スターダム2020.3.8後楽園大会TV観戦記 | 俺ってデビルマン!?

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知ってる人は知ってるし、知らない人はまったく知らない…私、元・週刊ゴングの鈴木淳雄と申します。かつて所属していたプロレス業界に限らずに、今現在の私をありのままに記していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 コロナウイルスによる興行自粛の要請により、異例の無観衆興行となったこの後楽園大会。それでも、無料放送となったYoutubeでの全世界生中継で3~4万人がTVやスマフォ、パソコンの前で観戦したというのだから、本当に凄い時代になったものだ。当然、無観衆で行われているのだから興行&グッズ収益などはまったく見込めず、会場使用料や人件費などが丸々損益になる訳だが、単純に宣伝効果としてはかなりのプラスになったはず。またこの興行がその後の二次利用、三次利用などによって或いは黒字に転換されるのかも知れない。そんな期待を抱かせる興行だったといえるだろう。

 但し、選手たちにとっては戸惑いの声が多かったようだ。それもそのはず、プロレスラーにとって観客の声援は何よりも奮起の糧となる。自分が苦しいとき、辛いとき、ファンの声援によって気持ちを奮い立たせることができる。それによって実力以上の力を発揮させることができるという。プロのアスリートにとってファンの声援はなくてはならない、他人から与えられる力そのものなのである。だからこそ、本来、プロレスにとって観客というものは、ただ"お金を払ってくれる御客様"という存在以上に、本当に尊いものなのである。

 但し、それを逆手にとってかつて伝説を作ったのがアントニオ猪木だった。宮本武蔵と佐々木小次郎の決戦の場であった巌流島にリングを設置し、マサ斎藤と観客も試合時間もない、ルールは互いのプライドのみというすべてが規格外の決闘を行ったのである。もしあの時代に現代のようなPPVやネットでの全国中継ができていたら、恐らく物凄い数字を記録していたことだろう。2時間15分にも及ぶ死闘は見る者の心に響き、プロレスの枠を超えた決闘として伝説になった。世間を振り向かせることにかけては天才的な才能を持つ、猪木ならではの最高級の仕掛けであったといえるだろう。

 だが猪木流のプロレスは闘いを前面に打ち出したものであったからこそ、無観客でもシビレル攻防で魅せることができたといえる。だが団体を問わず、女子プロレスの試合の多くは必要以上に観客を意識したアピールが目につく。正直、闘いの最中とは思えぬ場面も多く、女子プロ慣れしていない人間には妙にシラケてしまうことも…。実際、観客もいない会場で試合中に客席に向かってアピールしている選手の姿を見ていると、いささか滑稽に見える。恐らく、選手としては観客がいようがいなかろうが、普段通りの自分を出そうと努めたのであろうが、ただでさえ無観衆という異常な空間での試合を強いられているのだから、いっそのこと、もっとそれに徹した興行にしてしまうのはどうだろう?

 例えば無観衆なのだから、常設してある雛壇の席はともかくとして、パイプ椅子は本部席と実況席以外必要がない。そして、空いたその空間を利用した特殊な試合形式を用いれば、より一層無観衆興行ならではの味が出てくる。今回、メインはランバージャックマッチということで至る所で攻防があったが、エニウェアルールの方がより盛り上がったかもしれない。また各セコンド陣が乱闘にも加わり、さながら対抗戦的な雰囲気もあったが、ならばいっそ両軍のシングル勝ち抜き戦を行い、出場選手がそれぞれリング下にスタンバりながら、次に誰が出てくるか分からないという状況にすれば、より臨場感や緊迫感が高まってくると思う。要は無観衆なら無観衆なりの良さを引き出す方法論を一考する余地があるのではないか、ということである。

 そして選手たちも、観客がいないならば徹底的にカメラを意識した試合に徹するのも1つの手段だと思うし、ブーイングや歓声を気にせず本来自分のやりたいことに撤することもできるはず。とにかく、もっと周りの選手とは違う自分の個性を売ち出していけば、それだけ際立つことができると考えたらどうだろう?「お客さんがいないとやりづらい、できればやりたくない」ではなく、"この状況だからこそ、もっと自分を輝かすことができるかも知れない"という発想の転換が必要だと思う。もちろん、お客さんのありがたみを再認識したということは素晴らしいことである。だがそれだけで終わらせていては意味がない。逆にいえば、興行収入がない状況にもかかわらず試合をやらせてもらえるありがたみも感じなくてはダメだ。それも資本のある会社だからこそできる現実なのだから。

 スターダムは次回の後楽園大会も無観衆興行で行うようだが、これを大きなチャンスと捉えるか、決まった以上は仕方がないからやると考えるか、それ次第で各選手には全然違った経験となるだろう。状況を嘆いていても何も変わらない、今の自分にできること、それを魅せるのもプロレスラーの宿命といえるだろう。
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