ブログラジオ ♯166 Over and Over | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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さて、曲の趣ががらりと変わる。
時代もやや下ることになる。

ウィルソン・フィリップスである。

WILSON PHILIPS/WILSON PHILIPS

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90年代の幕開けとともに、
いきなりこの人たちが
登場してきた時には、

正直僕自身も狂喜した。

この手の音がやはり、
当時の一番の
ツボだったのである。

弦や鍵盤やそのほかの楽器の
澄んだ高音の装飾が、

どのトラックにも
満遍なくちりばめられていて、

しかもコーラスがきれいで、

さらにはアコギもちゃんと
肝腎なところで聴こえてくる。

スタカン(♯12)やEBTG(♯20
あるいはバーシア(♯118)なんかを
喜んで重宝していた身としては、


本当、こういうの
ずっと探してたんだよなあ、
みたいな気分であった。

これもまた、掛け値なしに
名盤といい切れる一枚である。


いやでも、久し振りに
じっくり繰り返して聴いてみると、

曲やヴォーカルがいいことも
もちろんなのだが、

音そのものがかなり凝って
作り込んであったのだな、と
改めて感心してしまった。


なんだか今更な気もするが、
ドンシャリのお手本みたいな
ヴァランスである。

そっか、こういう音が
当時流行っていたんだよなあ、と
まあそんなことも考えてしまった。

念のためだがドンシャリとは、
低音が重く、
高音がきらびやかに響くように、

両側の音域をやや強調して
トラックダウンしてある
ミキシングのやり方である。

もっともこの一枚、
たぶんその上を行っている。

僕の手持ちは90年代当時の外盤で、
リマスターとかそういう処理が
されている訳でもないはずなのだが、

ほかの同時期のアルバムに比べても
どの楽器もくっきりと
聞こえてくるよう
調整されている気がする。

音圧がやや高過ぎるかも
知れないキライは
ないでもないとは思いもするが、

ヴォーカルが埋もれることも
まったくないといっていい。

そっか、やっぱり相当丁寧に
つまりは十分なバジェットの下で


制作された一枚だったんだなあと、
改めてそうつくづく思ってしまった。

やっぱりあそこまでの
ヒットになるには、

それなりの理由というか
作り手側の十分な熱意が
注ぎ込まれていたと
いうことなのだろうと思う。


ところでこの作品、
改めてではあるけれど、

このウィルソン・フィリップスなる
女性三人のグループの
デビュー・アルバムである。


何がすごいってこの人たちの
三人が三人とも、
ある意味音楽的な
サラブレッドだったことであろう。

グループのネーミングからしてがもう
些かあからさまに過ぎるくらいなのだが、

まず最初のウィルソンとは
あのビーチ・ボーイズの
ブライアン・ウィルソンのことで、

メンバーのうちの二人、
カーニーとウェンディとは
彼の実の娘さんなのである。

そしてもう残る一人の
チャイナ・フィリップスの方は

ママス&パパスという
男女四人による編成の

だからサーカスみたいな
フォーク・グループが
昔アメリカにもあったのだけれど、

このうちの二人、
フィリップス夫妻の間に
出来た娘さんなのである。

さらにつけ加えると、当時の
ブライアン・ウィルソンの奥様、
つまり姉妹の母親なる方は、

60年代にハニーズという
やはりコーラス・グループで
活躍されていたシンガーで、


しかもこの両家、
昔から家族ぐるみで
親しかったらしく、

自ずとこの三人はほとんど
物心つくかつかないかの頃から、

一緒に過ごす時間が
少なくなかったということらしい。

チャイナとカーニーが同い年で、
ウェンディはその一つ下である。

もう三つ子みたいな
ものだったのではないかと思う。


気心が知れるとか
そういうレベルなど
ほぼすっかり
越していたのではなかろうか。

ここまで背景が揃ってしまえば、
コーラスが下手くそな訳など
絶対にないといっていい。

そしてその三人がたぶん
ハイティーンを迎える頃から、

一緒になって
ちゃんと曲を書いたりも
してしまい始めた訳である。

さすがに詳しい経緯までは
すぐにはわからないけれど、

だからこのグループと
契約できた時、
当時のレコード会社は

最初から相当
力を入れざるを得なかったに
違いないとも思うのである。

なんといっても新人ながら
新人とはいいきれないほど、

プロモーションに使える
文字的なフックが十分で、

しかもコーラスはきれいで、
さらには曲も十分過ぎるほどいい。


こんなの、担当者はもちろん
会社としても売らない訳には
決して行かないくらいのものだろう。

だからこそのこの
些か安直なグループの
ネーミングであったのかも
知れないとも思うし、

でもちゃんとそれに加えて、
できうる限り丁寧に丁寧に

アルバム一枚を仕上げてから、
世に出してきたのだと思う。

もちろんそういう
やや下世話な理由が
どこかにあったろうとはいえ、


音楽が素晴らしくなければ、
あれだけのヒットには

絶対にならなかったこともまた
疑いを挟む余地はないはずである。

本当、新人のデビュー作とは
到底思えない出来の一枚である。


実際彼女たちのデビュー曲で
アルバムの冒頭を
堂々と飾っていたHold Onは

結果として90年の
ビルボードの年間チャートの

トップに君臨する
超特大の大ヒットとなっている。

やや横道になるけれど、
週間でのトップの実績が
一週しかないにも関わらず、

年間一位の栄誉を手にしたのは、
このHold On以前には
ただ一曲しかなかったらしい。

のみならずさらにこの
セルフ・クレジットの
デビュー作からは

続けて計4枚のシングルが切られ
そのうちの二曲、
Release MeとYou’re in Loveとは


Hold Onと同様短期間ながら
ウィークリー・チャートの
トップにまで昇り詰めることに成功し、

ほか、Impursiveも四位を、
そして5枚目で最後のカットとなった
The Dream is Still Aliveも

勢いこそやや弱まったとはいえ、
それでも十二位を記録している。

つまりは収録曲の半数が
トップ20ヒットであり、

そのうち三曲が
一位獲得曲なのである。


つくづくものすごい一枚に
なったものだといっていい。

そこらのベスト盤顔負けである。

ちなみに本作、
それまでスープリームスが
保持していた記録を抜いて、

女性だけの編成による
グループの作品では、

当時全米で史上最も売れた
一枚にまでなったのだそう。

今はたぶんだから
ディスチャ辺りに
抜かれているのかもしれないが、

今回のリサーチでは
遺憾ながらそのデータにまでは
手が届かなかった。


さて、しかしながらその
並みいる大ヒット曲
計五曲を押しのける形で、

僕の今回のチョイスは
このOver and Overなる
トラックになってしまうのである。

これ一応、彼女たちの
自作曲でありながら、


半ば巡り合わせで
シングル・カットから

漏れてしまったような
形になった模様である。

いや、これは多分に
僕のひいき目ではあるのだが。

しかしこればかりは
遠慮せずに断言してしまうが、

LPでいえばB面頭、
アルバムの後半の開幕の位置に
置かれていたこの曲こそ、


実はこのアルバムの
ハイライトなのである。

いやまあ、もちろん
異論を認める準備はある。

――あるけどさ。

でもこの曲を最初に聴いた時に
本当、すごいの出てきたな、と
個人的には思ったものである。

冒頭で触れた狂喜の所以はまさに
この曲にあったといっていい。

カッコいいの一言に尽きる。

だから、Hold Onが
あれよあれよの勢いで
ヒットしている間も
僕としてはずっと

次のシングルはこの
Over and Overに違いないと

そう思いながら
期待に目を輝かせて
眺めていたものだった。

なんかそれが、
あれ、また違う曲なの、
みたいな肩すかしを、


だから計四回も、
食らわされてしまったことになる。

いや、まあ結果として、
全部ヒットしている訳だから、

今更文句をつけるつもりも
全然毛頭ないのだけれど、

でも、やっぱり
絶対これが一番名曲。

たぶん収録全10曲中
この曲だけ、なんというか


彼女たちの得意なというか、
それこそHold Onや
The Dream is Still Aliveに顕著な

アメリカ人が好きそうな、
アンセムチックな要素が
ほぼ皆無だったのが、

選から漏れた
理由だったのではないかと
まあ今も勝手に
そう思うことにしてはいるのだが。

でも少なくとも日本人の肌には
こちらが絶対合ったと思う。

で、まあ、アルバムの中で
いい位置でいいアクセントと
なっていることも本当である。

機会があれば是非。


さてその後この
ウィルソン・フィリップスは

92年のセカンド・アルバム発表後、
ほぼ解散状態になっていたのだが、

近年はまた、04年頃から、
三人でのライヴや

あるいはアルバムの制作なども
行っているようである。


売れ過ぎてしまったが故の、
メンバー間の葛藤みたいなものも

ひょっとしてあったのかも
知れないなとも思っていたけれど、

ある種の三つ子の魂的なものは、
どうやら健在だったのかもしれない。


では締めの小ネタ。
今回はやはりHold Onから。

さて、英文のWikiの
同曲の項目を眺めていたら、


なんだか意外というか、
思いもしなかった

タイトルに触れてある
記載を見つけてしまった。

いわく、この曲の一部が
本邦のアニメ作品

『機動戦士ガンダムF91』の
主題歌に流用されていると
書いてあったのである。

森口博子さんの歌唱による
『エターナル・ウィンド』なる
楽曲だそうで。

とりあえず一応聴いてみた。

――うーん。

いや、確かに
わかる気はしないでもないが、

さすがにこれを流用扱いするのは
些か難しいのではなかろうか。

それぞれの楽器の
音色の決め方が
なるほどかなりそっくりで、


確かになんとなく、
このウィルソン・フィリップスの

トラックの幾つかを
思い出させないでもない。

でも、メロディはもちろん
コードの進行も
ほぼそっくりという箇所は、
たぶんないといっていい。

むしろHold On一曲ではなく
アルバムの全体に

手触りを似せようと
試みたという感じであろう。


だから、この曲の制作サイドが
当時流行りに流行っていた

このウィルソン・フィリップスを
知らなかったとは
さすがに考え難いのだけれど、

そこからまんま
持ってきたということは

どうやら有り得ない感じである。

いや、まあ、こういうのは所詮
個人的な所感なので。
なるべく割り引いて読んで
いただきたくはあるのだけれど、

でも、だから、同曲に関し、
こういったいい方をしているのは

もっぱら英語の
サイトのみのようである。

つまり、八神純子さんのあの曲や、
あるいは岩崎宏美さんのあれのように

クレジットを変更しなければ
ならないまでの事態には

まあ成りようがないと
いってしまっていいかと思う。


ちなみにこの
『エターナル・ウィンド』に関しては、

一部ベルリンの
Take My Breath Awayとも
似ているという記述も
見つけたりもしたのだが、

こちらは本当に
幾ら何でもという感じであろう。

一小節分の符割りが
ちょっと似てるかなという感じで、

旋律はまるで別物である。



さて、思わずガンダムの名前が
出てきてしまったので

ついでながら久々に
ここで書いておくことにすると、

現在の『オルフェンズ』は
僕自身は、これ、
終わり方によっては

ある意味ファーストすら
越えてしまうのではないかと、

そのくらいの勢いで
毎週それこそわくわくと、
楽しませていただいている。

いや、本当、こういう
アプローチがあったのかと、

いわばそんな感じ。

詳しくはやっぱり
機会を譲ることにするけれど、

ラフタの殺され方とか、
本当それこそびっくりでした。

まさかガンダムで
あんなシーンを見ようとは。


最終回が楽しみなような
そうでないような。

こんな手触りも
久し振りかもしれません。