人気のない室内で二人の男が密会をしている
一人は立派な髭に服を着た男
もう一人は如何にもな度の強そうな眼鏡に商人のような服を着ている
明かりも少なく二人だけが浮かび上がって見える
暗がりで良く見えない光景の中、何か物を手渡している
それは普通に考えて公には出せないようなもの、所謂取引
立派な服を着た男がそれを受け取ると少しだけ中身を見て満足そうに懐へと隠してしまう
「今は国王も王政で忙しくてすべてに・・・どうせもともと見ても無いだろうがな」
「そう言ってあなたがしっかり牛耳っているんでしょ?この前の大臣の事も違うのですか?」
「いや・・・正直関係は無いがあれもそろそろ丁度潮時ではあったがな・・・」
小さな書面を差し出す
「国王直属という言葉さえあれば、絶大なる信頼を得たようなものだ」
「そうでしょう・・・ですが小さい店もこれが害虫のようにしつこいですからそこらへんも・・・」
「解っている、あの範囲の敷地内なら土地権はある、適当に言い訳をつけて一式買い取ればいい」
「ありがとうございます!!」
その紙を受け取ると大きく頭を下げる男、商人か何かかもしれない
「もちろん今後もこちらからお礼をさせていただきますよ」
「くれぐれも内密にしてくれたまえ、これは私と君だけの話だ」
暫くすると商人らしき男の方が部屋を出て行った
「バカな男だ、逆に利用されているとも知らずに・・・・・・」
コロコロと小さな音と共に転がって来た小さなクレヨンにぎょっとなる男
「誰かいるのか?」
クレヨンが転がってきた方に明かりを向けると床にスケッチブックを広げてお絵かきをしている子供。
この明かりもまともに無い部屋で。
白を基調とした体格に見合わない様な、足までありそうな軍服風のワンピースを着ている
(何だ・・・例の子供が・・・確か国王様のお気に入りの珍しい品だったか?まぁ何も聞いてはいまい・・・)
「何を描いてるんだい?・・・」
スケッチブックをのぞき込んで顔を真っ青にする男
そのスケッチブックには先ほどのやりとりをまるで模写したような光景
ご丁寧にもう一人の男の方を赤く塗りつぶしていて、まるまる話を聞いていたのかと錯覚してしまうほどに
辛うじて人間とわかるレベルのなのに、たかだか子供の落書きなのに
男は冷静さを作り笑顔をすると子供の優しそうな声を出した
「次はおじさんと遊ぼうか?」
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「こんな時間に何を燃やされているんですか?」
「あぁ・・・いやね、これは急遽いらなくなった書類でね、外部に出ないようにと・・・いや・・・内密だったんでね」
なんだかしどろもどろな言い訳をするに首をかしげる下士官のラーユ
「こんな深夜に・・・?」
「日中忙しくてね、早めの処分を任されていたんだよ・・・いやぁ手間をかけたね」
軽く首を振る下士官
「じゃあ・・・火の始末は・・・」
「あぁちゃんとする・・・ここは異常も無かったし他を回ればいい」
「・・・そう・・・ですか、失礼します」
「あぁ・・・ちょっと待ってくれ」
一礼してその場を離れようとした下士官を呼び止める
「きみに見回りをして欲しい所があるんだがいいかね?」
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「あれ?ウサヤ何でいるの?」
「いたら悪いか?・・・明日は大事なお客様が来はるから最終チェックやな」
「へぇ…相変わらず念入りだね」
「ラーユは見回り?」
「そう、鍵見に来たんだった」
ウサヤの言葉に思い出したように手をぽんとする
「食材子の所だっけ?なんか物音してたんだって、見てきてくれって頼まれた」
「ふうん・・・このご時世に・・・?」
「正直撒かれた気はするけど」
「?」
「こっちの話」
倉庫のカギが何種類もつけてあるリングを手に取るとちらっとウサヤを見て
「幽霊かもね」
「最悪や・・・」
顔を真っ青にするウサヤを背に向けて出ていくラーユ
なぜかそのあと同じ歩幅でついてくる足音
「どうしたの?帰らないの?」
「泥棒やったらラーユ頼りないやろ?ついってたげるわぁ」
(・・・やっぱり怖いのか・・・)
倉庫の最初の施錠に鍵を入れて違和感に気付く
「鍵・・・あいてる・・・」
「嘘・・・」
鍵が開いてる場所もそうでない場所も結局誰もいなく物音もしていない
「・・・やっぱ撒かれただけか・・・」
「あとは冷凍室やね・・・此処は大丈夫やろ~ここ中からは出られへんもの」
「でも念のためかな」
静かにあけて扉が閉まらないように固定して入る
「誰もいない・・・よね」
「なんか・・・聞えた・・・」
きょろきょろと周りを見渡すウサヤに耳をすますラーユ
「何も聞こえないけど・・・わ、何か蹴った」
蹴られたそれが勢いよく跳ねてからんと落ちる
手に取って硬直するラーユ、ウサヤもそれを見てびっくりしたようにラーユを見た
手に取ったそれは白いお面
「え?いる・・・?これあの子の・・・あぁ・・・でも同じお面もあるよね?」
「せやけど・・・何で此処に・・・?」
慌てて箱をずらしたり開けたりする
「ジョーカー?あるん?」
「あ・・・ジョーカーって言うんだ・・・すごい名前」
「今は名前はどうでもええよ、もしここ遊んでる内に入ってしもたなら大変やで」
「でも此処・・・あの子の身長じゃ開けれないぞ」
扉の入口は二つの取っ手を押して観音開きみたいになってる、扉も重いから簡単には開けれないようになっている
「あ・・・せやな・・・でもどうして?・・・あれ?」
大きめの箱が三段くらい積まれた一番下のはこの隙間から白い布が見えている
「えぇと・・・袋?」
ひきつり笑いを起こすウサヤに慌てて箱を下ろして開けるラーユ
中には体を丸めてすっぽり収まっている道化の子ことジョーカー
お面が無いと目を閉じているのが良くわかる
「いた・・・何でこんな所にとにかく出さないと」
ウサヤが持ち上げるとくりっとした目を開ける
ビー玉みたいな青い瞳
「何でこんな所にいてん?」
『隠れんぼ』
顔を合わせるラーユとウサヤ
もしかしてそれを知らずに誰かが箱を積んだと
「いくらダンボールにいたからってこの寒い中ずっといたわけ?」
「何事も無くて良かったけど・・・勘弁してや」
『いいもの見せてあげる』
一方的に言うとウサヤの腕を引っ張っていくjoker
「待ってそっちはもっと寒いで・・・」
『此処にも隠れてる』
冷凍された大きな肉が飾りのようにたくさん吊られている
「これはね隠してるんじゃなくて、食料を掛けてあるんで」
『あっち』
「え?」
壁の奥から足のような物が覗いている
「どうしたの・・・うわ・・・」
真っ青になって足を投げ出している男がいる
どう考えたって死んでる
その場で腰をぬかしてしまうウサヤ
ウサヤの腕を掴んだまま青ざめているそれを指さし嬉しそうに笑うjoker
結局二人があれこれ聞かれて帰れたのが朝方だった気がする
亡くなっていたのはあの鏡の問題が起きた時の大臣だった
そもそもここずっと城にはいなかったはずだけど
何より怖かったのが死因が凍死じゃなくて頭部を銃で撃たれたことらしい
真っ先にあの時の光景を思い出したけど
気付くとjokerはいつのまにいなくなっていた
(偶然にしても怖すぎだし・・・どうなってんだこの国・・・)
隣を見ると同じくらい真っ青なままのウサヤがいる
送った方がいいかもしらない気がしてきた
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「みーつけた、鬼さん見ぃつけた」
隠れんぼをそのまま続行でもしていたみたいに誰かに向かって指を指すjoker
その指を自らの頭に持って行くと大きく口をあけて
「バン!」
小石や埃まみれの石畳をスキップで歩く小さな足
頼りない小さな手で扉をあけると、何か異変に気づいたように、ゆっくりとした足取りで
暗い室内に入り込み、宝石のような瞳でゆっくりと見上げた
がたん
「痛った・・・うたた寝して変な夢見たかな」
休憩時間を使ってソファーで本を読んでいたっらいつの間にか意識がとんでいたらしい
中途半端に横になってたせいで首が痛い
「ん?」
足を下ろして何かが足元にあたって改めて足元を見ると
小さな体を丸めて眠っている、道化の子供・・・そういえばこの子の名前知らないな
体の動きから小さく深呼吸しているのがよくわかる
「猫か・・・」
起こさないほうがいいんだろうけどこんなところで寝てたら風邪ひいちゃうし
仕方なく抱き上げようと道化の体に触れた瞬間視界が歪む
色あせたような街並み 表情のない人々 活気のない暮らし
遠巻きに見える教会、その奥に大きな壁
無造作に放り出されている人形みたいな・・・。
「あれ?」
ふっと視界が元に戻る。
また夢でも見ていたのかな?最近疲れているのかも
というかこの道化の子と一緒にいるとすごく疲れる気がする
この前もすごく変な感じがした
でも、あの声は自分の声だったような・・・そんな事考えたかもしれないし…
「・・・・・・・・・」
そういえばあの人アリバイなかったのかな?僕ならもっとちゃんとした証拠だせーとか
・・・やってなければだけど・・・。
助け船も無さそうでびっくしりたな・・・。
最後まであそこにいなかったけど。
『あの人キライ?』
「え?」
気付くと道化の子が寝ころんだ姿勢のままこっちを見ている
ほんとお面のせいで解りにくい。
『キライ?』
「え・・・あの人?」
てか、あれ?この子喋れるんだ、口が殆ど動いてないからすごく不思議な気分
あの人ってもしかして昨日の大臣?
『アノ人』
「えぇと・・・どうかな?わからないごめん」
『・・・ウソツキ』
「!?」
声はそのままで急に機械的になった口調に思わず尻餅をつきそうになってしまう
「大人をからかうのはよくないよ・・・」
道化のおでこを軽くこづく仕草を見せると何故か楽しそうにきゃっきゃっと笑い出した
『ワルイ人は退治シテイイ?』
「・・・決めつけは良くないし、それに物騒・・・」
この子の真顔に見つめられてると、我ながら心に無いことを言ったような気がして来た・・・。
そんな心境を知らずかゆっくり右手をあげるとトリガーでも握るような仕草をする
「・・・それに言葉、解っていってる?」
口元で満面の笑みで頷くと人差し指を自らの頭に当てて急に大きな口を開け
『バン!』
言葉に合わせたように右手を弾かせるとぐったりとうなだれてしまう
「え?」
『・・・ナンチャッテ・・・フフ・・・アハハハハ』
「あぁ・・・え?遊び?」
急にお腹を抱えて笑い出す・・・なんだ遊び相手にされてたのか?
まったくどういう教育受けたらこんな子になるのかな?
「僕もう現場に戻る時間だから行くけど、そこらへんで寝てたら風邪ひくよ?解った?」
急に笑うのを止めると顔を隠すようにふて寝してしまう、言い過ぎたかな?いや、此処で優しくしたらまた調子に乗るかもしれないし止めておこう
道化の子をほっといて部屋を後にする事にした、一度だけ振り返っても見たけどそのままの姿勢だった、やっぱりちょっと言い過ぎたのかな・・・
しかし、あの子本当になんなんだろう。王様の血縁とか?いやそれならこんな放置っぽいことなんてしないだろうし。
毎日変わらないような生ぬるい軍隊の訓練が続く。
ふいに道化の子供が取った仕草を思い出した、けどそれもすぐに忘れて彼の存在そのものを忘れかけたころ、
僕は嫌でもあの行動の意味を思い出すことになる。
右や左に行きかう人々を子供が登るには少々高い塀から足を投げ出して見つめる道化らしき男の子
顔には鼻まで覆い隠す真っ白いお面
カラフルな色が裾に広がったワンピースが時折風に煽られて体を奪われそうになりながらも決して落ちることは無い
道化の子供は何をするわけでもなく時々首をかしげては通り過ぎていく人に視線を送ったり、またすぐ別の人を目で追ったりしている
そして行きかう人々は誰としてその子供に意識を持って行く事は無い、まるで背景の一つのように
通り過ぎていく
「何してん?」
声の主は両サイドの髪を緩く巻いたいかにも気品のありそうな女性で
服装こそ違うものの道化の知っている宮廷に務めているメイド
仮面の下の瞳を大きく見開くと前のめりにメイドを見つめた
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静かな室内に銃声がこだまする
的の真ん中に何回も命中していく弾丸
何発か打ち終わると満足した様に腕を下ろす女性
一つにまとめた髪にレザーのような赤と黒の市松柄の服を着ていて見様によっては男性にも見えてしまう
「・・・まだまだ大丈夫やね・・・」
テキパキと拳銃を片付けると異様に大きなボストンバックを取り出して外に出ていく
あまり人が入らなそうな殺風景なビジネスホテルに入るとそ
のまま、慣れた手つきで手続きをする、どうも常連らしい。
しかし店員は誰が来ても愛想が無く興味が無いような態度
"その手の人間"が好んで使うには便利そうだ
部屋に入ると一目散に入浴部屋に入りシャワーを浴びる、まるで証拠でも消すかのように
事務的に髪を乾かすとくつろぐ暇もなくベッドに投げていたボストン鞄をあける。
中からは丁寧に畳まれたフリルやレースを纏ったワンピース
それを身に纏い、再び慣れた手つきで髪を二つにまとめ、薄化粧をする
先ほどの姿とは別人に見えるほど女性らしくなった
そう、彼女は宮廷に務めるメイドの一人
そのままチェックアウトを済ます、先ほどとあきらか姿が違うのに店員はまったく気づきもしない様だった
誰が泊まろうが興味が無いのかもしれない
レンタルロッカーにボストンをしまうと身軽そうな小さめの鞄一つで外に出ていく
「せや・・・ケーキでも買って帰ろう」
市街まで戻ると人だかりが増えてくる
(なんかイベントでもやってんかな?・・・ん?)
ふと足を止める、行きかう人々の奥に見える塀に白いシルエットが目に入る
(猫・・・?いや・・・まさか)
人ごみを縫うように塀の近くまで行くと左右を興味深そうに見ている道化の子供
「何してん?」
思わずそんな言葉を口にすると、道化の子供も驚いたようにメイドを見つめた
「どうやって此処まで来てん?出かけるってちゃんと言うて出た?」
メイドの言葉にただ首をかしげるだけの道化
「とにかくおいで?よう降りれへんやろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
(やっぱ・・・あかんかな?)
手を差し伸べても微動だにしない道化の子に差し出した手を戻そうとした刹那大きな風に道化の子の体がぐらついて
一気にメイドの両腕めがけて落ちてきた
焦臭い匂いと両手には二丁拳銃を下ろして恍惚な瞳で動かなくなった獲物を見つめる誰か。
自分には重く大きい拳銃を抱えて怯える様にそれを見た
もう大丈夫、こっちへおいで
『アツイ、イタイ』
「え?あぁ・・・ごめんごめん」
勢いよく倒れこんできた道化の子を慌てて支えたせいで強く抱きしめすぎたかもしれない
メイド自身も後ろに転倒しかけてなんとか踏ん張って事なき得た
(・・・いまのどっかで見た・・・怖い夢か何かやったような・・・)
道化の子供を下ろすと、軽くスキップしてメイドの周りを一周する
「そういえば、きみ、名前は?」
『・・・・・・・・・』
歩くのを止めてメイドの腕をつかむと少しだけ口をあけてjokerという言葉を洩らした
「ジョーカー?・・・変わった名前やね」
『ジョーカー』
「ふうん、トランプのあれやね」
なんとなくほっとく気にもならなくてjokerの手を引いたまま行き付けの洋菓子店へと向かう
『・・・バン!』
「え?・・・いきなり何?」
よく見ると小さな手を銃のように見立てたポーズをとっているjoker
『痛イ?・・・痛イ?』
「痛い処やないで死んでまうわ、そういうのは悪い人にするもんやで」
『ワルイヒト』
「そう悪い・・・・・・」
(って・・・子供相手に何言うてんやろ)
「今度そういう遊びしよな、広い所で・・・それよりケーキ屋さんついたで?行こか」
黒猫と薔薇が描かれたお洒落な看板を掲げたこじんまりとした洋菓子店に入ると
ショーケースに目移りするようなケーキたちが並んでいる
ケーキを眺めているjokerを余所にテキパキとケーキを選んでいく。
「何だお前子供出来たの?オメデトー」
「阿保言わんといて」
ひょっこり出てきな小柄なパティシエらしき青年が接客業とは思えない口調で話しかけてくる
慣れた関係なのか、メイドからすればそれが冗談で流せるものだとわかっている
こげ茶な髪に大きな黒い瞳、コック帽の代わりに猫のお面を頭につけている
童顔なため一見美少年にも見えるのに慣れてくると徐々に相手に毒を吐いてしまうため、一部の客からから毒舌パテシエとも呼ばれているらしい
それでも彼の作る洋菓子は絶品で王様にも献上されたことがあるらしい。
「なんだつまんねーな、さっさと選んで帰れよー」
「何言うてん来てもらえて嬉しいくせに」
「お前が来ると可愛い女の子が怖がって来れないんだ気付け」
「ほんまハチの巣にしたろか」
さきほどのjokerのように手を拳銃に見せかけるメイド
それを見るや何故か間に入り込むjoker パテシエに指をさし首をかしげ
『ワルイヒト?』
「は?」
「え?あー・・・ちゃうちゃう、このお兄さん可哀想なだけやねん そっとしとこうな」
「待てこら、おいチビ」
jokerの頭に手を置いた途端電気ショックでも受けたみたいに一瞬痙攣を起こしてしまま動かなくなってしまうパテシエ
「え?どないしたん」
「・・・・・・・・・・・・」
目の前で何度も手を動かしても急に虚ろになった瞳は一点を見たまま動かない
「・・・クランちゃん?」
パテシエの名前らしい両腕をつかんで名前を呼ぶと何事も無かったように視線をメイドに戻す
「・・・・・・・・・・・・・・・静電気だ・・・」
「そ・・・そうなん?びっくりするやんか・・・」
なんだかんだおまけに焼き菓子までもらってしまい。焼き菓子の方をjokerが嬉しそうに抱えている
「おいウサヤ」
「ん?」
ふいにメイドを呼び止める毒舌パテシエことクラン
「少し屈め」
無理やり体を引き寄せると耳元で何かを囁いた
「え?」
「気を付けろって話、じゃあな・・・用が済んだらさっさと帰れ」
宮廷に戻ると一目散で走っていくjoker
まぁ宮廷内ならどこに行っても心配する必要も無いだろう
「まぁ 少しくらいは・・・考えとこか、さてお茶でもしよ」
jokerを道化っぽく考えたら、ちょっとカラフルにしてみた。
jokerは見た目中身ともに黒く成長していったらいいと思う 最初は悪い意味で無邪気で。
パレードが終わった次の日はいつもと変わらずとも妙な静かさだ
「あれだよねー結局その時だけだよね」
しかめっ面をした下士官らしき青年が小荷物片手にため息をついた
「えぇやん、店は繁盛したりしたんやろ?
盛り上がったいう事やがな」
片方はのほほんとした関西弁を喋るメイド
カプチーノカラーのセパレートタイプのフリルがたんまりと使われている制服を着ている
いっけん可愛げだが平均身長の下士官より背が高い
下士官と対等なのかタメ口だ
「いやぁ…ダメダメ、普段から繁盛しなきゃ意味ないよ」
ふいに言葉を止めると小走りになる下士官
メイドも何かに気付くと同じようにあわす
物影から会話が聞こえたのだ
それは今の王様の影で甘い蜜を吸っているのがよくわかる会話だった
だいぶ離れてからまたため息をもらす下士官
「ていうかさぁ 知ってる?最近また裏でさぁ・・・」
「あぁ・・・知ってるけど、ラーユはそう言うことようみつけるなぁ いつか背後から刺されるで」
ガタンという物音に振り返る下士官とメイド
そこには白いワンピースの裾を踏んづけて顔面から倒れてしまっている子供
よろよろと起き上がったその顔には白いお面
下士官が手をさしのべると後方に仰け反ってしまう
其れを見てくすくす笑うメイド
「その子、宮廷の道化師やろ?生を見るのは初めてやわ
怖がられてるでラーユ」
「・・・あれだよ、お腹空いてかりかりしてんだよ たぶん」
片手の荷物から焼き菓子をとりだすと道化に差し出す
道化は表情も変えないが手も出さない
「これ、すごい美味しいって話だよ?僕食べてないけどさ」
「あかんがな」
すかさずつっこむメイドにやっぱり表情一つ変えない道化
「じゃあ…はい!」
焼き菓子を袋に戻すとそのまま無理やり道化の手に握らせてしまう
さすがに動揺したのか慌てて立ち上がろうとしてまた転ぶ
そのすきに脱兎の如く走りさる下士官とあきれたように笑うと慌てるしぐさもせず後を追うメイド
「変わった子やったねぇ」
歩いていたにも関わらずもう下士官に追い付いたメイドが道化がいた方向を見ていう
「・・・楽しくなりそうやね」
小さく囁くと、下士官の肩をぽんと叩いて職場へと戻っていった
僕は理屈屋だとか屁理屈だとかよく言われる
何となく自覚はしてたけどそんなに言われるほどじゃないと思ってる
むしろ事実しか言ってないと思っているくらいだ
可笑しな訛りで喋るウサヤというメイドだって
最初はそんな僕を避けていた気がしたけど
あれ?いつからだっけ普通に一緒にいるよ
昨日は変な子供、道化?だっけ あのお菓子は食べただろうか?
宮廷道化師なんてさらっとウサヤは言ってたけど
僕は初耳だったよ
人だかりが出来ている
慌てている人から上級兵もいる
どうしたんだろう あまり関わりたくないけど
何やら必死に奥で誰かが言い訳をしている
私じゃないとか誤解だとか
あれは…嫌味な髭を生やした大臣じゃないか
どうしたんだ?
同じ下士官の話を聞くにはあの大臣が王様の大事に保管していた鏡を割ったとか
具体的な証拠は大臣の服から割れた破片が出てきたからだとか
こんな事王様にばれたら大変じゃないか
でもこの大臣…よく裏で悪いことをしていたって噂があったはず
僕は事実だと思っているけど
『・・・いい気味』
え?あれ?
今、僕はさらっと何を考えたんだ
誰かに服の裾を捕まれた気がして振り返る
あの小さな道化が僕を見上げている
口元は満面の笑み
僕が何かを言おうとすると手を放してスキップするように走っていく
あれ?
ワンピースから足が覗いてる
昨日は踏んでしまうほど長かったのにきのせいだったかな?
上下が逆さまみたいな不思議な部屋に。小さくなっちゃう不思議な飲み物大きくなっちゃう不思議なお菓子
アリスの教えてくれる話はjokerの興味を駆り立てる
気付けば歩いている場所は殺風景なのに、jokerの頭の中ではすっかりワンダーワールドが広がっている
そう、そんな世界に住みたい。アリスと・・・アリスと一緒に
夢の世界でもいい。
ダカラモットハナシヲキカセテ
僕のいる世界を作って
此処を僕の世界にして
アリスの話は尽きない
バラのお話、おかしな帽子屋のお話、いじわるな女王様のお話
アリスが歩いてきた、アリスの世界、アリスが歩いてきた道
ねぇ、僕にもできるよね?
ソコナラウケイレテクレルヨネ?
jokerのお話も聞きたいわ
僕の世界?僕の歩いてきた道?
静かに首をふる。
ボクノセカイコワレチャッタ
ホントウハ・・・ホントウハ・・・ナオシタカッタ
・・・デモ・・・
デキナカッタ・・・ダメダッタ・・・
モウドコニモナイモノ・・・
ヒトリジャナニモデキナイヨ
泣かないで、私の話で良かったらまたいつでもしてあげる
だからjokerもそんなお話を思い出を、私に話してね、今じゃなくて近い未来でいいのよ
ワカッタ
私、もう行かなくちゃ、パレードが近づいてきてるの
ボクモイカナキャダメ?
うん
アリス待っテ・・・一人ニシナイデ・・・。
また次の夢で会おうね
ユメ?・・・夢?
ソウダ、僕ハ僕ノ世界ヲ
作ラナイト・・・
ソウスレバアリストツナガッテラレルヨネ
僕ガ世界ヲモウ一度ツクルンダ!
僕ノ・・・僕ノ世界ダ・・・!!
ボクッテダレダッケ?
チガウ、コレハチガウ
デモコノオウカンハ・・・?
両手で掲げた王冠を鏡に叩きつける
びしっと鏡に亀裂が入ると道化の顔が歪む
虚しく円を描くように床に落下する王冠
その眩い美しさを維持したまま ことんと小さな音を立てた
亀裂部分に指を触れた途端、驚いたように飛び退く道化
指から赤い雫が伝う
割れた鏡と指を交互に見るや 慌ててその場から逃げだしていった
イタイ
誰も使っていなそうな殺風景なお部屋のすみでまじまじと指を眺める
傷が深いのかその赤い雫は止まる気配が無く、ただ少しづつ 指を伝って落ちていく
それを眺めているうちに睡魔が襲ってきたのか仮面の下でゆっくりと目を細めていく
もう夢が終わっちゃうかもしれない
朦朧とする意識の中でお部屋いっぱいに流れ星が零れ落ち来る
光景が見えた。
とってもカラフルでふわふわしてお星さまがパレードしてる
ネェ?ソコナラウケイレテクレル?
大丈夫?
ねぇ?大丈夫?
誰かに声をかけれらた気がして目を開ける
金色の髪がとてもきれいな女の子
青く澄んだ瞳に水色のワンピースがとても映えて見える
大丈夫?
もう一度言われて改めて自分の指を見ると丁寧に包帯が
ダイジョウブ
ただその言葉を発声することが出来なくて道化は何度も頷いた
そう ここに来てまだ幼い道化はまだ一言も言葉を発していない
私 アリスっていうの 貴方は?
・・・・・・???
キョトンとした顔をする道化に、くすくすと嗤うアリス
どうにも彼女にはお面越しの道化の表情や言いたいことが解っているように見える
まるでjokerみたいね。 トランプの、わかる?しらないの?
ジョーカー
道化の腕を引っ張ってエスコートするように歩くアリス
jokerっていうのはトランプでいらないものって言われてる存在なの
・・・・・・・・・。
でもね、私は、jokerがいないとトランプは成立しないと思うわ
ううん、いらないカードなんてないのかもね
jokerはちょっと浮いてて不思議なだけよ、貴方ね。
ジョーカー・・・ウン・・・ジョーカーガイイ!
うん!だよね!
満面の笑顔を見せるアリスに道化、改めjokerの表情に笑顔が戻っていった



