『どんな泥臭くてもいいから勝て』

先日行われた吉田秀彦選手の引退興行にて、小見川選手が吉田選手から教えられたことで、印象的だったこととして挙げています。

まさに昨年末に行われた吉田秀彦選手の石井慧選手との一戦が、この「泥臭くてもいいから勝つ」ということを体現していたと思います。

近年は勝ち星に見放されていた吉田選手でしたが、自分との戦いには勝ち続けていてと思います。総合格闘家としてプロのリングに立ち続けることが、吉田選手が泥臭くとも自身との戦いに勝ち続けていたことを証明していたと思います。

ASTRAで流れたVTRの中で、吉田選手は既に2004年のPRIDEのマーク・ハント選手との試合で左肩を悪化させ、医者から引退勧告をされていたことが明らかになりました。

それでも選手生活を続け、強豪とも戦い続けてきた吉田選手の選択に、泥臭くてもいいから続ける、自分に勝ち続けるという信念が垣間見えます。

その吉田選手が引退を決意したということは、よほど体に限界が来ていたことが容易に想像出来ます。


吉田選手の総合格闘技デビューは衝撃的でした。

「オリンピック金メダリストの柔道家がどれほど強いのか?」

世間の関心はこの一点に集中しました。

結果はホイス・グレイシー選手を失神させての一本勝ち。試合前に吉田選手の惨敗を予想した人も多かったと思います。それほど当時のホイス選手は依然強豪でしたし、柔術のレベルも高いものを持っていました。

ホイス選手を失神させての一本勝ちは、デビュー戦のインパクトとしては十分すぎるものでした。

その後も、吉田選手の快進撃は続きました。

そしてPRIDEでヴァンダレイ・シウバ選手との対戦まで漕ぎ着けました。

当時のシウバ選手は無敵の強さを誇っていましたが、吉田選手ならもしかして、もしかするのではないかという期待もありました。日本人選手がシウバ選手を倒すかもしれないという大きな期待がファンの間で膨らみました。

私はその時の吉田選手の入場シーンでの、彼の存在感に驚かされました。柔道着に身をまとい、仁王立ちするその姿には圧倒的な存在感と、独特の色気ともいえるオーラがありました。それ以来、吉田選手の入場シーンは他の選手と一線を画していると感じるようになりました。

結果は惜しくも負けてしまいましたが、私は吉田選手の試合の中で、このシウバ選手との一回目の対戦が一番印象に残っています。柔道の実力はもちろんなのですが、元々喧嘩が強い人なんだと感じました。

その中でも、後に会場の大歓声へと繋がる、吉田選手が試合開始早々にシウバ選手をテイクダウンすることに成功したシーンが最も印象的でした。


数々の名勝負を見せてくれた吉田選手ですが、最も大きな功績は柔道家が総合格闘家へと転身する道を切り開いたことだと思います。

吉田選手も不退転の決意で、総合格闘家へ転身したことと思います。

元柔道家として、総合格闘界で活躍する吉田選手の姿は、多くの柔道家の目に、さぞかし眩しく映ったことでしょう。

その後、中村選手、瀧本選手、小見川選手、泉選手らが総合格闘家へと転身しています。

吉田選手が柔道界から総合格闘界への道を開き、少なくない柔道家をその光へ導いています。


吉田選手は引退後、柔道界へ一度戻るようです。

吉田秀彦選手の柔道界でのご活躍を祈るとともに、今後も柔道界と総合格闘技界の架け橋となってくれることを期待しています。

吉田選手、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
青木真也選手がシーザー・グレイシー・ジムで出稽古をするようです。

時期についてはまだ明らかになっていないようですが、シーザー・グレイシー氏は青木真也選手の申し出を快く承諾したようです。

シーザー・グレイシー氏には、単に青木真也選手が強くなる機会を与えたいという以外の思惑があるようです。

近年、アメリカのメジャー団体のイベントに参戦した日本人選手の多くがことごとく負けていくシーンが気になっていたようです。

シーザー・グレイシー氏は、日本のMMAはアメリカのそれに数年遅れを取っていると感じていたようです。

日本が柔道をブラジルに持ち込み、それが柔術として発展しました。今回青木選手を受け入れることにより、日本のMMAの発展に貢献して、少しでも御返しが出来ればという想いがあるようです。


今回の青木選手の素早い決断は良いと思います。ストライクフォースでのメレンデス選手との試合での敗戦後、既に練習環境に関する指摘が多くありましたが、青木選手も思うところがあったのでしょう。

この決断から察すると、青木選手はメレンデス選手へのリベンジにはそれほど執着していないように思えます。少なくとも、目先でのリベンジには関心はないということでしょう。

メレンデス選手の所属するジムに出稽古に行くということは、更に青木選手のことを研究されてしまいますし、同じ環境で練習をしている物同士の試合は組みにくくなります。

メレンデス選手云々よりも、アメリカで更なる高見を目指す、日本人のMMA選手としてトップを目指すという意識の表れだと思います。
5R判定 3-0。(50-45,50-45,50-45)

フルマークでのギルバート・メレンデス選手の判定勝ち。

青木真也選手のアメリカ初挑戦は完敗という結果に終わりました。

ストライクフォースというアメリカのメジャー団体に、日本のメジャー団体の王者が出場するということで、この一戦は日本の格闘技ファンの注目を集めるとともに、多くの期待が寄せられていました。

青木選手が負けてしまったという事実もさながら、完封されての敗戦ということで、期待していたファンに与えた焦燥感は非常に大きなものでした。


ただ、私は青木選手とメレンデス選手、両者の格闘家としての能力そのものに、そこまで差があるとは思いませんでした。フィジカルの差もあまり感じませんでした。

既に言われている通り、両者の明暗を分けたのは、戦い方・戦略の部分だったと思います。

バックボーンとなる格闘技が大きく異なる格闘家がMMAで戦う場合、その戦略は大きく二つに分かれると思います。

“自分のフィールドに相手を持ち込むこと”そして、“相手のフィールドに持ち込まれることを防ぐこと”です。

今回の対戦でメレンデス選手は、“相手のフィールドに持ち込まれることを防ぐこと”を徹底的に実践しました。積極的に攻めて青木選手の牙城を崩したというよりは、青木選手の土壌に足を踏み入れないことで、結果として勝ちを手にしたという印象です。

特に寝技ベースの選手と打撃選手の対戦となる場合、寝技系の選手は“自分のフィールドに相手を持ち込むこと”をせざるを得ないのですが、実力が拮抗している場合は“相手のフィールドに持ち込まれることを防ぐこと”よりも“自分のフィールドに相手を持ち込むこと”の方が大きく困難になって来ます。

そういった部分では、今回の青木選手の戦いぶりを見ると、“自分のフィールドに相手を持ち込むこと”をするための戦略が不足していたのかもしれません。もしくは、それを実行するための打撃のスキルや、タックルの技術などが足りなかったのかもしれません。

メレンデス選手の方が金網での戦い方に慣れているため、金網際をうまく利用して、“相手のフィールドに持ち込まれることを防ぐ”戦い方、青木選手にグラウンドへ持ち込まれるのを防ぐ戦い方をしてくるのは試合前に容易に想像出来ました。

それに対する、青木選手側の対策は不足していたのかもしれませんし、そこにメレンデス選手の実力を低く見積もっていた、青木選手の過信もあったかもしれません。



この青木選手の敗戦を受けて、青木選手を明からさまに批判するような声も一部見られます。

その中で、前回UFCに初挑戦して敗北を喫した五味選手と比較し、試合として攻防が成り立っていた五味選手の方がまだマシ、五味選手の方が上という意見も見られましたが、それは少し違うと思います。

五味選手は自身のフィールドであるスタンドでの打撃戦を展開した中で、ほぼ完封されて敗北を喫しました。

今回の青木選手の場合、相手が寝技系の選手で、寝技の展開になったうえで何も出来ずに負けたのであれば、五味選手よりも劣るという見方も出来るかもしれません。ただ、今回の青木選手の相手は寝技系の選手ではありませんでした。

なので、五味選手の敗戦内容と比較して、青木選手の敗戦内容をそれ以下とするのは誤りかと思います。


今回の日本メジャー団体DREAMの王者である青木選手の敗戦によって、日本の格闘技のレベルを下に見られてしまったかもしれません。格闘技マーケットという視点でみた際に、現時点で日本がアメリカに劣っているのも事実です。

ただ、青木選手はここから這い上がるような気がします。青木選手はこの試合後に、「今はメレンデス選手と再戦したいとか言える立場じゃない。これからまた奮起して、メレンデス選手の方から戦いたいといって貰えるような選手になりたい。」というような発言をしています。これは自身の足りなかった部分を認めた上で、過去の栄光にしがみつくことなく、またゼロからスタートしてやるという意思表示にも見えます。

もしかすると青木選手には、アメリカのジムに出稽古に行くなど、更に強くなるためには練習環境を変えることも迫られるかもしれません。

青木選手は試合後に「リングとケージの差は取るに足らないと思う。」とも、発言しています。一見突拍子もない発言にも聞こえますが、もしかすると今回初めてケージで試合をした中で、何か光が見えたのかもしれません。