ブログラジオ ♯174 Can't Fight this Feeling | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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67年に結成されたこのバンドが
実に14年にも及ぼうという、
いわば泥を舐めるような

下積みという言葉でもすでに
到底足りないほどの時間を通り抜け、

一大ブレイクを果たしたのは
まずは80年から
翌81年にかけての出来事だった。

デビュー10年目にしての
初のチャート・トップの獲得。

なかなか簡単に
起こることではないだろう。

むしろそれだけの間
つまりヒット曲が
まるでないままに、

なおバンドそのものとその名前が
維持されていることの方がめずらしい。

我慢できずに解散してしまったり、
あるいは名前を変えて
再デビューみたいな事例の方が
多く挙がってきそうである。

とはいえこの彼ら、
それほどまでに結束が
固かったのかというと、


どうやらそうでも
なかった様子なのが

実際この人たちの
不思議といおうか

どうにも捉えどころのない
部分だったりもするのだけれど、

今現在も存続しているこのバンド、
メイン・シンガーの名前を
ケヴィン・クローニンという。

改めてなんだか思わず
苦労人という字面が


ついつい浮かんできて
しまったりもするのだが、

いや、今回は
この方向を膨らませるつもりは
あまりない。

しかもこのケヴィン、
メインのソングライターの
一人でこそあるのだけれど、

決して結成時からの
オリジナルの
メンバーでもなかったりするし、

しかも上の十四年の間には
一時期バンドを離れて
しまったりもしているのである。

やっぱりどうにも
捉えどころの
ひどく難しいバンドである。


とにかくまあこのバンド初の
トップワン・ヒットとなった

Keep on Loving Youを
収録していた
HI INFIDELITYなるアルバムだが、

当時そんなに売れたのかと
思うくらいの勢いで
売れまくっていた模様である。

アルバム・チャートの1位に
君臨すること実に15週。


のみならず、81年の
年間チャートでも
堂々のトップだったというから、
むしろ驚きである。

そうか、THRILLERと
PURPLE RAINの前に

アメリカで支持されていた
音というのは
これだったのかくらいにまで

ちょっとだけ
思わないでもなかった。

いや、お恥ずかしながら
この一枚はまだ


ちゃんと頭から終わりまで
耳を通したことすら
今に至るまで一度もないし、

それどころか
Keep on Loving Youにしたって、

最初に聴いたのがいつだったかすら
ほとんど記憶に残っていない。

ラジオでもあまり
紹介されては
いなかったのではないかと思う。

あるいは耳を
素通りしてしまったか。

考えてみればこのバンド名が、
いつ頭に入ってきたのかさえ、
正直はっきりとはしない。

僕がきちんとリアルタイムで
この人たちの音楽を経験したのは

85年の
WHEELS ARE TURNIN’が最初で、

その後のキャリアに関しても
実はほとんど知っている曲がない。

まあそういう訳で
今回のチョイスもやはり、


二曲目にしてバンド最後の
トップ・ワン獲得曲である

こちらのCan't Fight this Feelingに
なっているという次第。


でこの方たち、時々、
アルバムのタイトルのセンスも、
それからアートワークも

なんだこれはというくらい
変なものを作ってくることが
どうやらあった模様である。

全部が全部そうだという訳では
もちろんないのだけれど、


たとえば78年に
『ツナ・フィッシュ』という邦題で
リリースされていた一枚がある。

これ、原題を、
YOU CAN TUNE A PIANO, BUT
YOU CAN’T TUNA FISHと
いうのだそうで。

長いし、しかも全然
意味わかんないじゃないか。

ピアノは調律できますが
魚はできませんとでも、
訳せばいいというのだろうか。

もちろん字面からも
一目瞭然だと思われるし、

こういうのを説明するのは
本当に野暮だよなあと
思わないでもないのだが、

要はこれ、TUNE A とTUNAの
しょうもない駄洒落から、
できあがっているタイトルである。

――うーん。

いや、悪いけれど全然
聴いてみたいとは思わないや。

しかもこのアルバム、
無理矢理にこの駄洒落に併せ
誰かが考えたのだろうけれど、


音叉をくわえているマグロの
アップの写真という

本当にしょうもない
ジャケットに
仕上がっていたりする。

こういう機会もなかなか
ないだろうから、
載せてみてしまおうか。

You Can Tune a Piano But You C/Reo Speedwagon

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ちょっとひどい。

ここまで来るともうなんだか、
つき合わされた写真家さんや、


あるいはデザイナーさんとかに
心底同情してしまいたくなる。

まあそういう意味では、
この試行錯誤の結果、
多少は勉強したのかもしれないが、

かの出世作、
HI INFIDELTYとその次の
WHEELS ARE TURNIN’は

タイトルもジャケットも
かなりマシだったと
いえるかもしれない。

いやでもこのHI INFIDELTYも
略語HI-FIの原義である
HI-FIDELTYの、

あまり頭を使っていない
単なるもじりなので、

ちっとも変わっちゃいないといえば
そうともいえる訳だけれど。

しかしまあこの作品に
『禁じられた夜』の邦題をつけた
本邦サイドのディレクターは、

いったいどのくらい頭を
悩ませたことであったろうか。

まあついついそんなことを
考えたりもしてしまった。


たぶんジャケットのイメージから
なんとか引っ張り出して
きたんだろうなあとは思うけど。

それでも『ツナ・フィッシュ』よりは
マシかなあとか、

考えていらっしゃたのでは
なかろうかとも思わないでもない。

もちろん『ツナ』とこの
『禁じられた夜』が

同じ方の仕事だったという
確証すらないまま
好き勝手にこんなことを
書いているだけなので念のため。



いやしかし、今回はなかなか
音の話にたどりつかないなあ。

まあ正直なところをいえば
ちょっと逃げてしまっている
キライはないでもない。

いや、今回チョイスした
Can't Fight this Feelingは
当時大ヒットしていたし、

そこそこにいい曲なので、
気に入っていなくも
なかったことは間違いはない。

WHEELS ARE TURNIN’は
アルバムでもちゃんと聴いているし、
印象も決して悪くはなかった。

だけどこの人たちのサウンド、
どういうふうに賞めるのが
一番いいのかが

書きながらまだ皆目
わからないままでいるのである。

コーラスはきれいだし、
演奏もしっかりしている。

バンドとしての音作りも
十分にタイトだと思う。

だが結局のところ
なんだかすごく普通なのである。


正当なあの時代の
アメリカン・ロックという感じ。

それもハードという語の
決してつけられない種類の方。

たぶんAmandaとか、
Caught up in You辺りの
前後する時期のヒット曲を

往事のこの人たちが
カヴァーして
発表していたとしても

さほどオリジナルと違和感なく
聴こえてしまうのではないだろうか。


いやそこまでいうと
たぶん言い過ぎにはなるのだが、

そういうボストンとか
あるいは38スペシャルなんかと
さほど手触りが変わらない。

このバンドならではというフックが
見つかってこないので、
やっぱりどこかが食い足りない。

しかも、なんかいろいろと
今回もウラ取りと称して
ネタを探してみたのだけれど、

サウンドに触れている記載が
ほとんど見つかってこないのである。

なんか、初代だか二代目だかの
ヴォーカリストを、
トウモロコシ畑に置き去りにして
解雇したとか、

あるいは最初にケヴィンが
バンドを離れてしまったのは、

誰だかの家のテーブルクロスに
赤ワインをこぼして、
奥さんが怒りまくったせいだったとか、
そんなことばかりが目についてきた。

念を押しておくが、
決してこの方たち、
コミック・バンドではないし、

ヒット曲だって、いわゆる
ノベルティー・ソングに
分類されるものでは決してない。


少なくともここまでに
曲名を出している二曲は二曲とも

シカゴ(♯153)/D.フォスターによる
一連の名バラードと比較しても
遜色ないくらいのできだと思うし、
だからこそ成功しているのだと思う。

だけどなんとなく振り切っていない。

だからこう、なんというだろうなあ、
さっきまで引っ張ていた
アルバム・タイトルの地口なんかも、

勝負をかけなければ
ならないような場面で、
かえって緊張しまくって、


思わずつまんない洒落が
口をついてしまったみたいな、
そんな感じがするのである。

いった本人も
苦笑するしかないレベルのやつ。

それがそのまま表に
出てきてしまったみたいな、

ちょっと見ているのが
気恥ずかしくなるくらいな感じ。

だから彼ら、バラードをやっても
アップテンポのロックをやっても、
十分タイトで緻密だし、

手を抜いている訳でもないのに
どこかで引いている感じが
なんとなく付きまとっている。

まあ、ステージを一度でも
実際に見てみれば
印象は変わるのかもしれないが、

残念ながらそういう機会は
ここまでなかったし、

たぶんこの先も
そう簡単にあるとも思えない。


そういう訳で僕の手持ちは
この方たちに関しては、


最初に掲げたベスト盤一枚きりで、
それもさほど頻繁に
引っ張り出す訳でもなかったりする。

それでも今回の
Can't Fight this Feelingのほか、

同曲と同じアルバムに
収録されていた

Live Every Momentという曲は
聴くたびなかなかいいなと
多少は思わないでもないでいる。

こちらはタイトル通りの
いわば人生そのものへの
アンセムみたいなものなのだが、


彼らの基本的な軽さというか、
お気楽さが
極めていい方に出ている気がする。

ラテンのリズムを目指したはずなのに、
それでもそこまでは
なり切れなかった感じが、

逆に結果として、
ほかの曲にはなかなか見つからない
独特の手触りになっている気がする。

――ああ、やっぱり、

ほめてるんだかクサしてるんだか
わからないいい方にしかならないなあ。

まあでも、だからこの方たち、
そんなに強力な武器もないまま、

それでもいつもそこに居続けた
そういう不思議なグループなのである。

特異なポジションだったと
いえばいえなくもないだろう。

そうして僕は
こんなことをつらつら書きながら、

なんだかまったくこのバンド、
『ジョジョ』の物語全編における
スピードワゴンの立ち位置と


何かがすごく似ているなあと
そんなふうに思わずには
いられなかったりしてもいる。

あの当時荒木先生が
そこまで読み切って、

あのキャラの名前を
このバンドから採用したのかどうかは
これは訊いてみないとわからないが、

まあでももしこの先
そんな機会が訪れてくれたら、

忘れずに質問してみようと
そんなことをつい考えてしまった
今回のテキストであった。


いやあ、今回はいつになく
難しかった気がするなあ。

嫌いな訳ではないので念のため。

大好きかといわれると
些か即答しかねるのは
それは本当ではあるけれど。


さて、では締めのトリビア。
今回はやや短めで。

同バンドの結成の地である
イリノイ州は
シャンペーンなる町には

彼らの栄誉をたたえ、
REOスピードワゴン通りというのが
あるのだそうである。

しかもこれが結構な
メイン・ストリートであるらしい。

そしてもちろん
この通り沿いにあるのが、

スピードワゴン財団である

――かどうかは


これもやはり荒木先生に
直接確かめてみてからでないと

迂闊に断言してしまっていい
種類のことでは
どうやらなさそうである。