人気のない室内で二人の男が密会をしている
一人は立派な髭に服を着た男
もう一人は如何にもな度の強そうな眼鏡に商人のような服を着ている
明かりも少なく二人だけが浮かび上がって見える
暗がりで良く見えない光景の中、何か物を手渡している
それは普通に考えて公には出せないようなもの、所謂取引
立派な服を着た男がそれを受け取ると少しだけ中身を見て満足そうに懐へと隠してしまう
「今は国王も王政で忙しくてすべてに・・・どうせもともと見ても無いだろうがな」
「そう言ってあなたがしっかり牛耳っているんでしょ?この前の大臣の事も違うのですか?」
「いや・・・正直関係は無いがあれもそろそろ丁度潮時ではあったがな・・・」
小さな書面を差し出す
「国王直属という言葉さえあれば、絶大なる信頼を得たようなものだ」
「そうでしょう・・・ですが小さい店もこれが害虫のようにしつこいですからそこらへんも・・・」
「解っている、あの範囲の敷地内なら土地権はある、適当に言い訳をつけて一式買い取ればいい」
「ありがとうございます!!」
その紙を受け取ると大きく頭を下げる男、商人か何かかもしれない
「もちろん今後もこちらからお礼をさせていただきますよ」
「くれぐれも内密にしてくれたまえ、これは私と君だけの話だ」
暫くすると商人らしき男の方が部屋を出て行った
「バカな男だ、逆に利用されているとも知らずに・・・・・・」
コロコロと小さな音と共に転がって来た小さなクレヨンにぎょっとなる男
「誰かいるのか?」
クレヨンが転がってきた方に明かりを向けると床にスケッチブックを広げてお絵かきをしている子供。
この明かりもまともに無い部屋で。
白を基調とした体格に見合わない様な、足までありそうな軍服風のワンピースを着ている
(何だ・・・例の子供が・・・確か国王様のお気に入りの珍しい品だったか?まぁ何も聞いてはいまい・・・)
「何を描いてるんだい?・・・」
スケッチブックをのぞき込んで顔を真っ青にする男
そのスケッチブックには先ほどのやりとりをまるで模写したような光景
ご丁寧にもう一人の男の方を赤く塗りつぶしていて、まるまる話を聞いていたのかと錯覚してしまうほどに
辛うじて人間とわかるレベルのなのに、たかだか子供の落書きなのに
男は冷静さを作り笑顔をすると子供の優しそうな声を出した
「次はおじさんと遊ぼうか?」
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「こんな時間に何を燃やされているんですか?」
「あぁ・・・いやね、これは急遽いらなくなった書類でね、外部に出ないようにと・・・いや・・・内密だったんでね」
なんだかしどろもどろな言い訳をするに首をかしげる下士官のラーユ
「こんな深夜に・・・?」
「日中忙しくてね、早めの処分を任されていたんだよ・・・いやぁ手間をかけたね」
軽く首を振る下士官
「じゃあ・・・火の始末は・・・」
「あぁちゃんとする・・・ここは異常も無かったし他を回ればいい」
「・・・そう・・・ですか、失礼します」
「あぁ・・・ちょっと待ってくれ」
一礼してその場を離れようとした下士官を呼び止める
「きみに見回りをして欲しい所があるんだがいいかね?」
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「あれ?ウサヤ何でいるの?」
「いたら悪いか?・・・明日は大事なお客様が来はるから最終チェックやな」
「へぇ…相変わらず念入りだね」
「ラーユは見回り?」
「そう、鍵見に来たんだった」
ウサヤの言葉に思い出したように手をぽんとする
「食材子の所だっけ?なんか物音してたんだって、見てきてくれって頼まれた」
「ふうん・・・このご時世に・・・?」
「正直撒かれた気はするけど」
「?」
「こっちの話」
倉庫のカギが何種類もつけてあるリングを手に取るとちらっとウサヤを見て
「幽霊かもね」
「最悪や・・・」
顔を真っ青にするウサヤを背に向けて出ていくラーユ
なぜかそのあと同じ歩幅でついてくる足音
「どうしたの?帰らないの?」
「泥棒やったらラーユ頼りないやろ?ついってたげるわぁ」
(・・・やっぱり怖いのか・・・)
倉庫の最初の施錠に鍵を入れて違和感に気付く
「鍵・・・あいてる・・・」
「嘘・・・」
鍵が開いてる場所もそうでない場所も結局誰もいなく物音もしていない
「・・・やっぱ撒かれただけか・・・」
「あとは冷凍室やね・・・此処は大丈夫やろ~ここ中からは出られへんもの」
「でも念のためかな」
静かにあけて扉が閉まらないように固定して入る
「誰もいない・・・よね」
「なんか・・・聞えた・・・」
きょろきょろと周りを見渡すウサヤに耳をすますラーユ
「何も聞こえないけど・・・わ、何か蹴った」
蹴られたそれが勢いよく跳ねてからんと落ちる
手に取って硬直するラーユ、ウサヤもそれを見てびっくりしたようにラーユを見た
手に取ったそれは白いお面
「え?いる・・・?これあの子の・・・あぁ・・・でも同じお面もあるよね?」
「せやけど・・・何で此処に・・・?」
慌てて箱をずらしたり開けたりする
「ジョーカー?あるん?」
「あ・・・ジョーカーって言うんだ・・・すごい名前」
「今は名前はどうでもええよ、もしここ遊んでる内に入ってしもたなら大変やで」
「でも此処・・・あの子の身長じゃ開けれないぞ」
扉の入口は二つの取っ手を押して観音開きみたいになってる、扉も重いから簡単には開けれないようになっている
「あ・・・せやな・・・でもどうして?・・・あれ?」
大きめの箱が三段くらい積まれた一番下のはこの隙間から白い布が見えている
「えぇと・・・袋?」
ひきつり笑いを起こすウサヤに慌てて箱を下ろして開けるラーユ
中には体を丸めてすっぽり収まっている道化の子ことジョーカー
お面が無いと目を閉じているのが良くわかる
「いた・・・何でこんな所にとにかく出さないと」
ウサヤが持ち上げるとくりっとした目を開ける
ビー玉みたいな青い瞳
「何でこんな所にいてん?」
『隠れんぼ』
顔を合わせるラーユとウサヤ
もしかしてそれを知らずに誰かが箱を積んだと
「いくらダンボールにいたからってこの寒い中ずっといたわけ?」
「何事も無くて良かったけど・・・勘弁してや」
『いいもの見せてあげる』
一方的に言うとウサヤの腕を引っ張っていくjoker
「待ってそっちはもっと寒いで・・・」
『此処にも隠れてる』
冷凍された大きな肉が飾りのようにたくさん吊られている
「これはね隠してるんじゃなくて、食料を掛けてあるんで」
『あっち』
「え?」
壁の奥から足のような物が覗いている
「どうしたの・・・うわ・・・」
真っ青になって足を投げ出している男がいる
どう考えたって死んでる
その場で腰をぬかしてしまうウサヤ
ウサヤの腕を掴んだまま青ざめているそれを指さし嬉しそうに笑うjoker
結局二人があれこれ聞かれて帰れたのが朝方だった気がする
亡くなっていたのはあの鏡の問題が起きた時の大臣だった
そもそもここずっと城にはいなかったはずだけど
何より怖かったのが死因が凍死じゃなくて頭部を銃で撃たれたことらしい
真っ先にあの時の光景を思い出したけど
気付くとjokerはいつのまにいなくなっていた
(偶然にしても怖すぎだし・・・どうなってんだこの国・・・)
隣を見ると同じくらい真っ青なままのウサヤがいる
送った方がいいかもしらない気がしてきた
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「みーつけた、鬼さん見ぃつけた」
隠れんぼをそのまま続行でもしていたみたいに誰かに向かって指を指すjoker
その指を自らの頭に持って行くと大きく口をあけて
「バン!」