まさかの緊急開催!冬木弘道引退試合秘話⑤ | 俺ってデビルマン!?

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知ってる人は知ってるし、知らない人はまったく知らない…私、元・週刊ゴングの鈴木淳雄と申します。かつて所属していたプロレス業界に限らずに、今現在の私をありのままに記していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 中に入ると、三沢社長は苛立ちを隠せず、発表をした社員と共に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「誰も納得していませんよ」


 私が言葉を発すると、社長は明らかに不機嫌そうな顔で吐き捨てるようにこう言った。


「何で分からないんだよ」


 てっきり事の成り行きを話してくれるのかと思いきや、この一言を発しただけで他には何の説明もしてくれず。だがその異様なまでの深刻な表情が、何やら相当重大なことが裏では起こっているようだと、自然とこちらにも伝わってきた。


「どうしてもやらなければいけないことなんですか?」


 社長は言葉を発さずに、私の言葉にただ黙って頷いた。


「だったらなぜ、社長自身が話をしないんですか? この会社に集まった人間は、皆、三沢光晴という人間についてきたんですよ。 他の誰でもない。社長から話をされれば、皆、本音は嫌でも納得すると思いますよ。他の人間に言われれば、素直にハイとは言えませんよ」


 この言葉は他でもない、かつて全日本時代に社長である馬場に対して三沢自身が語っていたもの。私はそれを立場を変えて、当の三沢におくった。


 ZERO1の橋本真也を有明コロシアム大会に上げるか上げないか、選手会とモメたときも私は同様の意見をさせてもらったが、社長にかつての自分を失ってほしくない、その一念からの発言だ。


 それが一社員が会社のトップである社長に対していう言葉としてふさわしいのかどうか、それは私には分からない。ただ、それでどう思われようとその言葉を理解してくれないようでは、もう私のなかでそこにいる人は私の尊敬する三沢光晴という人ではない。


 社長はその言葉を聞くと同室していた某社員に指示を出し、誰かに電話を掛けさせ、代わって自身が話し始めたので、私はそのまま黙って社長室を出た。


 数分後、社長室から今度は三沢自身が出てくると、再びこの日出社している社員全員を集めて、今度は社長自身の口で語り始めた。


「これは会社の問題というよりも、俺自身の我が儘というか、個人の思いとして、どうしてもやってあげたいんだ!頼む、協力してくれ。この通りだ」


 そう言って集まった社員に、社長が深々と頭を下げた。その深刻さが皆にも一瞬にして伝わったのだろう。それまではこれまで蓄積していた不平不満を口々に語ってことにより、社内全体に不貞腐れた空気が充満していたのだが、それが一転して全部吹き飛んでいってしまった。


「やりましょう!」


「では大急ぎでチケットの製作をしないといけませんね!」


 すべての人間がまるでタガが外れたかのように、そこから一気に前向きな気持ちに転じ、素早く行動を始めた。何しろ興行開催まで一週間をきっていて、本当に数日しかない状況、そこからすべてを実現させなければいけないなんて、本来なら無謀としか言えない。


 ファンの人たちだって、普通に考えたら既に予定が入っていて当たり前だし、何も予定が決まっていない人にしたって、それで「急遽プロレスを見に行こう!」なんてなかなか思わないはず。


 いくら冬木さんのための善意とはいっても、下手をすれば、お客さんがまばらにしか入っていないガラガラの大会になる可能性も高い。それで赤字興行となったら本末転倒。大会を開催する意味すらなくなってくる。


 その最悪の事態を防ぐために、社長に許可を得てまだ開催が発表されていない大会を、社員各自がそれぞれのお客さんに電話やメールをして必死に営業を始めた。“1枚でも多くチケットを売って、1人でも多くのお客さんを集めよう!”言葉にしなくても、皆、本気でそう決意したようだった。


 もちろん、その開催理由は「俺の我が儘」と言っただけなので、本当の意味では誰も納得していない。だが、それを実現させるためにワザワザ社長が我々一社員に頭を下げた。その行為だけで、もはや理屈はいらなかった。


「ポスターやパンフレットはどうしますか?」


 私がそう問いかけると、社長はホッとした表情を隠せぬまま、こう返した。


「間に合うのか? できるなら何でもやってくれ」


 赤字になったら意味がない。でも少しでも冬木さんのためになることなら、何でもやってほしい。そんな社長の気持ちに応えるために、私もすぐに行動に移した。


 印刷所とデザイナーに連絡を入れ、その日のウチに原稿を入れれば、大会までの僅か数日で両面印刷のポスターを作れるように調整してくれた。


 会場となるディファ有明はNOAHの事務所が入っている家主なので、空いていればあらゆる面で融通はきくが、収容可能な人員は確か実数でおよそ1000人程度。しかも今回は一週間もない緊急開催。恐らく、その半分も集まれば御の字だろう。


 そんな予想をたてながら、赤字にならない方法を各自が必死に考え、それでもできるだけ普段の興行に近づけるように関係各所に交渉を続けた。


 パンフの要素を兼ねた両面ポスターは八ツ折りで製作して販売することになり、急いで私の古巣であるゴングから冬木さんの写真を許可を得て借用し、その日のうちに原稿を入稿。デザイナーも急ピッチで仕上げてくれて、翌日には印刷所へ。結果、たった3日で現物を作り上げた記憶がある。


 それぞれ予定が入っていたにも関わらず、その隙間をぬってあらゆる人間に無理なお願いをし、多大な迷惑をかけながらも、それでも実現させた超突貫興行である。


 そこまで苦労して仮に興行を成功させても、自分たちが所属するNOAHという会社には1円たりとも入ってこない。そればかりかもし赤字が発生したら、それは全部NOAHが請け負うという。こんな理不尽で不利益な話はない。


 ではなぜ、三沢社長はこんな無謀な興行を強行するに至ったのか? その答えは、意外なところから知らされることとなった。



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