ブログラジオ ♯160 Goodbye to You | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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パティ・スマイスとおっしゃる。

まあ大体この方の話を
しようと思う時にはまず

パティ・スミスじゃないよ、と
念を押さなければ
ならなかったものである。

30年前からずっとそうなんだよなあ。

グレイテスト・ヒッツ/ドン・ヘンリー

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でもそういえば僕、
パティ・スミスって実は今まで
ちゃんと聴いたことないや。

なんか敬遠してしまった理由が
たぶんどっかにあったんだよなあ。

パンクというコピーに
積極的に手を出さなかったことは
間違いがないので、

まあそんなところだったのでは
なかろうかとは思うけれど。

イギー・ポップも実は
全部で五曲くらいしか知らないし。


しかしとにかく今回はだから
スミスではなく、
スマイスの方なのである。

もっともここでは
アメリカ編に入ってからすでに

ヴァン・ヘイレン(♯135)と
ドン・ヘンリー(♯149)の時に
ちらりと名前を出してはいるので、

あるいは多少の親しみを
持って下さっている方も
ないではないかな、と

むしろいてくれたら
相当嬉しいなあと
思ったりもしているのだが。


とにかくまあこの彼女、
パンチの効いたという形容が

おそらくは一番相応しいスタイルの
パワフルな声の持ち主である。

なるほどヴァン・ヘイレンの楽曲が
似合いそうといえばいえなくもない。

もっとも彼女の作品は、この前の
パット・ベネター(♯158)や
あるいはジョーン・ジェット、

もしくはプリテンダーズ(♯26)の
クリッシー・ハインドのような

こう、いかにもロッカーだよなあと
いったような手触りとは
少なからず違っている。

かといって
バングルズ(♯159)のように
ポップに振り切れている訳でもない。

その辺りがこの方の
ユニークさであると同時に

結局今一つメジャーに
なり切れなかった
理由であるのかもしれないとも思う。


さて、パティ・スマイスは、
まずはスキャンダルという
バンドと一緒に
シーンに登場している。


デビューは81年、
今回表題にした

Goodbye to Youを含んだ
5曲入りのいわゆる

ミニ・アルバムというべき一枚が
コロンビアからリリースされている。

こういう形をあちらでは
エクステンディド・プレイを略して
EPと呼ぶのが通例なのだそうで、

プリテンダーズが改めて
アメリカに紹介しなおされる
みたいな感じになった時にも、


この形式での作品が
リリースされていたことは

以前ここ(♭29)でも
触れているかとも思う。

僕自身はこの一枚の次作に当たる
今となってはこのバンド唯一の
フル・アルバムとなってしまった

THE WARRIORをまず手に取って
そこから遡る形で、

このセルフ・クレジットの
デビュー作へと至った次第。

これがなるほど、
実に佳曲揃いだったのである。

まあ五曲だけということも
理由ではあったのだろうが、

それにしても捨て曲がなかった。

ブライアン・アダムス(♯156)の
デビュー・アルバムなんて

渋いところからのカヴァーも
上手く自分たちのものにしていたし、


何よりこう、けっこうきっちり
今の(当時の)音になっているのに、

ちょっとノスタルジックというか
オールディーズを
聴いているようなノリが
絶妙に再現されていたのである。

ちなみにこのミニ・アルバム、
同じ形式のものの中では

史上もっとも売れた
一枚だったりもするのだそうで。

まあ競合する作品が
あまりないことも確かだけれど、


それでも一番はやっぱりすごい。

しかも、これは今回リサーチしてみて
僕も初めて知ったのだが、

実はボン・ジョヴィ(♯137)結成直前の
ジョン・ボン・ジョヴィが

ほんの一時期だけだけれど
このスキャンダルに
ギタリストとして
参加してこともあったのだそうで。

え、マジでか? と思って
慌てて確かめてみたところ、

なるほど83年頃の作成と思しき、
このミニ・アルバムに収録の
Loves Gotta Line on Youなる
トラックのビデオで

本当に彼が
ギタリストとして映っていた。

いや、若いし、デビュー当時の
あのヘア・スタイルでも
まだなかったりするのだけれど、

でも確かにこれ、ジョンだわ。

もっとも彼が弾いている音源は
たぶん正式には
残されてはいないのではないかと思う。


この時期の作品ではなるほど数曲、
ギターを三本入れて
録音されているものもあるのだけれど、

クレジットにはジョンではなく
レイ・ゴメスなる、

後にスティーヴ・ペリーや
アレサ・フランクリンの
アルバムにも参加することになったらしい

スタジオ・ミュージシャンの
名前が記載されているのみだし、

また、当時未発表だったトラックが
06年になって初めて
CD化されてもいるのだが、


クレジットこそはっきりしないものの、
録音時期が82年となっているので、

ここから察する限り
たぶん加入前のものであろう。

するってえとこの
ジョン・ボン・ジョヴィの参加は
いったいなんだったんだろうなあ。

まあとにかくである。

このEPのヒットを受けて
満を持してという感じで84年に

上でも少し触れたフル・アルバム
THE WARRIORが登場するのである。

同作のタイトル・トラック
The Warriorは同年
一応は七位にまで上昇しており、

これが彼らの最大の
ヒット曲であることは
確かに疑いを差し挟む余地はない。

――ないのだが。

この実績はもちろん、
ビデオなんかを見てみても、


なるほどこの時コロンビアが
このスキャンダルを売ることに、

かなり力を入れていたことは
決して間違いではないのである。

ただ基本のディレクションが、
ちょっとぶれていたのかなあと、

今だからいえることではあるが、
改めてそんな気がしないでもない。

スキャンダルというバンドの
一番の魅力というか、
強味というのは、


ザック・スミスなる
ギタリストの書く楽曲の、
古さと新しさの絶妙なブレンドと

そのメロディー・ラインを活かす、
パティのパワフルなヴォーカルだったと
僕としては思っているのだが、

この時はどうもたぶん、
このパティに関し、

どうにかアイドル的なイメージを
付与しようとしていたのではないかと
そんなふうに感じられるのである。

実際The Warriorのビデオは
僕も面白がって
あの頃繰り返し見たのだけれど、

ここにはバンドのメンバーが
一切登場させてもらっていない。

それどころか、たぶんMJ(♯143)の
Thrillerを意識せずには
いられなかったのかなとも思うのだが、

特殊メイクの人たちが
次から次へと登場してきて、

なんか『ブレードランナー』的と
いってしまってもちょっと違う、

奇妙にSFチックで終末的な、
そういう映像で
全体がまとめられているのである。


もちろんさすがにパティは
随所で映ってはいるのだが、

これが途中でとんでもない
奇天烈なメイクまで
させられてしまっているのである。

アラジン・セインの
安っぽいパロディみたいな感じ。

――何がしたかったんだろう。

いや、面白くはあるし、
曲は十分気持ちいいのだが。


セットもキャストもメイクにも
相当予算をつぎ込まないと、
出来上がってこない代物ではあるし、

なるほどMTVでも繰り返し
オン・エアされてもいた模様では
ありはするのだが、

さらに残念なことにこのトラックは
何故かソングライティングが
外部の作家によるものなのである。

なんかこう、売るための型に
どうにかはめようとしている、
そんな気配が透けて見えてきてしまう。

いや、当時はそこまでは
思ってはいなかったのだけれど。

さて、そうなると先に触れた
83年のジョン・ボン・ジョヴィの
突然の加入の背景も

なんとなく穿ってみたくなって
きてしまったりもするのである。

実際TOTO(♯152)の時に
ちらりと触れたようなことも
起きてしまうような業界なので。

そしてもう一つ残念だったのは、
翻ってみればこの
THE WARRIORという一枚、

前作のミニ・アルバムと
比較してしまうと


どうしても楽曲のレベルが
見劣りしてしまうのである。

彼ら自身の手による曲の中には
Say What You Willや
Maybe We Went Too Farなど
佳曲もあるにはあったのだが、

これがどれもいわゆる
ポップ・チューンではないため、

シングルにはしにくいなあとは
たぶん僕でも考えたと思う。

もっともThe Warriorは
パティのヴォーカルが


十分に生きるメロディー・ラインを
きっちりと構築しているので、

さほど間違っているとも思わないのだが
なんだかどうにも居心地が悪い。

それにしてもこの
ザック・スミスという人が、

才能に恵まれた
ミュージシャンだったことは
たぶん間違いないだろうとは思う。

そうでなければ、
あのジャーニー(♯144)からの

ニール・ショーンらの手による
楽曲の提供など
起きてはいなかったと思うのである。

ジャーニーの85年のヒット曲
Only the Youngは

実はこのスキャンダルによる
この時の同アルバムでの録音が
いわば初出だったりするのである。

同曲は基本はFRONTIERSの
いわゆるアウト・トラックで

この時点ではジャーニーの方には
これをきちんと
レコーディングして発表する意志は
どうやらなかった模様である。


ところが追ってこれを
翻させるようなエピソードが、
ジャーニーの側に起きてしまい、

後日には多少法的に
揉めてしまったような形跡もある。

このエピソードというのが
難病の少年に関わるような
そういう物語ではあったらしいのだが、

それ以上の経過が
現段階ではまだよく
わかっていないままなので、

今回はこの程度の紹介に
留めさせていただくことにする。


それからカヴァーの話になったので
半ばついでに続けてしまうと、

89年にロッド・ステュワート(♯41)が
トム・ウェイツの
Downtown Trainなる曲をカヴァーし、

これもまた超特大の
ヒットにしているのだけれど、

実はこのパティ・スマイスも
最初のソロ・アルバムで
この曲を取り上げていたりする。

こちらも実は一年ほど、
ロッドのヴァージョンに先行している。

でもこのDowntown Trainに関しては
ロッドの録音の方が明らかに上だなあ。

メロディーが本質的に持っている
切なさみたいなものは、

アレンジを含めてロッドの解釈の方が
よりよく出ていることは間違いがない。

ちなみに同曲収録のこの
パティ・スマイスの
ファースト・ソロ・アルバムは

フーターズのメンバーなんかが
かなり関わっていた模様。


だからまあ、
確かにこのラインなんだよね。

プリンスがスザンナ・ホフスに
目をかけるとしたならば、

パティ・スマイスの声は、
それこそニール・ショーンや
エディ・ヴァン・ヘイレン、

あるいはボン・ジョヴィあたりの
やろうとしていたことと
とても相性がよかったのだと思う。

早くからドン・ヘンリーも、
彼女には目をかけていたみたいだし。



そういう訳でなんとなくバンドは
THE WARRIORの後、

ほとんど自然消滅してしまい、
前述のようにパティは
どうにかソロとしてのスタートを切る。

やがてようやく92年になって
大御所ドン・ヘンリー(♯149)の
デュエット参加という

これ以上はない
バック・アップを得て

このパティ・スマイスはついに
全米二位を記録する、
大ヒットを放つことになるのだが、

それにしては日本では
やっぱりこの方、
あまりメジャーではないままだよね。

そこがずっと不満なんだけれど。

まあそんな感じで
とにかく気がつけば
マイナーなんだか
メジャーなんだかも

よくわからない存在に
なってしまっていた彼女なのだが、

僕は当時からずっと大好きで、
アルバムは全部
リアル・タイムで購入していたし、


映画『アルマゲドン』の
サントラに名前を見つけた時には
ずいぶんと喜んだものである。

さらにいうと少し前の10年頃に、
とある取材で日帰りで
名古屋に出張したことがあって、

その時同行してくれた
別冊カドカワ誌の
十も年下の担当編集者さんが

このパティ・スマイスを
ちゃんと知っていてくれた時には
本当に心底喜んだものである。

行き帰りの新幹線の中で
ずっとそんな話ばかり
していたように記憶している。


だからまあ、このエピソードが、
博多まで新幹線一緒に乗れますねって
時々ここでやっているネタの

大モトだったりするのである。

今回ネタを割ってしまったので
もうやらないつもりではあるが。


さて、最後にもう一つだけ
さらに余談みたいな話をしておくと

こちらは御存知の方も
多いだろうとは思われるし、

上のプリテンダーズの
エクストラの時にも
ちょっとだけ書いてはいるのだが、

本邦でも08年に同じ名前の
SCANDALという四人編成の
バンドが登場してきている。

こちらはいわゆる
純正のガールズ・バンド。

だからまあ、この命名のノリは
わからないでもないのだが、

僕としてはああ、
ついに名前使われちゃったなあ、


なんて思いながら
ちらちら見ていたりするのである。

でもこの彼女たちも
結構いい曲やってるじゃないかとは
実はひそかに思ってもいる。

もっとも音源を買うまでの応援は
さすがにしてはいないのだが。

そしてまあ、彼女たちには
いつかこちらの本家スキャンダルの
コピーをやってくれないかなあ、とか

そんなしょうもないことを
時々考えてしまってもいる。


もちろん単純に
話がよりややこしくなって
面白いんじゃないかっていう

そういう思いつき程度の
レベルのものでしか
基本的にはないのだけれど。

「さて、SCANDALの新曲は
スキャンダルのカヴァーです」

これだけでちょっと
インパクトあるんじゃないか?

そんなことを想像しながら
苦笑している訳である。

でもそれこそ今回触れた
Goodbye to Youとか
Loves Gotta Line on Youとか

あるいは同じ作品所収の
She Can’t Say Noとか

ユニークであると同時に
基本的にはいわば純正の
バンド・サウンドで
できあがってはいるので、

彼女たちのノリにも
決して合わなくはないだろうと
思っていたりもするのだが。

まあ、いうだけはタダなので。



さて、ではそろそろ恒例の
締めの小ネタに行きましょう。

今現在のこの
パティ・スマイスの伴侶は

実はあの
ジョン・マッケンローだったりする。

僕らから少し下にかけての
世代の人には
この方超有名だと思うけれど

もちろんテニス・プレイヤーの
あの彼である。

どういう紆余曲折があって
この二人がくっつくことに
なったのかはさすがに知らない。

結婚当時すでにパティの側に一人、
ジョンの側に三人のお子さんがいて、

その後さらに二人増え、
六人兄弟、八人家族という
大所帯にまでなった模様。

まあもちろん昔の話なので、
今はもう上から順次
独立してはいらっしゃるだろうが。

もっともこの点は恐縮ながら
まだウラは取れておりません。

というか子供さんのことまでは
詳しいことはネットだけでは
さすがに拾えはしないようです。