プロレス団体には必ず存在する、ブレーンといわれる役割。主に他団体やフリーなど外部選手のブッキングや、実際に行われる試合のマッチメイクなどを担当する重要な任務である。
プロレスの興行においてこのブレーンという役割がまさしく生命線で、それがファンに受け入れられるかどうか、多くの人を呼び込む力があるかどうか、団体の浮沈にストレートに影響してくるだけに、本当に大事な大事な仕事なのである。
だからこそ、この役割を担うのはその団体のトップに高く評価されている人間、信頼のおける人間でなくてはならない。なのでかつてのプロレス界では、その団体において実績のある人間がこの大役を務めることが多かった。
だが現在ではここに明らかな変化が見られており、ここが旧来と現代プロレスの違いとして如実に現れているような気がしてならない。
まだ新日本と全日本の二大メジャー時代と呼ばれていた頃、このブレーンという役割を果たしていたのは、主に主要戦線のサポート役に撤していた、団体内のベテラン選手が務めることが多かった。
「バンプをとったことのある人間にしか真のプロレスは語れない」、クセの強いプロレスラーの猛者たちをまとめあげられるのは、陰の実力者と呼ばれる屈強な存在。周囲に有無を言わせぬ説得力を持つ選手が務めていたのである。
また1人ではアイデア的に尽きるのも早いので、レフェリーやリングアナなど内部の人間、そして業界内に幅広い顔(人脈)を持つマスコミなどもブレーンのサポート役の1人として起用されていた。
ただいかなる場合においても、最終決定権を持つのは馬場や猪木など、カリスマ選手であり会社の代表取締役を務める社長。最終責任はすべてその社長が担っているのだから、そこに任されているブレーンの発言は即ち社長の発言として捉えられ、絶対的な力を誇っていた。
しかし現代プロレスにおいては、大企業が親会社として就くことで、そのパワーバランスが大きく狂ってきてしまった。最終決定権を持つのはいわゆる背広組、親会社の社長やオーナー、またそこに任命された社長という、いわゆる「バンプをとったことのない人間」に。
そしてその人間に託されているのは、『現状からの脱却=発展』。だから現状を変えるために外部の人間をブレーンとして据えることが多くなってきており、これまでと変わる、変えることが重要視されるようになってきていた。
最近のプロレス界において、その重責を担うのはインディー出身の選手が多い。1つの団体にずっと属しているメジャーの選手に比べ、様々な団体を渡り歩き、幅広い人脈と生き残るための術を身に付けてきた逞しい経歴を持つインディー出身の選手は、メジャー団体においても貴重な能力とされている。
また選手以外の人間おいても外部の人間を取り入れることが多く、実際、そのアイデアの豊富さは、生粋のメジャー団体の人間にとっては新鮮なものに映るのであろう。
より多くの人の目を自分たちに向けさせるため、あらゆる可能性を求めて様々な策を取り入れていく。それ自体は決して悪いことではない。但し、ここに現代プロレスが旧来のファンに支持されない最大の要因がある。
メジャー団体の使命、それはプロレス本来の伝統や格式を後世にしっかりと伝えていくこと。だからこそ、選手の大量離脱によって団体存続の危機に瀕してもファンはその団体を支持し続けるし、どんな窮地においてもその団体が未来永劫続くことを心底願っている。そんなファンがいるからこそ、どんな状態でもメジャー団体はメジャー団体として周囲から敬われているのだ。
だから、そんな団体が新しいことを取り入れて新規のファンを獲得していく、それはそれで大事なことだが、同時に守るべきものは守っていってくれなければ困る。なんでもかんでも取り入れて新しいファンを開拓しても、それで従来のファンにソッポを向かれていては意味がない。
メジャー団体において、最も重要なのは試合であり闘いである。かつての歴史においても、日常の興行においては多くの人の目を向けさせるために様々なアイデアを取り入れてあらゆる仕掛けを行ってきた。がしかし、ここ一番の大一番ではしっかりとしたその団体本来の純粋な闘いで魅せ、多くの人を魅了してきた。だからこそのメジャー、だからこそのメジャー・プロレスなのである。
ところが現代プロレスにおいてはブレーンとして外部の血を取り入れることが多いため、その団体の根源である一番大事な部分を疎かにする傾向にある。新日本でいえばストロングスタイル、全日本でいえば純粋無二の試合で築き上げたファンとの絶大な信頼関係、これで時代を獲得して隆盛を極めてきた歴史は嘘をつかない。
そこを疎かにしてしまっては、批判の声が高まるのは当然のこと。別に外部出身の人間が更なる発展を目指して様々な策を巡らし、新たな仕掛けを打つのはいい。ただ大事な根源を二の次にしてしまうのにはどうにも納得がいかない。ビッグマッチへの布石として小細工をするのはいい、しかしビッグマッチではその団体本来の凄みと魅力を存分に見せて勝負する、それができてこそのメジャー・プロレスだろう。
重要な局面では従来通りの価値観をしっかりと残し、その団体本来の持ち味を活かす。新規的要素はあくまで付加価値としてのトッピング、脇役であって主役ではない。それをしてこその歴史あるメジャー団体といえるだろう。
新規に入ってきた外部的ブレーンは、どうしても自分の存在感を強調するためにその核を崩そうとしがち。でもそれが本当に得策なのか? 過去の歴史を否定するような愚行を繰り返していては、もはやその歴史を背負うメジャー団体ではない。
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