私も職人だなあと思うときがあります。
それは良い道具と出会った時です。
例えば鍼という道具。
鍼灸師の中にはすべて同じメーカーの鍼を使う人がいますが、
私は主に4cm~10cmの多くの種類の鍼を使うので、同じメーカーで統一できないのです。
それは刺す場所や用途などが違うからです。
こちらで昔、当院の鍼を説明していましたね。
色々試して、良ければそちらを使うスタイルなのですが、
なかなか良い鍼に出会うことはありません。
鍼で大事な要素は3つ
①刺しても痛くないこと
②使いやすいこと
③安いこと
①刺しても痛くないこと
注射針と同じように、シリコンオイルが鍼先に塗布しているものは当然滑りが良いので痛くないですし、
きちんと精密に鍼表面を研磨しているものも引っ掛かりや刺入時の抵抗が少ないので痛くありません。
日本製の鍼がそうです。
鍼の痛みを単純な式にすると以下で表せられる。
P = R/S
P:鍼刺入時の痛み
R:鍼表面の凹凸による抵抗
S:弾入時の鍼のスピード
ここでいう鍼のスピードが速ければ(強ければ)皮膚を切るスピードが速くなり、痛覚受容器が反応する量も小さくなります(たぶん)。
よって、患者の肌の弾力と弾入の力加減を考えて、鍼のたわみを少なくし、まっすぐ皮膚面を切るようにすることが大事です。
学校の先生や手技にこだわる鍼灸師は”一発弾入”を嫌いますが、意外と痛くなく鍼を打てることも事実です。
日本の丁寧なつくりの鍼(その分、高価です)も良いのですが、
綺麗すぎて引っ掛かりや抵抗が少ないので鍼という道具としての効果は減弱してしまいます(と感じています)。
その逆は中国鍼です。
中国鍼は鍼体の表面に微妙な凹凸があり、これは肉眼でもよーく見るとわかりますが、
多分この凹凸が身体に刺入された後に刺激を与えて、より効果が強く出るのかもしれません。
もちろん、刺入するときは日本鍼よりも確実に痛いし、苦しいです。
しかし、刺入したとき指に伝わってくる身体名部の細胞の抵抗やコリなどの障害物の厚さや硬さはダイレクトに伝わってきます。
②使いやすいこと
①とかぶりますが、ダイレクトに感じやすいメーカーの鍼とそうでない鍼とがあります。
鍼体が磨かれ、シリコンオイルが塗ってある日本製のものは滑りすぎて、皮下内の組織の状態が感じにくく、
だからと言って中国鍼でも作りが雑なやつは、雀たくなどをしたときに抵抗が強くなり、硬結が強いものだと刺さっていきません。
やわらかい材質のメーカーものでも、当たった感じが分かりやすいのですが、硬結に刺さらず、すぐに曲がって使いものになりません。
弾入するだけの手足の浅層に使う場合は、極端な話、どの鍼でも良いと感じています。
問題は硬結などを狙う場合です。
③安いこと
鍼の世界でも安かろう悪かろうは存在しますが、
前述のように高いからすべて良いとは限りません。
安いものでもそこそこのものがありますし、
私のように大量に使うような鍼灸師は高い鍼ばかり使っていたのでは経費がかさみます。
鍼が高いならば、施術料に上乗せすればよいという単純なものでもありません。
私は手足など浅層に単に置鍼する場合は安価なものを用いますが、敏感な人の場合は日本製の鍼を用いています。
深層筋を狙う場合は長針を用いるのですが、
今まで4社ほど長針を使いましたが、
理研化成株式会社さんの2段階鍼先型の中国鍼が今、一番優れていると思います。
剛性に優れ、シリコンオイルが塗っていないので、組織の硬さも分かりやすく、
刺入時の引っ掛かりや抵抗も少なく、比較的安価です。
*ただ一つケチをつけるならば、包装パッケージから鍼を出すときに、出しにくい
3寸の場合、4寸の包装紙に入っているから剝くときにパッケージがぐしゃっとなるし、紙も剝がれにくい
(逆にこのあたりがきちんとしているのがセイリンのパッケージ)
この鍼は良いです。
やっと出会えた感があります。
早く刺してみたいと感じてしまいます。
刺入中や雀たくなどをしているときは点に気持ちよさを感じてしまいます。
もはや変態の域です(笑)
同業者にこのことを言うと、大抵笑われます。
逆に使い心地が悪い鍼を買ってしまった場合は本当に嫌になります。
嫌すぎて大量に廃棄してしまったこともあります(ごめんなさいです)。
手になじむ相棒という道具を使って仕事する幸せ
ああ、職人だなあとしみじみ感じる瞬間ですね。