新潟県中越地震、東日本大震災、令和元年台風19号の震災ボランティアに参加して感じたこと | ゴッドハンドではない鍼灸師の日々これこれ

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あすなろ院長が臨床で感じたこと、その他について気軽に書いていきます!(*^-^*)

私は2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災、2019年の令和元年台風19号が発生したときにそれぞれ新潟県長岡市(2日)、宮城県石巻市(3週間のうち、2~4日おきに、7日ほど)、宮城県丸森町(2日)の避難所に鍼灸とマッサージのボランティア施術を目的に現地に赴きました。その時に感じたことを下に記します。

 

また、東日本大震災の時の様子については以下のurlを参考にしてみてください。

 

 

 

 

鍼灸は災害時の体調管理や体の不快感、除痛等の緩解に非常に効果的だった!

新潟県中越地震(以下中越地震)と東日本大震災(以下、震災)はマッサージのみ、令和元年台風19号(以下、19号)は鍼灸中心の施術を行いましたが、患者さんの訴える症状が具体的にある場合は、鍼を用いた方が緩解させられるものが多いように思われました。

 

19号では避難所である丸森小学校体育館で鍼治療を主にしていましたが、丸森町役場職員の中で「鍼は効く」ということで、ちょっとした噂になっていたと言います(その時は私の治療ではありませんが)。“鍼灸の施術を他の避難所でもお願いします”、という話が出ていたこともありましたが、如何せん応援に来る鍼灸師の不足から断念することとなりました。なので、その後はどうだったのかは分かりませんが、それだけ被災者の方々にリピートの声が上がっていたことは間違いありません。

 

ここの避難所ではAMDA(The Association of Medical Doctors of Asia)のメンバーが仕切っていて、きちんとした統率の元、スタッフが的確に動いていたと感じました。私もAMDAに所属しましたが、現地にはすでにAMDA鍼灸部門のリーダーである帝京平成大学の今井賢治教授らが鍼治療を行っており、鍼灸カルテを記入して、NRSやフェイススケールを取りながら、鍼の施術を行っていました。

 

 

 

AMDAのメンバーが朝、夕、被災者さんの見回りをしながら体調について問診し、肩こりや腰痛などの鍼灸の範囲の訴えがあると、鍼灸部門に報告をして、鍼灸・マッサージ師らが問診・検査を行って体育館の脇の部屋で施術を行っていました。私も2日で鍼7名、マッサージ1名の施術を行うことができました(施術時間は30分程度)。鍼を受けた患者さんは2日目にもリピートして頂き、別の患者さんも連れてきてくれました。たぶん、そのような感じで、徐々に鍼の施術希望者が増えていったのだと思います。

 

震災の時には桃生小学校(体育館)とビッグバン(石巻市河北総合センター)でマッサージボランティアを行っていました。一日20人~40人程度施術したので、十分な施術時間が取れなかった(15分程度)こともありましたが、具体的な症状が大いに改善されたとか、効果があるからということで医療スタッフから直接要請があったということは残念ながらありませんでした。どちらかというと、心身のリラクゼーション的な介入に近い印象だったと思います。それでもあの津波での悲惨な体験やその後の避難所の辛い環境を考えると、必要十分なことだったと感じております。

 

したがって、19号の時は鍼灸以外の医療スタッフから特定の避難者への鍼治療の要請があったのには驚きました。当時の丸森町の避難者50~60名のうち、およそ1/3が施術を受けていて、その割合は半数まで増える見通しでした。それだけ、思いがけない効果があったということだと思います。

 

 

大きな団体に所属することが大事だと悟った

では「避難所では鍼治療をやればよいのではないか?」とおっしゃるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。それは“鍼をする”という“皮膚を破り体内に金属物を入れる行為”が鍼灸師以外の第3者にとっては、“見慣れない異質な行為”と映るからです。なぜそうなるかと言いますと、

①鍼灸師に何ができるのか知らない。

②そもそも鍼灸がどのようなものか知らない。からです。

なので、単独でいきなり避難所に行って「私は鍼灸師です!被災者に鍼をさせて下さい!」と言ってもほぼ不可能ということです。

 

ボランティアセンターの責任者だけでなく、体調管理を任されている医師や看護師らが、在野の医療資格である鍼灸師に出会うことは稀なので、どういうことをするのか?どう扱ったらよいのか?など非常に困ってしまうのではないでしょうか?

 

これはひとえに鍼灸師が医療機関で働いてないこと、そして、啓蒙活動が十分でないことが原因だと考えています。19号での丸森の避難所ではAMDAの下で鍼治療を行っていましたが、前述通りAMDAは鍼治療に寛大といいますか、他のスタッフの理解もあり、十分な鍼の施術を行うことができました。

 

鍼灸を行う際、避難所で一番気になるのは衛生上の問題です。震災時はCLC(特定非営利活動法人 全国コミュニティライフサポートセンター)という団体に所属して活動していましたが、CLCに所属しているということでかなり自由に施術を行うことが出来ました。CLCに所属していたということで、ボランティアスタッフからの信頼もありましたし、単発でボランティアに来ていたセラピストと違い、施術ボランティアの館内放送をして頂いたり、施術ルームとして調理室や会議室などをお借りすることも出来ました。

 

ただ一つ、そこでは鍼の施術は衛生面が十分に確保できないという理由で禁止されていたことが少し心残りでした。岩手や福島、宮城県内の他の避難所では鍼の施術ができていたところもあったようですが、鍼灸師会などの単位で動いていた方々は比較的鍼が可能だったようですので、大きな団体に所属することも重要だと思います。

 

中越地震時にはマッサージボランティアとして赤門鍼灸柔整専門学校時代の同級生の有志数人で参加したのですが、当時、ボランティアセンターが混乱していたということもありますが、事前に連絡していたにもかかわらず、受け入れ連絡に名前が無かったようで(忘れられていた?)、数時間足踏みした思い出があります。所属団体のネームが大きければこのようにはなっていなかったかもしれません。ボランティア窓口も非常に多忙ですので、どこの馬の骨か分からない人は受付に時間がかかるようです。

 

ただ、マッサージやマッサージ類似行為は、単独で行っても許可される場合が多いようです。残念ながら行政の方は医療系の国家資格者のあん摩・マッサージ・指圧師とその他の無資格者を区別はしていませんでした。“いわゆるマッサージ”ならばそれほど害無し、という判断でしょうか?どこの避難所でもある一定の基準があれば、整体でも、リフレでも結構自由に受け入れているようにも見えました。

 

 

モラルを守り、適時外の時は速やかに撤退する

鍼治療の許可が出て、「さあ、やるぞ」と避難所で一人、躍起になっていても上手く行きません。必ずその避難所と避難してきた方々を管理している行政の方と、医療スタッフ(所属している組織含めて)との関係性が上手く行かなければ、施術も上手く行きません。

 

以前、北海度で起きた地震の際に避難所周辺で有料で施術を行って、北海道庁の怒りを買い、我々鍼灸・あん摩マッサージ指圧を含む一切の施術行為が禁止されたという事例もありますので、常識的なモラルには気を配るべきだと思います。

 

モラルでいえば、被災地域周辺の治療院との関係には気をつけなければなりません。あくまで、施術ボランティアは“緊急性のある状況下での施術”にとどまるべきであり、そこから自院へ患者さんを得ようとかするべきではなく、被災地域のコミュニティーに過剰に足を突っ込むようなことはすべきではないと思います。

 

あまり濃厚な接触が続くと、被災地域の治療院の経営環境を侵しかねないので、私個人の考えでは、氏名と住所くらいは答えても、営業している治療院名は伏せるようにした方が良いと思います。そして、これ以上施術を受けたいならば地域の治療院に通っていただくように促すことは大事だと思います。

 

 

自身の体に気をつけよう 一人で抱え込まない、無理はしない

私個人の震災での無理な施術ボランティアで身体を壊し、入院する羽目になったことをお話しします。

 

震災当時、勤務していた大和町の病院も被災したために、病院としての営業ができなくなりました。そこで、有給+αを利用して当時避難所になっていた桃生小学校(体育館)とビッグバン(石巻市河北総合センター)にて折り畳みベッド1台かついで、マッサージの施術を行いました。日にもよりますが、午前中から夜遅くまで、多い時で40人程度施術していました。午前中は年配者、夕方以降は20~60歳台、消灯後は役所の方など施術していました。有給を利用して1回/2~3日の頻度で訪問していましたが、徐々に疲れが蓄積しているのが自分でも分かりました。

 

衛生的とはいえない避難所ではインフルエンザが蔓延しており、疲労で免疫力が低下したボランティアスタッフが感染して、現場から離脱するということがしょっちゅう起きていました。そして、ついに私も感染、やっと治癒したと思ったら、今度は“扁桃周囲膿瘍”になってしまい、入院。そして、私のボランティアは突然終了しました。

 

実は、同業の友人数人が助けに来てくれるということになっており、さらに行政の方にはビッグバンの会議室を常設施術室としてお借りできる算段になっていたところでした。組織だった施術ボランティアを立ち上げようとした矢先のことでした、すべてがパーになりました。

 

 

最後に・・・

新潟県中越地震、東日本大震災、令和元年台風19号の施術ボランティアを通して様々なことを教わりました。私は一度は無理をしてもボランティアに参加することをお勧めします。それは必ず人生の教訓となるようなものを1つは得ることが出来るからです。そして、それはすべて日頃に何らかの形で生かされてくると思います。

 

鍼の学校を出てから勤めた整形外科で鍼ができない悶々とした日々で感じたむなしさを、良い方向に導いてくれたのは中越地震での初めてのボランティア体験でした。今でもこのころのことを思い出すと胸がジーンとしてきます。

皆様、良き経験を!!