帯状疱疹は鍼灸臨床上、しばしば遭遇する症状で、
施術しながら、頭の片隅にいつもしまっておき、
もしかして帯状疱疹ではないか?と気を配っておく必要があるものである。
鍼灸院では痛み症状も多く扱うので、じつは帯状疱疹だったということもあり得るのである。
そして、私も何度か失敗をやらかしている。
帯状疱疹ウイルス(VZV)の好発部位は胸から背中(肋間神経)や顔面(三叉神経)であるが、
知覚神経に発症するので、全身に起きる可能性がある。
帯状疱疹は発疹が出現する数日前より神経痛(ピリピリ、ヒリヒリ)や
神経異常(皮膚に触っても感覚がない:感覚鈍麻など)が生じた後に浮腫性の紅斑が出現し、紅斑上に水疱が帯状に出現する。
診察時に顔面の三叉神経領域や肋骨に沿った痛みを訴える場合は、もしかして帯状疱疹か?と考えやすいのだが、
肩や膝、腰などにも発症するために分かりにくい場合もある。
昔、肩が痛いと来院した男性がいた。
診ると肩峰下付近に痛みを訴えており、
ペインフルアークサインが陽性だったので、”腱板炎”かなと思い、鍼をした。
すると翌日に、「鍼をしたところからバイ菌が入って皮膚がただれた!」とびっくりして来院した。
診るとそれは帯状疱疹だった。
肩の痛みは帯状疱疹の痛みだったのだ。
このように水疱がダイナミックに出るものは分かりやすいが、
紅斑しか出ないもの、しかもそれが少ししか出ないものもあるので、
鍼灸師ではそれが帯状疱疹かどうかも分からないものも存在する。
したがって、もしかしたら鍼灸師も患者も分からないまま治療されて、
分からないまま治ったものもあるかもしれない。
帯状疱疹の予後は良好であるが、しばしば治った後も強い神経痛を残す。
これを帯状疱疹後神経痛(PHN)という。
PHNは免疫力の低い高齢者に多く、発症時の痛みが強いほど難治性のPHNになると言われている。
PHNはVZVが神経を損傷(変性)させるほど生じやすいので、早いうちに医療機関で薬の投与を行うほど良いとされている。
では鍼灸は帯状疱疹に効くのか?ということであるが、
私はあまり効かないと考えている。
鍼灸と抗ウイルス薬の併用で、
疼痛軽減とPHNへの移行に予防効果があったという報告もあるが、
いち鍼灸院で扱うにはコスパが悪い。
以前、ある自然農法家がかなり酷い帯状疱疹になったが、
薬を飲みたくないので鍼で治らないか?と言われ挑戦したが、
鍼単独で十分な効果を上げることはできなかった。
帯状疱疹は治療が遅れると、神経の損傷が進行しPHNになりやすいので、
無理せず、怪しい症状は医療機関に紹介したほうが無難であると思う。
鍼を併用すると治りは良いのかは分からないが、
水疱にはVZVが存在するので、鍼灸院では無理に扱わない方が良いと考えている。