在り方を問うた問題作だと
僕が勝手に思っております
例の『くたばれインターネット』の
御紹介の方は
今回はちょっとおやすみ。
とは言いつつも書影は出します。
こちらですね。
 | くたばれインターネット (ele-king books) 2,860円 Amazon |
いや、本当にあと二回くらいは
書こうと思っておるのですけれど、
続きは来年に回します。
今回はたぶん本年最後の
更新になると思うので、
とりあえずは来年の予告。
まず少し前の記事で
原書の書影を出していますが、
トレイシー・ソーンの次の本、
こちらが登場してきます。
 | Another Planet: A Teenager in Suburbia 1,841円 Amazon |
先般無事翻訳も終わりまして、
いよいよ春くらいまでには
出そうかというお話になりました。
邦題などは未定です。
日本版の表紙などもこれからです。
自著訳書問わず、
これが実は
とても楽しみだったり致します。
そして内容の方ですが、
サブタイトルの〈郊外の十代〉が
示している通り、
前回の『安アパート～』では
さほど篤く扱われてはいなかった、
十三歳から大学進学までの
まさに思春期といっていい時代が
やはり本人の日記を元に
再構成されていきます。
特に音楽以外の部分について。
ですからつまりは
なんといおうか
普通の子供としての
トレイシーがそこにいます。
当時はそういう時代だった訳ですが、
まだ中学生だというのに平気で
ディスコやパブに入り浸って
アルコールを聞こし召したり
そういう機会を余さず捉え、
男の子と多少いちゃついてみたり、
心と体の変化に戸惑いつつ
時に寝室で一人きりで
世界を夢見てラジオに耳を
傾けたりなんぞしているのですが、
しかしながら単なるそうした
回想録だけには
絶対にとどまらないところが
この方のこの方たる
由縁なのだと言えましょう。
読ませます。
『安アパート～』の補填的な
資料としても成立していながら、
娘としての彼女と同時に
母親としての現在の彼女が
じわじわと浮かび上がってくる
構成になっているのです。
――唸りました。
この程度ならネタバレには
ならないと思うので
書いてしまいますけれど、
特に本書においては、
御自身が父親と母親とを
見送ったことについても
触れられていますので、
よりトレイシー・ソーンという人の
人間像が明らかになる感じです。
それにしても不思議な本でした。
随所でさながら論文のように
都市論やフェミニズム的なテーマが
掘り下げられてくるかと思えば、
姉妹での旅行や子供たちのことが
軽いエッセイのように出てきもし、
かつ、全体が同時にきっちりと
一つのテーマに収束していくよう
緻密に構成されている。
小説とは絶対呼べないのに
そんな手触りがなくもない。
ラストなんか特にそう。
しかも、訳しながら時折
椅子の上で思わずちょっと
姿勢が崩れかけてしまうような、
そういった軽い笑いまで誘う。
そうしたニュアンスが消えないよう
丁寧に日本語になおしたつもりです。
では今回表題にまでなっている
この『アナザー・プラネット』
すなわち“他所の惑星”とは
いったいどこのことなのか？
これは本文にそう書いてある訳ではなく
あくまでも僕の個人的な答えになりますが、
でもやっぱりこれって絶対
ジギーがやってきた
星なのだろうなあと、
そう思ってしまったのでありました。
なんだかんだいって今年は、
翻訳者としてのスタートを
本格的に切れた年として、
自分の記憶にも
残っていくのだなと思っております。
だってトレイシー・ソーンだもの。
未だに自分の名前が
同書の表紙に書いてあるのが
不思議な気がいたします。
いや、本当、そのくらい
大好きだったんですよ。
若かった頃。
本当、それこそこの
『ANOTHER PLANET』で
扱われているような時期です。
大瀧詠一『ア・ロング・バケーション』と
佐野元春『サムデイ』の両者の洗礼を受け
邦楽が全然聴けなくなってしまった後、
とにかくそういう手触りを
必死で探して、たどり着いた
一人であったことは間違いないです。
 | 安アパートのディスコクイーン──トレイシー・ソーン自伝 (ele-king books) 4,015円 Amazon |
もしご興味をお持ちいただき
万が一楽しい読書に
一役買うことができましたなら
大変幸甚です。
自分の文章であれ、
仮に元は英語であれ、
そういう時間を作ることこそが
自分の仕事だと思っています。
そこは一切揺らいではおりません。
では皆様、よい御年をお迎え下さい。
来年も引き続きご愛顧のほどを。
最後についでなのでこちらもジャケ写だけ。
 | A LONG VACATION 1,331円 Amazon |
 | SOMEDAY 1,757円 Amazon |
よい御年を。