アメブロの広告で「キュン死」という言葉を見て、

比喩を真に受けるという観点から考えたコント。

キュン死自体、もう使われない言葉かもしれませんが、

この広告を見たのが最近だったので、せっかく設定も思いついたことだし、

「やるなら今のうちだ!」と思って作りました。

 

【上演メモ】

人数:2人~3人

息子

男性の声

 

所要時間:4分~5分
難易度:★☆☆☆☆
備考:母と息子の会話で構成されているので、特に難しい演出はありません。会話のテンポが大事なので、そこを崩さないようにする必要があります。

一言だけ男性の声が入るので、舞台上は2人。演じるのは3人といった感じです。

 

【お知らせ】

さて、先日、朗読劇として実演された「動物」の動画がYoutubeにアップされました。

こちらからどうぞ。

 

【お知らせ2】

10月11日(水)池袋ゲキバで行われる朗読会「YOMINOMI vol.13」内で以前書いたコント「ランプの魔人#1」「ランプの魔人#3」が演じられることになりました。

 

平日ですけど、ぜひお時間のある方は。

 

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(もふもふって名前ですが、僕です。

コントのこともつぶやきますが、コント以外のこともゆるくつぶやいています。)
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