「偽りの果て」(1947年作品)感想 | 深層昭和帯

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映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

アンリ・ドコアン監督によるフランスの犯罪映画。出演はミシェル・シモン、ジャニー・オルト、ジョルジュ・ブレア。

 

 

<あらすじ>

 

アルコール中毒の医者アルスランは、車を運転中に事故を起こして相手を死なせてしまう。彼は医学的な知識を利用して事故を隠蔽してそのまま逃げた。妻マドレーヌも同乗していたが、翌日探りを入れると警察は事故の線で捜査しているというので彼は安心する。

 

だがそのとき妻は結婚指輪を現場に落としていた。さらに車の修理を依頼していた男マルユーが殺された。これもアルスランの犯行だった。マルユーはマドレーヌの浮気相手で、アルスランはかねてから腹を立てていたのだった。

 

マドレーヌは怒ったが、アルスランは念入りに計画を立てており、警察に訴え出ることもできない。彼女は夫に従うと約束させられる。

 

アルスランは中耳炎を病む農家の娘を受け持っていたが、病状が芳しくないのでボンスクール診療所のドルモン医師に患者を預けることになった。世話話の中で、ドルモンが街で起こった一連の事件について核心を突いた見解を持っていることにアルスランは驚いた。

 

ドルモンはアルスランを医師会から追放した張本人で、彼の自然治療を否定していた。ふたりの人間を完全犯罪にしたことで自信を得ていたアルスランは、ドルモンを殺すためにわざと農家の娘を治療させたのだった。そして彼は、アリバイを作りながら、ドルモンを殺した。

 

自宅に帰ると、妻のマドレーヌが自分を裏切って警察にタレコミしようと電話をかけているのを発見した。アルスランはいったん表に出て帰宅するフリをし、妻を脅した。外へ逃げだすマドレーヌ。だが、彼女が向かった橋には、すでにアルスランが穴を空けていたのだ。彼女は増水する川に落ち、溺死した。

 

愛する妻まで死なせてしまって自己嫌悪に陥ったアルスランは、3日間行方不明になったのちに自首した。ところが事件はマドレーヌの単独犯行ということで片が付いていた。アルスランがそう仕組んだので、彼は自分が考えてアリバイを作ったと訴えたが、アルコール中毒の愚か者と世間から思われている彼の主張を誰も信じなかった。

 

警察も、マスコミも、酒場の主人も、みんな彼を完全犯罪ができるような賢い男だとは思っていなかった。絶望したアルスランは、検事総長宛ての手紙を書いたが、猫が謝って拳銃を発砲してしまい彼は死んだ。さらに手紙も猫が暖炉の中に落とした。

 

アルスランは、猫にまでバカにされて、愚か者として死んでいった。

 

<雑感>

 

これはなかなか考えられた作品だった。とかくクライム映画というとイキリ散らした男たち、あるいは女でもいいが、カッコつけて悪さをして最後は南に逃げてパーティーみたいな展開があるが、もっと人間心理に基づいて深みのある作品にできるのである。

 

アルスランは愚か者と思われており、自己嫌悪の中でアルコール中毒になっていた。彼は自分はもっと賢い人間だと世間に認められたがっていた。思いもよらぬ事故の隠蔽から頭が冴えてきた彼は、稀代の完全犯罪者となって関係者を殺していく。

 

彼の計画はすべて上手くいく。妻のマドレーヌの殺害などは、妻の逃走ルートを読み切った上での犯行。彼の頭は冴え渡っており、警察もマスコミもまるでついてこられない。

 

彼は自分の賢さに酔いしれる。ところが、世間は彼を賢いとは認めていなかった。あまりに狡猾な完全犯罪を行うには知能が足らない愚か者だと信じて疑わない。それはアルスランが最も気にしている世間の評判だった。そして最後は飼い猫にさえバカにされるように殺され、死んでいく。

 

☆4.8。犯罪の中に人間を描いた素晴らしい脚本だ。アルスランの愚かしさとは何だったのか考えさせられる。