「?」な息子とシングルファーザー 6
妻が精神科を転々とし、処方してもらった睡眠薬を飲むようになったのは、それからしばらくしてのことだ。
もういまとなってはきっかけは思い出せないが、そのときは藁をもすがる思いだった、と翔は思う。育児ノイローゼという診断だったのか、それも思い出せない。ただ彼が覚えているのは、「ほら、これで楽になるからね」と子供をなだめるように言いながら、妻の白い腕に注射針を打つ精神科の医者の姿だけだった。
?」な息子とシングルファーザー 5
妻の母親は目と鼻の先に住んでいたが、窮状を知っても助けてくれようとはしなかった。
理解できなかったのかもしれない。たまにアパートに孫の顔を見 に来たときは一人で騒ぎ、「食べるもん食べれば元気になるのよ」とテーブルにごちそうを並べ、自分も酒と一緒に平らげては帰っていった。
義母がアルコール中毒に片足を突っ込んでいるのだと翔が知ったのは、結婚した後だった。
「私はアルコール依存症だけどね、中毒じゃないのよ」と言いながら、グラスを煽り続ける女。
育児に関してはまったく援助が期待できないと知った若夫婦は、ほどなくして別の場所にアパートを借りた。
「?」な息子とシングルファーザー 4
翔が手をこまねていたわけではない。妻にはいつもいたわりの声を掛けていたつもりだし、帰ってくればミルクを飲ませ、離乳食も作った。オムツは普通に替えていた。
ただ、翔が家に戻ってくるのは遅すぎた。東京から千葉のアパートに戻る電車は大抵が終電。デザイナーとして広告業界に身を置くものとして、それは当たり前の勤務状態だった。