ラジオエクストラ ♭78 Kids | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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そういう訳でしばらくは
ここでこんな感じで

EBTGこと
エヴリシング・バット・ザ・ガールの
御紹介でも続けようかと思っております。

まず今回取り上げるアルバムはこちら。

八五年発表の
二人の名義では二枚目の作品。



いやでも、こういう記事が同時に
自分の本の
プロモーションにもなるなんて、

このブログを始めた頃には
正直考えてもいなかったような
事態であるのも本当でして、

ある意味では一つの
ドリームズ・カム・トゥルーの形と
呼べなくもないのかなと思ったり。

そもそもが英語の翻訳に
手をつけだしたのも、

このラジオで取り上げるネタ探しを
毎週せっせと続けていたのが

きっかけの一つであったことも
まるっきり嘘ではないもので。

とにかくなんか本当にいろいろと
人生塞翁が馬だなあと思ったりしてます。


考えてみれば
『オールド・フレンズ』という

彼女たちの曲のタイトルを拝借して
自分の作品を発表していることも

まるでこの事態の一つの伏線みたいに
機能しているようでもなくもないし。


あ、改めてではありますが
いよいよ今週末に
この本が書店に並びます。


拙訳によります、
このEBTGのリードシンガー
トレイシー・ソーンの自伝です。

マリンガールズはもちろん
それ以前のアマチュア時代から、

EBTGの解散までの全キャリアにとどまらず

シーン復帰第一作となったソロアルバム
『アウト・オブ・ザ・ウッズ』の
発表の経緯までをも網羅した

非常に充実した内容となっております。

その分文字量は非常に多いのですけれど。

好事家の方には
御期待いただければと存じます。



もっとも、今回標題に
ピックアップした
このKidsというトラックは

実はそもそもは姉御こと
クリッシー・ハインド率いる

プリテンダーズ(→♯27)の
デビュー二枚目のシングルで、

しかも彼らEBTGのヴァージョンは
本国イギリスではアルバムには収録されず、

まずは米国盤で日の目を見て
英国その他ではCD化の際に

ボーナストラックとして
追加で収録されたものなので、

アルバムを紹介する曲として
本当に妥当なのかどうかは

自分でも疑問符をつけざるを
得ないところもなくはない。


でもなんだかんだ言って
この一枚を通しで聴くと、

やっぱり一番好きなのは
この曲だったりするので
今回はあえてこれで
行くことにさせていただいた。


ちなみに今回の自伝では、
特に本作の時期、トレイシーは

レコーディングの最中、
ヴォーカル録りの直前に

一人スタジオの二階か
どこかにこもって

プリテンダーズのアルバムに合わせ
三十分だかたっぷり歌って、

喉のウォームアップの
代わりにしていたなんて

エピソードが紹介されていたのも
チョイスの理由の一つではある。

きっとそんな流れで
録音してみようかなんてことに
なったのかな、などと

想像逞しくしてしまったもので。

そういう訳で僕自身も
この録音に関しては
耳にしたのもずいぶんと後からで

そのうえ最初はすぐには
プリテンダーズのナンバーだとは
気づかなかったほどだった。

あれ、絶対聞いたことあるのに、
誰のだったかわかんないぞ、
みたいな感じだったのである。

タイトルのKIDSという単語が
なかなかすぐには

出てこない構成になっていることも
あったのだが、

だからこの二人のヴァージョンは
原曲とはずいぶんと
かけ離れた手触りに
仕上がっているのである。

むしろこちらを聴いて、
この曲のメロディーラインって、
実はこんなに
美しかったんだなくらいに思った。

こんな発見をさせてくれる
カヴァーは実に貴重だと思う。

もしご興味をお持ちいただけたら
両者のヴァージョンを
聴き比べてみるのも
なかなか面白いのではないかと思います。


さて、このLOVE NOT MONEYが
発売になった一九八五年は
言わずもがなライヴエイドの年で、

同時にMTVの存在感が
どんどんと圧倒的に
なっていった時期でもあった。

本作はシングルともなった
When All’s Wellという
アップテンポのポップトラックで
幕を開けているのだけれど、

この曲のビデオを初めて観た時は
なんとも奇妙な気分にさせられた。

何よりもトレイシーが
地面に逆さまに埋め込まれた
鐘の中で歌っているのである。

――何じゃこりゃ。

正直そう思いました。

御本人たちがどんな気持ちで
この撮影に臨んだかも、
ちらりとですが書いてあります。

ここばかりは思わず
訳しながら苦笑してしまいました。

さて本作だが、前年発表のデビュー作
EDEN(以前の記事はこちら)とは
すでにちょっと手触りが違っていて、

ノスタルジックとかアンニュイとか
そういう形容の似合うトラックよりは

このWhen All’s Wellのような
透明な軽快さを持った
曲の方が目立つ感じはある。

その辺がどうやらこの時期
二人がそれこそどっぷりと
ザ・スミスに嵌まっていた
せいだったらしいなとわかったのも、

今回の自伝のおかげである。

それでもアイリッシュ民謡のような
Seanというナンバーがあったり、

裏タイトルトラック的な
意味合いを有する
This Love(Not For Sale)などは

ほどんどビリー・ホリディばりに
徹頭徹尾物憂げだったりするし

そのうえなんだかカントリーみたいな
トラックまで紛れ込んでいたりと

実にバラエティに富んでいるところは
いかにもEBTGらしい。

そういうのを通しで聴いて
全然違和感なく入ってくるのが

このトレイシーの声と唱法との
類い稀な強さであり、

また本作はこの二人のタッグが
アルバムアーティストとして

お互いをお互いに開花させた
好例ともなっているのだと思う。

本当にだから、曲の当たり外れ的な
振り幅が小さくて、

それでまあ僕もつい、
聴いたことのあったKidsを
表題に選んでしまったりするのである。


あるトラックに突出した
インパクトが生まれない、

もうちょっと言葉を
選ばずに言ってしまえば
どれもが佳曲ながら

ややヒット性に欠けて
聴こえてしまうという問題には、

当時は本人たちも
ずいぶんと悩まされていたらしい。

その同じジレンマはこの後も
次第に色を濃くしながら
しばし続いていた模様。

そうした一切がいずれ
Missingの全米での
超特大ヒットへと繋がっていき、

読み物としての本書に
大きなカタルシスを
もたらしてくれもするのだけれど、

その辺りはでもまた機会を改めて。

では今日のところはこの辺で。